しりたいしりたいしりたいしりたいしりたいしりたいしりたい
信じられない光景を眼に焼き付けるように少女は目を輝かせながら見つめ続け、それを成した人物へと手を伸ばそうとするが指先に何も触れなかった
「?」
指が触れなかったことによって少女は甲冑を着た人物が何処かに行ったのだろうかと、疑問を感じたのだが、その疑問を直ぐ否定する言葉が少女の頭の中で出てくる
『足音がしなかった』
あのような甲冑を着た人物が音もなく離れる事は可能なのだろうか?
その疑問に冷静な思考が答えを出す
『いや不可能だ』
ただ前の道にいるのであれば雪を踏み固める独特の音しないのだが、前にはいない、後ろは雪だらけ、どう頑張っても音なんて消せやしない。
わかりきっている事実に少女の頭の中は更なる疑問に押しつぶされそうになってしまうのだが、それと同時にもう一つの疑問が横やりを入れてくる、その疑問はただ一つ
『なんか寒くない?』
シンプルな疑問だった
それが何を意味するのか少女は直ぐに理解した。
先ほどまで感じていたお日様のような暖かいと感じている何かがなくなっているということだ。
今まであったものが無いのだと気が付き、お日様のような暖かさ、つまりは熱を帯びている金属、つまりは!慌てて甲冑を着た人物がいる方へと振り返ると
「!?…!!??」
甲冑を着た人物の姿は何処にも見当たらなかった。
少女は慌てて周囲を見渡したとしても輝くような何かを見つけることが出来なかった
それだけではなく、雪に足跡すらなかった…
どうやって?
彼は何処に行ったの?
人は空を飛べたりはしないよ?
だったら、さっきの出来事って?
何?
アレは幻だったのだろうか?
アレは夢だったのだろうか?
あの一連の出来事は白昼夢と言われる何かだったのだろうか?
そう思ってしまってもおかしくない、状況証拠は数多く残されているがゆえに、先の出来事は夢幻、幻覚の類ではないのだと証明している。
だが、それと同時に、彼が夢幻ではなかろうかという状況的証拠が出てしまった。
それは、足跡なく、どうやって雪山を歩くというのか?
パニックになってしまいそうな程に少女の思考は乱回転していくのだが…ふと、彼がそこにいたのだという実感が少女の中で場を制すように声を荒げる
『暖かった』
っと言う声によって少女の中で彼が夢幻ではないのだと、そう、彼が遺したモノ、その一つとして、甲冑を着た人物が少女に触れていた部分だけが
今も暖かく、太陽の下でお昼寝したかのような余韻が残されていた…
余韻が残されていたとしても、つい不可思議な出来事に首を傾げ、空を切った指先を自身の喉へと向きを変え、指先で触れると
「な、ん、だったの、かな?」
困惑だらけの思考をクリアにしようと声が漏れ出てきてしまっていた
有り得ない連続の出来事に、少女の頭の中は今にも爆発してしまいそうだったのだが
「ゎっぷ!?さ、っむぅぃ」
爆発させまいと少女に山から吹き下ろされる冷たい風に先ほどの思考の渦も何処かに飛んで行ってしまった。
突如吹いた冷たい風に身を縮ませ、周囲を見渡してから空を見上げると、今の自分が置かれている状況に気が付いた少女は
「…やっべ、早く帰ろう!」
忘れ物が無いか、物を落していないか手早く周囲を確認してから下山を開始した。
少女が空を見上げ焦ってしまうのに理由があった、それは、先ほどまで晴れていた空が黒い雲が集まり曇ってきていたからである。
曇ってきただけならまだ余裕があるのだが、遠くの方、何処かで音がしていたからだ…
つまり、いつ先ほどの雪崩が起きてもおかしくないのだと少女が理解した瞬間、身を震わせながら急いで用意された雪解け道を使って雪山をおりていった…
幸いにして、奇跡によって生まれた一本道のおかげで少女は普段よりも早く山を下りることが出来たのだが、道中少女の心は恐怖にも好奇心にも満たされていた。
なぜなら、何処か遠くで雪崩のような音が聞こえてきていたからだ、甲冑を着た人物の気遣いがなければまたも雪崩に襲われていたかもしれない。
そう考えるだけで背中に一筋の冷や汗を感じてしまっていた。
焦る気持ちでこの奇跡の一本道の上を駆けるように、いや、半分転がる様な速さで下山していくのだが、少女はある程度、音が遠のいていくのを感じ安堵していく最中、緊張感が抜けてしまったからなのか、何度も何度も、甲冑を着た人物との出来事が頭の中でリフレインし続けていた。
噛み締めるように、先の出来事はまさに何度でも味がする思い出、この奇跡のような出来事を少女は忘れる事が出来そうもなく何度も反芻していた。
今までにない強烈な出来事のせいで頭の中が埋め尽くされた状態で少女は無事下山し、その勢いのまま歩を進めていくと気が付けば少女の影が長く伸びていた…
その影を見てふと「ぁ、お礼」自分は助けてもらったというのに助けてくれた相手に何一つ感謝の言葉を伝えていないことを思い出していた。
少女は山の方へと振り返り、暗くなっていく世界に一つの輝きが無いのか目を凝らしてみたが、輝きが見えることは無かった。
