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第19話:模擬戦と戦術訓練

 その日、ルミナス要塞の前線壕では、初めての大規模な模擬戦が行われた。


 「第一中隊、前進!」

 マクシムの怒号が飛ぶ。農夫や流民出の兵士たちが泥に足を取られながら塹壕へと駆け込む。銃列を構え、ボルトアクション式の小銃を揃え、訓練用の標的壕に向けて一斉に斉射を放った。


 「撃ち終えたら交代だ! 二列目、前へ!」

 弾薬を込める手はまだぎこちない。だが、以前のように手を震わせて装填を落とす者は減った。


 後方の堡塁からは魔導機銃が轟音を立て、射線を横一文字に切り裂く。藁束で組まれた「突撃人形」が前進すると、機銃手たちが照準を合わせ、あっという間に木屑へと変えた。


 「迫撃班、準備!」

 短砲身の投射器に弾を込め、観測壕の伝令が狼煙符を掲げる。

 「標的壕、右二十!」

 号令と共に砲弾が唸りを上げて飛び、標的の土嚢陣地を爆散させた。


 土煙が立ち込め、兵士たちは歓声を上げた。

 「やったぞ!」

 「これならムナリス軍も怖くねえ!」


 その顔は泥だらけで疲れ切っていたが、確かに兵の自信が芽生え始めていた。


 だが、オレとアリシアの視線は別の方向に注がれていた。


 観客に紛れ、要塞建設を見守る民の中に、不自然な影がいくつもあった。

 粗末な衣に身を包みながらも、手の所作や歩き方が「兵」に慣れている。視線の運びは、まるで地形や射線を読み取るかのようだ。


 「……見えるか、アリシア」

 オレは低く囁いた。


 彼女は静かに頷いた。

 「ええ。ムナリスの手の者が三人、それに……リュミナリエかカルドミアからの“観察者”もいるわね」


 「やはり来たか。俺たちの力を測りに」

 「でも、彼らが帰れば必ず報告する。——つまり、こちらの戦力を示す“宣伝”にもなる」


 オレは短く笑った。

 「泳がせるか。どうせ噂は広まる。なら、こっちの覚悟を見せてやればいい」


 アリシアも同じ笑みを返す。その横顔は戦場を前にしてもなお柔らかで、しかし女神のごとき威厳を帯びていた。


 夕刻、模擬戦が終わった。兵士たちは泥と硝煙にまみれ、膝をついて息を吐いていた。

 だがその眼差しは、確かに「兵の目」になっていた。


 オレは立ち上がり、声を張った。

 「これがルミナス要塞の力だ! 今日からお前たちは“ただの民”じゃない。——この砦を守る軍だ!」


 兵たちが雄叫びを上げる。

 その背後で、不審者たちの影もまた静かに立ち去っていった。


 ——やがて彼らの報告が、ムナリスにも、そして諸国にも届くだろう。

 だがそれこそが、この日の訓練の最大の成果だった。


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