わかってる、いつか、こうなるってのはわかってた。
両者の目が合ったとしても小さな獣は何処かに逃げることなく少女の足元に居続けていた。
何も言わずに少女を見上げる小さな獣が何用なのかと、少女は、小さな獣へと目線を合わせるようにと腰をかがめると、少女は目の前にいる小さな獣に見覚えがあることに気が付いた。
「…ぁ、君か~」
目線を合わせても逃げない小さな獣の頭にゆっくりと手を伸ばし、指先を当てると小さな獣は触れられたとしても逃げようとしなかった。
少女もまた、小さな獣を可愛がるようにくすぐると小さな獣は目を細め少女の指に身を委ねた。
小さな一人と一匹の微笑ましい光景…
もしこの場に絵描きがいればきっと描き残してしまっていただろう。
そんな神秘的な光景だとしても、少女はいつも通りに微笑みながら小さな獣の体を探るように触っていく。
「えっと、君は~…そうだった、足。君は足だったね、足は大丈夫?」
少女が獣の後ろ足に触れると獣は嫌がることも無く少女に触れられ続けている。
少女も身を委ねてくれるのが嬉しいのか小さくにへへっと笑いながら触診を続けていく。
「んー…私、そういうのよくわからないけど、大丈夫、そう、かな?」
少女は首を傾げながらも、記憶を頼りに触診していくが、前回、骨まで見えてしまっていた傷口が見当たらなかった。
その事を確認してから、丁寧に小さな獣から手を離すと獣は少女の腕を登っていき肩の上まで登ると自身の額を少女の頬に擦り付けてくると少女はくすぐったいのか小さく笑いながら
「なーにー?お礼?にへへ。嬉しいけどさ、このままだと、私が寒さで倒れちゃうからね?寒いから服きるよー?」
いつの間にか震えていた体も震えが収まっており、少女は縛っていた紐をほどき、小さな獣を肩に乗せたままお構いなしに服を着ていく。
小さな獣もまた少女の動きに合わせて彼女の着替えの邪魔にならないように少女の体の上を動き続けた。
少女の体の上を駆けまわる小さな獣、きっと着替えが終わるころには何処かに行くのだろうと少女は考えていたのだが
少女の予想は外れた。
小さな獣は少女の肩の上に居続け、自身の存在をアピールするかのように定位置をキープし続けていた。
そんな小さな獣に少女は人差し指を小さな獣へと近づけていき
「にひひ、君~さては遊びたいだけだろ~」
柔らかいお腹へと指を埋めるようにしてからくすぐるように触ったとしても小さな獣は嫌がるそぶりもなく、少女にされるがままでいた
のだが…
唐突に小さな獣は少女の肩から下りて少女から離れ何処かへ向かおうとした。
その姿を見て少女は小さな獣が満足したのだと感じ「遊びは終わり?」確認するように小さな獣に声をかけると小さな獣は少女から一定の距離を離れようとしたので、少女は離れようとする獣にお別れの挨拶をしようとしたのだが
どこか様子がおかしかった。
そのまま森の奥へと帰っていくのかと思ったのだが、何故か小さな獣は一定の距離を保ち少女から離れようとしなかった。
そんな小さな獣の動きに少女は疑問を抱き、首を小さく傾げ
「ん?どったの?」
小さき獣へと語り掛けるが小さな獣は言葉を知らない、何かを示すように一定の距離を保ちながら少女を見つめ続け動くことがなかった。
不可思議な仕草…どうしてそういった行動をするのか、少女は小さき獣が何を求めているのか直感で理解した。
きっと、私に用事があるっということを…
つまりは、同じことをして欲しいのだと感じ
少女はこんな日がいつかはやってくるのだと覚悟を決め
「いいよ。次は誰?」
笑顔を小さき獣へと向け、願いを聞き入れる笑顔で頷くと、それが小さき獣へと伝わったのか、小さき獣が目的の場所へと誘うかのように奥へと少しだけ進み、少女が付いて来ているのかと確認するように少しだけ前に出ては少女の方へと振り返っていた。
少女はその動きを見て此方の意志が伝わったのだと判断し、小さき獣に誘われるようにと森の中を進んでいく、一歩目だけは重たくあったとしても、一度、駆け出した足は軽く感じた。
…そう、少女は、この先に待っている出来事、その先すらも覚悟を決めて大地を踏みしめていく。
少女の先を行く小さき存在が進む道は少女にとっては少々進みづらかった。
何故なら、小さき獣が進む道は全て獣道であり尚且つ、小さき獣が進む道、つまりは、此方の大きさなんて考慮してくれるわけもなかった。
少女は小さき獣を見失わないように前へ進むことだけに集中したせいか音を派手に出しながら進んでしまった。
草をかき分け、行く手を阻む枝を腕で払い、時には折り、踏めば枯れ枝を豪快に圧し折ってしまっていた。
