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第11話:要塞の構想

 評議会の重苦しい空気の中で、オレは地図の上に指を置いた。

 「次に必要なのは、防衛の要だ。……アリシアが築いてくれた街道沿いの山岳部に縦深構造をもった要塞を築く」


 マクシムが大きく頷いた。

 「その通りだ。山岳地帯を固めれば、平野を防ぐ盾になる。……だが、コウヤ、要塞は“鉄壁”ではないぞ」


 彼の言葉に、オレは静かに頷き返した。

 オレの脳裏には、現実世界で学んだ数々の歴史の断片が浮かんでいた。


 クリミア戦争。砲兵の進歩によって古い石造りの要塞が粉砕された時代。しかし、その教訓から、やがで鉄筋とペトンで固める高い防御力を持つ近代要塞が現れる。


 日露戦争における旅順要塞。数十万の兵が塹壕に籠もり、死屍累々の山を築いてなお、鉄と弾丸の前に人命は消耗品と化したが、強力な防護能力を持った要塞陣地からの機銃攻撃がもたらした惨禍と言えるだろう。


 そして第一次世界大戦。塹壕線が大陸を切り裂き、機関銃と榴弾が戦場を停滞させた。やがてタンクが登場し、この塹壕戦を突破する戦術が確立されてきたが、そもそも塹壕戦は永久要塞ではない。従って第二次世界大戦が開始されるまで、要塞は引き続き有効性が高いと信じられていた。


 こうした要塞への信仰が決定的に揺らいだのは、第二次世界大戦初期のナチス・ドイツによる電撃戦において、オランダやベルギー、フランスが用意していた永久要塞が、いとも容易く陥落した事実によるものだ。それは戦場が3次元化した事による。航空機による上空からの攻撃や、航空機により輸送された落下傘部隊による奇襲は、従来の2次元の戦場を想定していた要塞を完全に無力化してしまったのだ。


 「……要塞は万能じゃない」

 オレは低く言った。

 「どんなに厚い壁も、空からの攻撃には無力だ。塹壕も要塞も、上空からの攻撃には無力だ」


 場が静まり返る。

 マクシムもリオナも、重苦しい顔でオレを見つめていた。


 「だが——」オレは言葉を続けた。

 「この世界で空から襲いかかってくるのは、魔法師部隊に過ぎない」


 アリシアが小さく頷く。

 「つまり、コウくんが言いたいのは……魔法師部隊さえ無力化できれば、要塞はまだ有効な戦略だということだね?」


 「そうだ」

 オレは机を叩き、皆の視線を受け止めた。

 「逆説的だが、オレがラグナを纏い、敵の空を支配する魔法師たちを叩けば、この世界において要塞は充分に機能する筈だ」


 重苦しかった空気が、わずかに揺らいだ。

 マクシムが鋭い目を光らせ、ゆっくりと頷いた。

 「……面白い。つまり要塞は“餌”だな。敵を誘い込み、魔法師を炙り出し、コウヤ殿がそれを叩く」


 ファルクが拳を握る。

 「なら俺たちは要塞を守り抜いて、敵を引きつければいいってことか!」


 リオナは眉をひそめながらも言った。

 「でも……それはコウヤにすべてを託す戦い方よ。もし倒れたら、要塞はただの棺桶になる」


 オレは彼女の言葉を受け止め、深く息を吐いた。

 「そうだ。リスクはある。だが、オレは上位世界において“要塞がどのような経緯を辿って無効化されてきたのかの歴史”を知っている。そして、この世界に来たオレしか、それを知っている者はいない。……つまり、オレだけが、その役割を果たせるというものだ」


 静寂の中、アリシアが微笑みを浮かべた。

 「あなたが空を守るのなら、要塞は人々の未来を守る砦になる。……きっとね」


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