第13話:民への布告
要塞計画がまとまった翌日、オレとアリシアは湖畔の広場に立った。
評議会が触れ回ったとおり、数万の民衆が押し寄せ、湖畔を埋め尽くしていた。農夫も、商人も、流民も、傭兵も、老いも若きも。誰もが胸の奥に恐怖と期待を同時に抱きながら、未来を見極めようと目を凝らしていた。
高台に立ち、オレは声を張り上げた。
「皆に伝えたいことがある!」
ざわめきが広がり、やがて静まった。
オレは深く息を吸い込み、言葉を続けた。
「ムナリス王国は必ずこの平野を奪いに来る。だが、侵攻路は一つ。南方の街道だ。——ならば我々は、その街道を“鉄壁の要塞”に変える!」
群衆の間からどよめきが起こる。
「要塞だと……?」
「民を労役に駆り出すのか?」
「せっかく戦のない場所に移住できたのに……」
その声を聞き、オレは力強く首を振った。
「勘違いするな! 要塞を築くために、民に過大な負担を強いるつもりはない。礎となる要塞の骨格は——オレとアリシアが〈天地創造〉で築く!」
群衆が一斉に息を呑んだ。
アリシアが前に進み出て、透き通る声を響かせる。
「私たちが創るのは、石壁一枚ではありません。地下に防御壕を張り巡らせ、厚い岩盤を固め、前線の堡塁と後方の補給庫を連ねる“縦深防御”です。そこに皆の手で石を積み、鉄条網を張り、投石器や弩砲を備えれば、たとえ数万の軍勢であっても簡単には突破できないでしょう」
かつて大連に旅行に行った折に見た、旅順の光景が頭に浮かんでいた。
近代の要塞は「小さな砦の集積」であり、丘の一つ一つが砲台で、地下壕が縦横に繋がる。突破には血の海が必要だ。
この世界で築こうとする要塞線も同じだ。——ただ、ここにはアリシアとオレの〈天地創造〉がある。石材を切り出すために数年を要す工事を、一夜で骨格まで成すことができる。
オレはアリシアの手を握り、群衆を見渡した。
「俺たちは命じるだけの支配者じゃない。誰よりも重い負荷を自ら背負う。見せよう、天地創造の力を!」
互いの魔力が結びつき、魂が共鳴する。アリシア単独では小さな変動にすぎない力が、オレとの結びつきにより、オレの持つ膨大な魔法量がアリシアを介し、平野全体を越えて南方の山岳にまで届く。
空気が震え、光が奔り、大地の奥深くから轟音が響いた。湖面が波立ち、群衆が悲鳴と歓声を入り混ぜて上げる。
「……何かが起きている……!」
「山に砦が築かれているんだ!」
視界には映らない。だが音と震動が確かに告げていた。はるか南方、街道の要衝に厚い石壁と堡塁の骨格が築かれたことを。
アリシアが大きく息を吐き、オレも片膝をついた。血の気が引くほどの消耗が全身を蝕んでいたが、顔を上げて声を張った。
「見ただろう。俺たちは命を削って、この地を守る! だから皆も力を貸してほしい。堡塁を補強する者、地下壕を掘る者、鉄条網を編む者、畑を耕す者。どんな力でもいい。俺たちと共に、この要塞を完成させてくれ!」
一瞬の沈黙。
だが次の瞬間、広場全体が爆発したように声が上がった。
「やろう! 俺たちの手で!」
「畑を耕す! この地を飢えさせはしない!」
「俺は鉄を打つ! 武器を鍛える!」
「俺は石を積む! 壁を強くする!」
歓声は怒涛のように広場を揺らした。
アリシアが隣で微笑み、囁く。
「……コウくん。人は、自分で選んで動くときに一番強いんだよ」
オレは小さく笑い、拳を掲げた。
「この平野を守るのは俺たち全員だ。——さあ、要塞を築こう!」
群衆は一斉に拳を突き上げ、湖畔は地鳴りのような熱狂に包まれた。
こうして中央平野を守る南方要塞建設は、「命令による労役」ではなく「人々自身の意思による大事業」として幕を開けた。




