好奇心猫
音の方へと視線を向けると大地から白い粉のような煙が空へと広がっていっているのが見えた少女は、どうにかしてこの場から離れないといけないと慌てるが…時は既に遅かった。
白い煙が眼前に…今にも少女を飲み込まんと迫ってきていた。
少女はこういう時にどうしたらいいのか、教えてくれた言葉を探そうと必死に思考を動かそうとするが目の前が真っ白に染まりきろうとし、思考もまた完全に白へと染まってしまった…
屈んだりといった身を守る姿勢すら取ることを忘れてしまうほどに…
「・・・」
少女は眼前に迫ってくる絶望が見えた瞬間、少女の感覚には覚えのある感覚へと至ってしまう。
そこは、音すらも消えていくほどに静かな世界、だけど、無情にも非常にも死というイメージしかわかない脅威は目の前に迫ってきているのだが、迫りくる脅威は不思議と遅くおそく感じてしまっていた。
…全ての動きが遅くなったとしても、少女は何もしようとしなかった、いや、小さく微笑むことだけが彼女の行動、全てだった。
──何処か諦めている自分に小さく笑ってしまった
恐怖に耐え切れなくなったのか少女は眼を閉じた、されど、迫りくる死に少女は抗うことなく全てを受け止めようとしていた…じきに自然の猛威が少女を包み込み自分はこの大地に埋もれるだろうと思った
その刹那
少女の肩に暖かい何かが触れ、更には、おでこにも何かが触れた、その触れた何かは両者ともに硬く、いや、鉱石のような硬さではなく、鍛えられた人のような硬いけれども何処か柔らかいと感じさせてくれる。
それだけじゃない、暖かいと感じてしまう、そんな何かが少女の体に触れ当たっている。
少女はその温もりが何か想像もつかなかった、ただただ、死の間際にいるからこそ、こういった感覚なのだろうかと、その温もりすらも受け止めていた。
その暖かい感覚が少女を包み込んでいくと、不思議と、その感覚がお日様のような香りのように感じられ、幼き頃、忌まわしき頃の記憶の中に混ざっている、あの何とも言い難い、安らぎを感じてしまった
その安らぎをもたらしてくれた存在、少女はこれこそが神の祝福なのだろうと感じていた。
死ぬ間際はきっと、太陽のような存在がこの身を包んでくれているのだと感じた少女は、幼い頃より教わってきていた神様への祈りを捧げる為に両の手を重ね全てを受け止めようとした…のだが、いつまで経っても何も、暖かい存在以外何も体に伝わってこない、予想していた自然の猛威という名の衝撃が少女の体に触れない、襲ってこなかった。
少女はこの不思議が状況がどうしてなのか、思考を巡らせ、ある結論へと到達した。
『私はもう死んじゃったの』のだと…
もしかしたら、神様の祝福によって既に自身の体は衝撃を受け止めており、死んでしまったのかもしれないという結論へと辿り着き、今もなお暖かく包み込んでくれている存在はきっと死すべきものを守り導く使者なのだと思い、先の肩とおでこに何かが触れてくれている存在へと感謝の気持ちを伝えようと、組んだ指を解きおでこに何かが当たっている場所へと手を伸ばすと少女が想像していた感触とは違っていた。
「?」
指先に触れたのは硬く暖かい何かなのは間違いが無かったのだが、少女の頭の中で想像していたモノとは違う感触に戸惑いを感じていた。
「???」
少女が想像していたのは、何かこう、有り触れた様な感触ではなく初めての感触を想像していたのに、どうしても触れたモノが街の小さな鍛冶師さんが自慢するように押し付けてきた太い胸板のような感触だったからだ。
唯一違うのは肌さわりだった、指先に触れた感触はまるで、丁寧に磨き上げた金属板のような肌さわりだった。
どうしてここに、鍛冶師さんの分厚い胸板があるのか少女は理解できず更に混乱してしまった。
触れてしまったがゆえに、少女はどういう状況なのかますますわからなくなり、腕や指先が動く感覚があるのであれば、瞼を開くこともできるだろうと、その姿を目に入れても良いのか一瞬だけ迷ったが、好奇心を抑えることが少女には出来なかった。
どうせ、死ぬのだから咎める人もいないと、目を開けると想像していた全てが違っており、驚きの光景に少女は言葉を忘れてしまった。
瞼を開くと眼前には迫りくる白い靄が自身を包み込もうとしていた。
されど、その靄は自分達に触れることなく何処かへと消えていく不可思議な光景があった
そして、自身の肩とおでこに触れている存在
お日様のような香りのするモノが人であるのだと少女の眼に飛び込んできたのだが
「!?!?!?」
見えた全てを直ぐに受け止め信じ切ることが出来なかった。
少女の目の前には真っ白に輝く鎧を着た見知らぬ人物の姿があった。
その鎧は頭から爪先まで、全身の全てを包み込む形状をしていた。
その鎧の形状に少女の記憶の中にあった、その鎧の形状は、鍛冶師の人が営むお店で見たことがあり、鍛冶師のおじちゃんから説明もして貰っていた
