第18話:初訓練
要塞の完成から数日後、ルミナス要塞は再び熱を帯びていた。だが今度響いているのは槌音ではなく、銃声だった。
「構え──撃て!」
マクシムの号令が峡谷に轟き、兵列を組んだ男たちが一斉に小銃を放った。火薬の閃光と硝煙の匂いが立ち込め、標的の木盾が穴だらけになった。
「遅い! 装填に手間取れば敵に撃ち殺されるぞ!」
「二列目、前に出ろ! 撃ったら交代だ!」
農夫だった男が震える手で弾を込め損ね、薬莢を落とした。
「くそっ……!」
その腕をファルクが掴み、怒鳴る。
「お前がもたつけば隣の仲間が死ぬ! ここは畑じゃねえ、戦場だ!」
兵たちの顔は恐怖に強張り、汗で泥に濡れていた。
銃列の背後では、重機関銃に相当する「魔導機銃」が据えられていた。三人一組で操作し、給弾、冷却、照準を分担する。
「連射は五秒で切れ! 銃身が焼き付くぞ!」
傭兵上がりの指導兵が叫ぶ。弾倉を差し込んだ青年が必死に頷き、汗を拭った。
別の陣地では迫撃砲の訓練が行われていた。短砲身の投射器に砲弾を込め、角度を調整する。
「照準は観測所からの伝令待ちだ! 勝手に撃つな!」
伝令の少年が狼煙符を掲げると、砲手が合図に従って発射した。
轟音が谷を揺らし、土煙が舞い上がった。
オレはその全景を高台から見渡していた。
畑を耕していた手が、いまや小銃を握っている。
子を育てていた腕が、いまは弾薬箱を運んでいる。
……人はここまで変われるのか。
「だが、これは変わらせたのはオレだ」
苦い思いが胸をよぎる。彼らを兵にしたのは、オレが独立を選んだからだ。
その時、アリシアが隣に歩み寄り、柔らかく言った。
「コウくん。人はね、自分で選んだと思えるとき、一番強くなれるの」
「……皆が選んだ、か」
「そう。ここで銃を撃つ彼らは、もう“流されて戦う民”じゃない。自分で未来を守る兵士だよ」
その言葉に、胸の苦さがわずかに和らいだ。
夕刻、訓練は一区切りを迎えた。
兵たちは泥と硝煙にまみれ、膝をついて肩で息をしていた。
だが、その表情には確かな誇りが宿っていた。
オレは声を張り上げた。
「今日からお前たちは、ただの農夫でも流民でもない! この平野を守る兵だ! ——ルミナス要塞の兵だ!」
「おおおおおっ!」
雄叫びが山々に反響し、要塞全体を震わせた。
アリシアは群衆の中に立ち、微笑んでいた。夕陽に照らされたその姿は女神のようであり、兵士たちはその光に導かれるように拳を掲げた。
——こうして、ルミナス要塞はついに「民の砦」から「兵の砦」へと変貌を遂げたのだった。