音を派手に撒き散らしながら草木をかき分けて進んでいくと、少女の視界には目を背けてしまいたくなる色が地面に混在していた…
そう、ある地点から地面に血の痕跡が残っていたのだ。
赤い赤い泥のような粘りっ気のある液体をみて少女は一瞬だけ青ざめてしまうが、頬を叩き自身の心を強く保とうとし、肩からぶら下がっている鞄の紐を握り締め下唇を甘く噛みながら更に足へと力を込め先へと進んでいった。
草木をかき分け続けていくと、ふと、小さな獣が立ち止まった。
少女もまた足の勢いを止め視線を小さな獣からその先、上へと視線を変えると…
そこには自分と同じくらいはありそうな背丈に、顔の長い生き物が太い足から血を流していた…
血を流していながらもどこかへ進もうと必死に足を引きずっている。
ただ、そのどこかがわからないのか、鼻先は常に右へ左へと彷徨っているし、前を向いて必死に足を引き何処かへ運ぼうと足を前に出そうとはしているのだが、前に出された前足は右へ左へと迷ってしまっていた。
その仕草動き、その全てが物語っていた、錯乱してるのだと…
そう、少女の前には、今もなお太い足が血を流したままだというのに足を引きずってでも必死に逃れようと生きようと藻掻くように歩いている大きな獣がいた。
その姿を見て少女は直ぐにでも駆けつけて助けるべきなのだと判断したが、少女は走ることをやめた。
何故なら少女はその生き物がとても臆病な生き物なのだと知っていたからだ。
そう、少女はその獣が何という獣なのか、街でも見たことがあり、また、故郷でも飼育している人がいたので名前や性格もある程度知っていた。
その為、傷ついてるとはいえ迂闊に近寄ればこちらが痛い目にあってしまうと少女は歩を緩めると、それを察してくれたのか小さな獣が大きな獣の近く、足元へと駆け寄った。
すると、大きな獣は小さな獣に何か言われたのか、少女の方へと向きを変え、驚いたことに少女の方へと足を引きずりながら近づいてきた。
この大きな獣は、街では馬と呼ばれている獣だ。
その性格は非情に臆病だと教えられている、ちょっとしたことで逃げてしまう、そんな生き物。
故に、初めて見る人物に近づいてくることなんてありえない、しかも、傷ついているのに…
この現象が普通ではないありえないのだと少女も理解していた。
有り得ないとわかっていても、目の前で起きている出来事が真実である。
馬は初めて見る人物に助けを求めるように足を引きずりながら近づいてきたのだから。
賢く、されど、臆病である、そう教えられていた生き物が、傷つき逃げることが困難な状況であるのだと自分自身も理解し、こんな状態で初めて見る人物に近づくのがどういう意味なのか…馬は分かっている、その覚悟を少女は直ぐに理解したのか馬へと駆け寄った。
馬に駆け寄り直ぐに傷跡を確認すると、後ろ足には、引っかき傷なのか、はたまた、鋭い牙の先によって切り裂かれたのか、深い傷が刻み込まれていた。
直ぐにでも治療をしたいのだが、その傷口を見てどうしてこうなったのか察し、少女は傷を処置するよりも、まずは…周囲へと警戒するように見渡し始めた。
馬もまた、少女の動きに呼応するかのように怯え、自身が大地へと痕跡してしまった目印、いや…その向こう側へと視線を向けていた。
それを見た少女は思考を巡らせた
生きる為に。
『どうしよう、ここだと、襲われちゃう、うっかり!怖いやつの近くまできちゃってる、どうしよう、ここだとだめ、私だと絶対に勝てない、みんな食べられちゃう』
少女は思考を巡らせながら周囲を観察していると歩いてきた痕跡に目が留まり
『あ、ダメだ、血!あいつら、血で追ってくる!このままじゃ、追い付かれる。だったら!血を隠して、すこしでもあいつらが追ってこない場所までいかないと…ここからだと、街!街の方にいけば、あいつらは街の狩人さん達が怖いから追ってこない!なんとか、何とかそっちまでいけないかな?』
少女は足元にある見たくない真っ赤な、いいや、赤黒い液体に猫が自分の痕跡を隠すように足で砂をかけ少しでも痕跡を消し始めた。
痕跡をある程度消してから、馬の首を撫でると馬も少女がどうしたいのか直ぐに理解したのか少女の後をついて行こうとしてくれた。
傷ついた馬を街の近くにまで歩かせようと進むべき方へと向きを変え馬を歩かせはじめた…
それも出来る限り急いで…
少女は、その場から離れつつ、出来る限り地面に残された痕跡を消しながら馬のすぐ後を寄り添うように歩き続けた。
少しでも早く、出来る限り痕跡を残さないようにして…
少女と小さな獣は馬を襲った獣のテリトリーから出ようと生きる為に必死に動き続けた。
だが…
少女が思っていたよりも…
相手は狡猾だった




