だからといって、私は…見捨てる事なんてできない、覚悟は決めてた
少女と背丈が然程、変わらない馬の足取りが徐々に遅くなっていくにつれ…少女の耳や共に歩く獣達の耳にはある音が伝わってきていた。
そう、この森の中に住まう強者の息遣いを…
少女たちは自分達に迫ってくる気配から少しでもすこしでも!距離を開けようと必死に街へと向かおうとするのだが…
少女が思っている以上に歩を進める速さが足りなかった…
足が遅くなってしまう理由は、後ろから迫ってくるプレッシャーの影響なのか、それとも、馬の怪我が深刻なのか、少女にはわからなかったが、今わかることは、徐々に、徐々に…
気配が近づいてきている事だけだった。
少女は近づいてくる気配に焦りを感じながらも、思考の中ではいつ襲われても対処できるようにと身構えていた。
身構えて行動していると、突如、馬が前のめりに倒れ込んでしまった。
少女はこのままだと襲われてしまうと感じ、直ぐに馬の傍でしゃがみ込み馬と地面の間に手を突っ込み「!!」倒れ込んだ馬を起こそうとしたのだが、少女の非力な力では起こしきることが出来なかった。
その間も徐々に徐々にこちらの体力が消耗するのを待ち続けてきたであろう気配が…
接近してくる…
狡猾な相手は、こちらが動けないのだと理解したのか、追ってくるその音が先ほどと違って盛大に豪快に、此方に悟られても構わないのだと示すかのように豪快に派手に草木をかき分け大きな音を出して近づいてくる…
音が近くなっていく…
もう敵はすぐ目の前…
少女はもうすぐそこまで迫ってきていると判断し、歯を軋ませるような音を出しながら食いしばり鞄の中へと手を突っ込みある物を取り出し…構えた。
少女は、迎え撃つ覚悟を決めたのか、小さな小さな鉄で出来たモノ、果物でも剥くときに使うような小さなナイフを取り出し、小さな勇気をナイフに込めるように両手で握りしめ迫りくる脅威へと集中力を高めていくと
ずっと感じていた…
後方からずっと…
心休まることなくじわじわと汚染してくるかのような気持ち悪い視線の主が、悠々と堂々と舌なめずりをしながら気配を殺すことなく堂々と真正面から顔を、いや堂々と全身隠すことなく一切の躊躇いなぞ無く臆するという言葉なんて無いのだと示すように姿を表した。
その姿を見た少女は姿を現したのが絶対なる強者、弱者を悠々と殺す存在なのだと感じてしまった。
普通であれば怯え震え思考が停止するのだろうが、不思議と少女は違った。
少女はその姿を見たとしても恐怖に汚染されることなく心狂わすことなく冷静に周囲へと警戒を向け続けた。
それも強者が姿を見せたのとほぼ同時、少女もまた動いていた。
そう、瞬時に、この周囲に強者の仲間、他にも気配がないのか探り続けていた。
幸いにして、少女たちを追い詰めようと動いていた視線の主は一匹だけだった。
これを幸運だと捉えられる程、少女は楽観的ではなかった、目の前に居るのが一匹だけっということに少女は疑問を抱いていた。
運よく一匹だけなのだろうか?っと…
いいや、警戒を怠ってはいけない。
敵が姿を現したのはどのタイミングなのだと少女は自分に言い聞かせた。
獲物が弱るのを待つという狡猾な知恵を持つ獣だとしたら、他に潜んでいる可能性もある。そう少女は考え、目の前にいる脅威だけではなく周囲にも警戒を向け続け目の前の敵を観察していく。
『人だと顔の横に耳があるのにこいつはそこにない、耳がある場所は人と違って、犬や猫と同じ頭のてっ辺、でも犬とこいつは違う。こいつは犬や猫と違って四本足であるかない、人と同じ二本足で歩いている』
姿を見せた強者…少女たちを舌なめずりをして近づいてきたイキモノは耳が大きく人で言うところの頭頂部にあり、顔は犬のような顔をしていた。
だが、犬とは明確に違う…
なぜなら、そのイキモノは4足で歩いておらず堂々と人のように2足で歩行している。
大きさはどうだ?