それでも、少女は山に、いいえ、甲冑を着た人物に向けて頭を下げ感謝の気持ちを込めた祈りを捧げた。
ほんの僅かな祈りを捧げ終わった後は、暗くなる前に急ぎ足で街へと向かった。
本来であれば山と町の中間に見つけて置いた少女一人くらいなら何とか身を潜める場所で息を殺して朝を待つのが彼女の生きる知恵なのだが、今回ばかりは夜は危険だとわかっているのに、身を潜めるための秘密の休憩所を経由することなく急ぎ足で多くの人が集まり賑わう街へと闇から逃げるように滑り込もうと全速力で走り抜けた。
かがり火によって明るく照らされている街へと通じる建設途中の門をくぐり、目的の場所へと勢いを止めることなく走り続る。
街の外は暗くなってしまったとしても、この街の人達はまだまだ元気に働いている、様々な仕事の音をバックに少女は街を駆け抜けて行き、目的の人物がいるであろう建物へとノックもせずに飛び込み
「お姉さん!」
大きな声を出しながら豪快にドアを開き中へ入ると
「きゃ!?びっくりしたぁ…ぇ?その声は、ルーちゃん?」
木箱のような薬入れの引き出しを開けている人物が唐突な来客に驚いたのか体を一瞬だけ跳ねさせてから、飛び込んできた人物へと視線を向けると
「・・・!」
建物の中へと飛び込んできた少女は部屋の中にいる自分よりも一回り大きな女性の目の前まで近寄り、勢いを殺すように立ち止まってから、その場で何度か肩で呼吸するようにし、何度か大きく呼吸を繰り返し整えようとしている。
少女が両膝の上に手を置き頭を下げている姿を見たお姉さんと呼ばれた人物はどういう状況なのか理解しようと扉の方へと視線を向けるが
特に少女を追いかけ回している様な危険な人物がドアを蹴破って入ってくる様子も無かった
そういった事態にならないのだと安堵してからお姉さんは飛び込んできた少女に
「…何かあったの?」
荒い呼吸を落ち着かせようとしている少女の肩に触れると
「まずは、水だろ、ほれ嬢ちゃん」
手入れが行き届いていないのか四方八方へと髪の毛もヒゲが無秩序に伸びていて、しゃがれた声で優しく少女へと声をかけてくれた人物は、お姉さんが気が付く前にいつの間にか少女の隣に立っていた。
優しく少女に差し出されたのは、木で作られた器が皺だらけの手の中に握られており、器の中には少し濁った水が小さく波打っていた。
その姿を見たお姉さんと呼ばれていた人物は
「ぁ、先生、すいません」
畏まるように軽く、されど、所作は丁寧に、その所作はどこか気品を感じるようなそんな一礼をしてから差し出された器を受け取ってから、頭を下げていき肩で息をしている少女の視界へと驚かせないようにゆっくりと膝を曲げ腰を曲げ姿勢を低くし、驚かせないように少女の視界の中へと器が見えるように移動させお姉さん自身も少女の視界へと入ろうと少女と同じくらいまで顔の高さを調節し呼吸を整えている少女に水を渡そうと差し出すと
「あれ?」
お姉さんは器の中にある水を見て直ぐに師へと視線を向けると師は黙った頷くだけだった。
その仕草にお姉さんは一瞬だけ躊躇っているのか思考が停止してしまったのか、動きが一瞬だけ止まってしまったのだが、師の命令は絶対と
「…これ、ど」
少女に水を渡そうと、どうぞっとお姉さんが言い終わる前に少女はその器を受け取り遠慮することなく
「!!」
勢いよく全身をのけぞる様にして中身を一気に飲み干し
「っぱぁ!あーーー!!ぁ~、ぅ~…おいしぃ」
歓喜の声を店の中で響かせていた。
まるでこの世の極上を噛み締めるかのような声を出しながら受け取った器を天高く掲げた。
余りの美味しさに溢れ出てしまったリアクション、仰け反り高く上げた腕や姿勢をゆっくりと正してから
「せんせー!ありがとー!お姉さんもお騒がせしましたー」
少女を優しく出迎えてくれた二人に向けて感謝と迷惑をかけてしまったことに対して勢いよく頭を下げて気持ちを伝えた。
その姿を見たお姉さんは小さな溜息を零し先生はその少女の仕草に満足気な顔で微笑んでいた。
満面の笑みをする少女に先生が髭を揺らすと
「今日はえらい遅くにどうした」
先生と呼ばれている人物は普段こんな時間に絶対に飛び込んでこない来訪者に眉一つ動かさず質問をすると少女は不躾なことをしたのだと直ぐに理解し
「あ、その、ご迷惑かけました、その、これ」
少女は両の手を小さく振り回し慌てた仕草をしてから目の前のいる人達に怒られているのかと思い、頭をもう一度下げてから申し訳なさそうな顔で腰に装着している袋を取り外し先生の前へと差し出すと、先生はいつもの様にゆっくりとした動きで少女の差し出した袋を手に取り優しい笑みを浮かべ
「中を拝見させてもらうよ」
少女に確認するように声をかけると少女は小さく頷いて返事を返すと、ご老人特有のゆったりとした動きによって袋の紐が弛められ、袋が小さく開かれ僅かな隙間を覗く様に中を一目見てから視線を少女へと戻し
「いい仕事をしたね」
表情は変わらないけれど声が先に比べて優しくなったことにより、少女は嬉しかったのか照れた顔をして「てひひ」と呟き、素直に褒められたことに対してどう反応を返せばいいのか困ってしまっていた。




