第15話:要塞建設の始動
布告から数日後、南方街道の要衝では、早くも建設の槌音がこだましていた。
〈天地創造〉によって形作られた基盤は、すでに巨大な岩壁と堡塁の輪郭を描き出している。だが、それはまだ“骨格”にすぎない。砲撃を耐える厚みを持たせ、兵が身を潜める塹壕を掘り、補給を支える倉庫を築き、外周に鉄条網を張り巡らせなければ、本物の要塞にはならない。
「岩盤は固いぞ! 魔法で穿った坑道を広げろ!」
「ここに観測所を置け! 敵の動きを見張るんだ!」
「鍛冶屋は弩砲台の架台を急げ!」
怒号と作業音が峡谷全体に響き渡る。
農夫たちは鍬を置き、ツルハシを振るった。
「畑を耕すのと同じだ。土を掘れば未来が耕せる!」
額に汗を滴らせながら、彼らは地下壕を掘り進める。
傭兵たちは荒々しくも器用に鉄条網を張り巡らせ、杭を打ち込み、罠を仕掛けていく。
「敵をここに誘い込んで血の雨を降らせてやる!」
その笑い声は恐怖を誤魔化すためでもあったが、確かに士気を高めていた。
職人たちは石を積み上げ、弩砲台の架台を組み上げる。
木槌の音が響くたび、要塞は実際の“戦場の顔”を得ていく。
女や子供たちも、決して手を止めてはいなかった。
女は煮炊きに汗を流し、作業する者に食事を振る舞う。
子供たちは水を運び、石を並べ、時に歌を口ずさみながら労役を軽くする。
オレはその全景を高台から眺めていた。
まるで巨大なゲームのボードを俯瞰しているようだ。
かつて机上でマップを設計し、NPCに行動パターンを割り振った日々を思い出す。
——だが違う。
ここにいるのは血の通った人間であり、間違えば命を落とす者たちだ。
「……これはもうゲームじゃない」
呟きながら、オレは自らスコップを手に取った。
「だが、これは俺が自分で決定した全く新しいオリジナルシナリオなんだ。だから、最後までオレ自身が責任を持つ」
傍らでアリシアが笑みを浮かべる。
「コウくん、やっぱり泥だらけになるんだね」
「当然だろ。口だけで指示するリーダーに、人はついてこない」
そう言って塹壕に足を踏み入れ、他の男たちと共に土を掻き出した。
夕刻、山の稜線に陽が沈むころ、要塞線の一部が形を見せ始めた。
厚い石壁の外周に鉄条網が絡みつき、堡塁には弩砲の影が据えられる。
地下壕は蝋燭の明かりに照らされ、兵や民が休む場所となり始めていた。
ファルクが肩に土埃を浴びながら叫ぶ。
「見ろ! これが俺たちの砦だ!」
その声に人々が応じ、どっと歓声が上がる。
アリシアはその光景を見つめながら、静かに言った。
「これは、人が自分の意思で積み上げた“未来”そのものだね」
オレは頷き、胸の奥で拳を握った。
「そうだ。ここは血と汗の要塞だ。——必ず、この平野を守り抜く」