目の前にいる人物が着ているのは”全身甲冑”そう教えてもらっていた、自慢したがりな鍛冶師の人からも当然、その性質もまた教えてもらっていた。
そう、その特徴が故に、雪山のような場所にこの様な鎧を着ていくなんて死にに行くようなものだと、特性も教えてもらっていた。
そんな人物が自分を雪崩から守るように腕を上げまるで襲い掛かってきている雪崩を受け止めるようにしていたのだから、少女の思考は完全に混乱してしまうのも致し方ないのである。
混乱する最中でも少女の好奇心は膨れ上がっていく、少女は腕一つを前に出しただけでどうして雪崩が自分達を飲み込まないのか、目の前では何が起きているのか好奇心が湧き上がり、甲冑を着た人物の腕、その先から目が離せなくなってしまった。
見える部分だけで理解できたのは、伸ばされた腕の向こう側から迫りくる大量の白い靄のようにも見える真っ白な煙が不思議と自分達に届くことが一切無く目の前で消えてしまったかのように止まっているっということだけだった。
少女は、こんな危険な状況であろうと、目の前にある不思議に魅了され過ぎてしまい、守ってもらっているのだと分かっていても、好奇心を抑えることが出来ず、どうしてだろうかという抑えきれない好奇心が自我を持つかのように勝手に動いてしまう。
そう、目の前がとても危険、命が危うい状況であるとわかっていても…
少女は手を伸ばしたくなってしまい、目の前で消えている雪崩へと腕を伸ばすと
それを制止するかのように、肩に置かれていた暖かいものが少女の肩から離れ、好奇心という自我を持った少女の腕が掴まれてしまった。
それにより、少女の湧き上がる溢れんばかりの好奇心は満たされることがなくなってしまった、少女の伸ばされた指先は未練がましく何度か伸ばそうとしたのだが、これ以上はダメだと少女の思考がその行動をやめさせ、好奇心が残念だと物語るように指が曲がり意気消沈と言わんばかりに腕を引っ込めた。
少女が腕を引っ込めたのを全身甲冑を着た人物が理解してくれたのか、そのまま腕を掴みながら少女の体を自身の二の腕で胸元へと抱き寄せるように優しく抑え込んだ。
ただ、残念ながら好奇心豊かな少女の溢れ出る好奇心の矛先が変わるだけだった。
その優しい行動によって少女の満たされなかった好奇心の矛先が甲冑へと変わっていき、少女の目線は腕へと変わり、恐怖心なんて少女には備わっていないのか、思考が動き出す。
『これ、どうなってるんだろう?なんで冷たくないの?鎧なのに、どうして?どうして?どうして?なんで?どうして?どうなってるの!?え!?なんで鎧なのに硬くないの!?ねぇ!?なんで?どういうことなの?』
こんな冷たい世界だというのに触れている金属が不思議と暖かい事に少女は気が付き更に好奇心が膨れ上がっていってしまう。
ついには驚きの連続によって忘れてしまっていた言葉というコミュニケーション手段を思い出し
「ねぇ!?これ、どうなってるの!?」
未だ轟音を出し白い煙を巻き上げながらも自分達を飲み込もうとする雪崩が襲い掛かっている渦中だというのに、好奇心は疑問をぶつけずにはいられなかった。
ただ、残念ながら好奇心が満たされることは無かった。
少女が大きな声で疑問をぶつけても、甲冑の人物には音が届いていないのか、何も反応が返ってこなかった。
好奇心に突き動かされている少女は、今が危険な状況だという事を完全に忘れてしまっているのか、反応が返ってこないことに対して眉間に皺を作ってしまっていた。
少しでもこちらへと関心を向けて欲しいと気持ちを込め、甲冑の人物に握られていない自由に動かせる手のひらで敢えて響く様にと、驚いたことに甲冑を叩くと雪崩の音が周囲を埋め尽くしていたとしても僅かに叩く音が聞こえた。
されど、反応が返ってこなかった。
だったら!という気持ちで頬を一度、膨らませてから、少女はそれよりも大きな声を出そうと大きく息を吸い込み、自身が今まで一度も出したことのない最大級の大きな声を喉からではなく腹から出すようにし、甲冑を着た人物へと遠慮という言葉なぞ無いのだと言わんばかりに音をぶつけ始めた
「ねぇ!!これ!!ねーえ!!聞こえてる?聞こえてるよね?ねぇ!!ねぇ~~え!!!ねぇねぇ!!これさ!!こーーれ!!」
生まれてきて一度たりともここまで大きな声を出したことが無かったのにも関わらず、甲冑を着た人物からの返事が返ってくることが無かった。
自身が持てる全ての手札を使い切ったのに反応が返ってこなかったことに少女の思考は質問するから、どうやって質問をすればいいのか考えようとしたのだが、経験の浅い少女には、どうやって質問をすればいいのかわからなくなってしまった。
鎧についての質問を諦めようとした際、つい視界に入っている出来事の方へと好奇心が向いてしまった。




