第20話:情報戦と工作
模擬戦から数日後、ルミナス要塞には外の空気が流れ込んできた。
周辺の国々がどんな反応を示しているか、その断片的な情報が、商人や旅人、時には評議会を通じてオレの耳に届いたのだ。
まず、ヴァルシェン王国。
「中央平野は要塞を築いたらしい」との報が伝わると、彼らは冷笑交じりに「強力な長距離砲が存在する時代に、あまりにも古めかしい」と評したという。
彼らの戦史には、すでに砲兵による要塞粉砕の経験がある。要塞信仰の愚かさを最も知る国だからだ。
だが同時に、「炎龍を討った男が、その旧い戦術に固執するとは」との驚きも混ざっていた。
次にリュミナリエ。
彼らは商人らしく計算高かった。
「要塞など膨大な工数を費やしても無意味」と言いながらも、「しかしもし守り切れば、ムナリスとの交易路は完全に遮断され、中央平野という流通経路を介させずに、結果的にリュミナリエにとって有利な交易状況が現出する」と。
彼らは笑いながら、戦況の推移を商機として注視している。
カルドミアは誇り高い国だ。
「要塞で国を守る? そのような戦術が通用するものか」と鼻を鳴らす一方で、やはり「炎龍を討伐した者が次に何を成すのか」に強い関心を寄せていた。
彼らはオレを試している。要塞の価値ではなく、“人としての価値”を。
そして、ムナリス王国。
奴らはほくそ笑んでいるらしかった。
「やはり所詮は辺境民の田舎者どもだ。今さら要塞戦とは。空を飛ぶ魔法師部隊の前では、壁も塹壕も無力だ。城塞に籠るのは臆病者のやることだ」
——それこそが狙いだった。
要塞戦が「旧い戦術」であることはオレも知っている。
現実世界で学んだ歴史はそれを証明していた。
だが、このラグナの世界においては「空を制する魔法師」を叩けるならば、要塞はまだ意味を持つ。
そして、魔法師を同時に一気に叩ける可能性があるのはこの世界で恐らくはオレだけだ。その一点を、奴らは理解していない。
アリシアと共に文書を広げながら、オレは低く呟いた。
「……奴らは要塞を笑っている。いいさ、笑わせておけ。俺たちを侮るほど、彼らは深く踏み込む」
アリシアは静かに頷いた。
「そして踏み込んだ時、彼らは知るのね。炎龍を討った力が、ただの偶然ではなかったって」
そうだ。
炎龍を倒したという事実は、ムナリスにとっては信じ難い幻想に過ぎない。
だが、ヴァルシェン、リュミナリエ、カルドミア——他の諸国にとっては、その事実がある限り、どこまでいっても未だオレの存在を軽視はできない。
だからこそ彼らは今、注視している。
この一戦が、中央平野という新勢力の生死を決めるだけでなく、諸国の勢力図をも揺るがすことを。
オレは拳を握りしめた。
「……これは戦場だけの戦いじゃない。情報戦だ。奴らに“旧い戦術に固執した愚者”だと思わせ、その先で真実を突きつける」
アリシアが微笑む。
「光は、闇に侮られた時にこそ輝く。——ルミナス要塞の名にふさわしい戦いになるね」
その言葉に、胸の奥で熱が灯るのを感じた。
——いずれムナリスが進軍してきた時、中央平野のすべてが試される。
それは“理不尽”に抗う第一の戦いであり、世界を揺るがす幕開けでもあった。




