第22話:最初の交戦
その朝、霧が晴れると同時に、太鼓の音が南から響いてきた。
ムナリス軍が動き出したのだ。
「敵軍、前進開始!」
観測所からの報告が塹壕に伝わり、兵たちが一斉に銃を握った。
街道を埋めるように進んでくるのは、槍と盾を構えた歩兵の波だった。後方には火縄銃に相当する旧式火器を携えた部隊も見えるが、距離をとっての射撃で要塞を崩す力はない。
ムナリスの老いた戦術は、この近代的な要塞戦において明らかに遅れていた。
「……来たか」
オレは胸の奥で呟いた。
ヴァルシェンであればまず長距離砲兵が先制射撃を浴びせていただろう。だが、ムナリスにはその力が薄い。ゆえに近づかねばならない。
それこそが、オレが待ち望んだ瞬間だった。
「第一列、狙撃準備!」
マクシムの声が響き、小銃が一斉に構えられる。
「撃て!」
乾いた銃声が轟き、先頭の歩兵列が崩れた。
続けて機関銃座が火を噴き、数十人単位で兵が地に伏した。鉄条網の手前で突撃の勢いは止まり、押し寄せる兵が次々に積み重なっていく。
「迫撃班、斉射!」
オレの号令とともに短砲身の砲弾が唸りを上げて飛び、敵陣の中央に落ちた。爆炎と土煙が舞い上がり、叫び声が谷にこだました。
要塞の牙が唸りを上げるたび、ムナリス兵は倒れ、前進は泥沼に変わっていく。
だが、敵の後方からはなおも鼓音が響き、兵が押し寄せてくる。
「……愚かだ」
オレは歯を食いしばった。
「ただ突撃すれば要塞が落ちると思っている。旧時代の戦い方だ」
だが同時に、この血の消耗こそが必要でもあった。
——ムナリスの主力、魔法師部隊を引きずり出すために。
アリシアが隣で静かに言った。
「コウくん。まだ魔法師は姿を見せていない」
「分かってる。だが、これだけ兵が屍を重ねれば、奴らも必ず動かざるを得ない」
オレは視線を遠方に凝らした。
この戦争に勝つためには、ただ兵を殺すだけでは足りない。
魔法師部隊を空から叩き、大打撃を与えなければならない。
要塞戦とは、敵を誘い込み、消耗させ、そして決定的瞬間に叩く戦いだ。
そのために、オレたちはここに籠ったのだ。
「全軍、持ち場を死守しろ! 敵を引きつけろ!」
オレの声が響き渡り、兵士たちは再び銃を構えた。
鉄と炎の咆哮が峡谷を満たす。
ムナリス軍は要塞の牙に喰い荒らされながらも前進を試みる。
その血の流れの果てに、必ず奴らの「切り札」が姿を現す。
——初動の交戦は始まったばかりだった。