そのイキモノはさほど大きくない…
背の高さは少女よりも気持ち高い程度
体の大きさも少女と左程変わらないほど小柄
街の狩人達であれば目の前にいるイキモノは左程脅威ではないのだろう、だが、大きさだけを見れば少女にとっても実のところ、左程脅威ではないのだろう
だが、それだけで判断してはいけない、何故なら…相手には凶器をその身に宿している。人とは違う凶器を…
そう、目の前で舌なめずりをして滲み寄ってくるイキモノには、少女の柔肌を軽々と貫く鋭い牙があり、少女の肉をぼろ雑巾にいともたやすく切り裂くことが出来る強固な爪がある。
その二つの凶器を見て少女は唾を飲み込んでしまう。
観察してしまったがゆえに想像してしまった結末、恐怖に染められんと、少女は意志を強く持ち、少しでも助かる方法を模索するために目の前にいる恐怖に対して観察を怠らなかった。
それと同時に、少しでも助かるために街の人達から聞いていたこいつの特徴を思い出していた。
少女が息を殺し密かに生きさせてもらっているこの危険な森には、少女が根城にする前から、目の前にいる獣臭を漂わせているこの森に住まう強者の一角、このイキモノはこの森を根城にしている。
ときおり、街の人達もこの森に入り果物や野草、薬効作用のある薬草などを採取しに来ている。
そして、森の恵みを採取しに来た人達は、何度も何度もこのイキモノに襲われている。
故に、街の人達はこの森でこのイキモノを目撃すれば、街に滞在している狩人さんに報告するのが決まりだと少女も教えられていた。
問題があるとすれば、目撃したとしてもその場所に居るとは限らないっと言うことだ。
こいつらは、小柄なためか森の奥へと潜まれると見つけにくくなってしまう、かといって…このイキモノが生息するテリトリー、つまり森の奥へ踏み込めばこいつらは徒党を組んで襲い掛かってくる習性、いや知恵を持っている。
故に、街の狩人さんからすれば、こいつらの駆除をするのに手を焼いているのだと、街の人から教えてもらったのを…少女は思い出し、その言葉によって状況を冷静に分析する材料となっていく。
『ここは、森の奥じゃないから、たぶん、こいつだけ、他にはいない、の、かな?たぶん、こいつも何かの弾みでこっちの方にきて美味しそうな獲物がいたから襲い掛かったって、こと、で、いいのかな?あんま自信ないけど、そうだといいなぁ』
少女は自分の立てた仮説が希望であれと信じ、周囲の警戒を緩め、目の前にいる脅威一つに集中力を研ぎ澄まそうとすると、足元に小さな獣が居る事に気が付いた。
『馬に気を取られちゃって忘れてた、そっか、君も逃げ遅れちゃったのかな?それとも…私を心配してくれたのかな?』
小さな獣を見て少女はふと、思ってしまった。
こんな小さな生き物でも意志を交わすことが出来る…!!
だったら!!
目の前のイキモノはどうなのだ!!ろうか、っと…
数多くの少女だけが許された不可思議な体験が故に、少女は…淡い希望を抱いてしまった。
そう、知性があるのであれば対話できるのではないかと。
4足で歩く獣達と違い目の前のイキモノは2足で歩く、更には、知恵も回る…
であれば、対話を試みるのはどうなのだろうか?
街の人達が商売するように、少女もまたこの場を交渉の場とし、自分が持てるカードがある、少女の手の中には眉唾な商品がある!なら!
少女は淡い幻想を抱き目の前のイキモノと交渉し、今回ばかりは見逃してもらえないか…っという淡い希望を一瞬だけ抱いたが
少女は冷静だった
目の前に居る獣が涎をたらし馬を見つめている、その絡みつく様な視線に何を感じるのか…
答えはシンプルだった…
目の前に居るのは所詮は獣だと…
先ほど抱いてしまった淡い希望を…幻想を振り払うように少しだけ首を横に振った。
そんな淡い期待なんてするだけ無駄である。
目の前のイキモノは知性があるのかといえば答えはNO、人と決して交わることが出来ない種族であると街の人達から何度も聞かされている。
それに、少女は知っている自分だけが特別なのではないのだと。
そんな都合の良い展開なんてあるわけがない。
っであれば!少女はその様な現像を捨てる!
そう!目の前にいる涎をたらした獣は決して、お互い歩み寄ると言った思考なんて持ち合わせていない!
こちらから歩み寄ることなんて持ってのほか!
対話なんて高等な手段を持ち合わせていない!!
…目の前に居るのは我欲や本能にしかない獣である。
だったら、どうすれば、この状態を切り抜けることが出来るのか。
答えは一つ、戦うしか…ない!!
追い付かれ目の前に敵が姿を現したのであれば、少女には選択肢なんて与えられていない。
いや、あることはある、だが少女はその選択肢を選ばない
その為なら、少女は戦っても勝てる見込み何て無い相手にも立ち向かう決心をする。
少女はいつだって諦めない、希望があるのであればいつだって前を向く。
希望があるのであれば、こんな絶望的な状況であろうと少女は諦めない。
そもそも、少女の頭の中にあった最悪から考えればこの状況がまだ運がいいと思っていた。
何故なら、少女の前に顔を出したのは一頭だけだったからだ。
このイキモノは群れで行動することが多く、単独で行動している方が稀である。
その貴重な情報が少女に一つの希望をもたらしている。
その希望をもう一度確認するために、周囲に他にもこのイキモノがいるのか耳を澄ませてみるが…荒い息遣いをする他の存在、気配は感じ取れなかった。
冷静に周囲の状況を把握し続けながらも、少女の頭にはこの状況を打破するために何をすればいいのか必死に考えては…いるのだが、出てくる答えは全て不安で不確かなものばかりだった。
実のところ、少女もまた、このイキモノを目撃したことが何度かある。
この森に住まう者として、常に安全だったわけではない。
当然、目の前にいる脅威とは何度か相手に気取られない段階で目撃したことはある…のだが、目撃した少女が選んだ選択肢、その全てを逃げるという選択肢しか選んでこなかった。




