雪山は怖い?だいじょぶ!慣れた!
見渡す限り真っ白に染まり、大地には足跡すら残されていない。
誰も踏み入れることが無い白き世界。
そんな音すらも消えてしまいそうな世界にただ一人、小さな少女の姿だけがあった。
「ぴょんぴょんぴょん」
誰もいない音すらも無くなってしまったような真っ白な世界に独特の足音だけが響いていた。
一人の少女が小さくされど楽しそうな声を元気に、まるで、歌うかのようにしながら雪に埋もれた足を引き抜き、小さな飛び石でも飛ぶかのように山の奥へと跳ねながら真っ白な世界をただ一人…進んでいた。
そんな、音すらも消えていきそうな何もない真っ白な世界。
白しかない世界、少女はその世界に溶け込んでしまいそうな程…
少女も、また、その世界に相応しく全てが…髪の毛も肌の色も…真っ白だった。
全てが白く静寂な世界で真っ白な少女が雪の上を飛ぶように跳ねるように移動していると、唐突に少女の姿が消えてしまった。
「ぴょ、ぁわ!?きゃ!?」
どうやら深い場所に着地してしまったから足が抜けなくなったのか、はたまた、足を滑らせてしまったのか真っ白なキャンバスに”大”という大きな文字を描いてしまっていた。
少女の瞳には青い空が広がっていた、青い空には雲一つもなく澄み渡る様な世界に少女は瞳を大きく開いてから
「てひひ」
誰にも見られていないのと分かっていても恥ずかしそうにしていた。
転んだ場所は幸いにして少女が立ち上がるのが容易にできる深さだったのか上半身を起こして周囲を見渡してから
「んしょっと」
少女は雪という性質をよく理解しているのか、滑らないように気をつけながら立ち上がった。
雪に埋もれたとしても少女は前を向く、どこかこの何もない真っ白な世界だというのに目的の場所があるのか、少女は転んだとしても先へ進もうと足元を見ながら不安定な雪山を移動しようと雪に埋もれた足を持ち上げたのだが、足を前へと出すことなく動きが止まってしまっていた。
足元を見た少女の顔は驚きへと変わっていき
「…ん?…ぁ!?やった!」
歓喜の声を上げてしまっていた。
この様な何もない雪山でどうして少女が歓喜の声を上げたのか、この雪山に来たお目当てがそこにあったからである。
ただ、問題があるとすれば…
少女は思わぬ幸運に雪山だというのを忘れ大きな声を出してしまったことである。
その事に気が付いていない少女は
「にへへ!み~っけ!」
呑気に上機嫌で足をゆっくりと元の位置へと下ろし、お尻が雪に触れようとお構いなしに腰をかがめ上機嫌で足元に咲いていた花の先、花茎ごと指で掴み捻るように千切った。
手慣れた手つきで千切った後は、分厚い手袋をしているせいなのか感触が伝わっていない為なのか、本当に目的の品を掴めているのか手のひらにある物をじっくりと眺めるように手の中を確認している。
確認を終えた後は小さく頷いてから口元へと腕を持ち上げ口を覆っているマフラーをずらし
「よい、しょっと」
分厚い手袋を唇で咥えるように甘噛みし、手袋を外してから腰にぶら下げている袋に先ほど千切った花の先を丁寧にしまっていく。
仕舞い終えてから袋の中を目を細め覗き込み、数を数え始める。
数え終えてから袋をしまい外した手袋を装着し顔を上げ空を見上げる。
「ん~…後少し、集めたい、かも?」
少女は太陽の位置がどの程度まで傾いているのか、確認するために澄み渡る青空を見上げ、これから先の事を考え始めた。
「ん~…まだ遅くなっても大丈夫、かな?荒れそうもない、よね?」
見ていたのは太陽の位置だけではなく崩れやすい山の天気を把握するためでもあった。
少女は何度も何度も、遠くにある空を見渡すように周囲を観察していった。
幸いにして空は晴れ晴れ雲一つない、晴天である。
少女が心配している様な真っ黒で分厚い綿は見当たらなかった。
運が良い事は続くのだと少女は嬉しそうに
「うんうん!大丈夫!」
頷き、今の山であれば、多少、遅くなってもきっと街の皆が恐れている様なことは起きないと判断し、ついつい、上機嫌に「大丈夫!」っと大きな声を出した瞬間、賢い少女が街の人達から教わった山の危険なことを思い出してしまった、少女はつい
「あ”!!」
大きな声を出して直ぐに慌てて口を塞ぎ姿勢を出来る限り低くしてから顔を上げて周囲を見渡し目だけを頼りとせず耳にも意識を集中せていく、そう、視界だけは無く音もこの雪山という環境には注意が必要となるのだ。
その事を街の人達から耳を取ってしまいたくなるほどに注意されていた少女は、神経を研ぎ澄まし周囲の観察を続けた。
周囲を観察し続け暫く経過しても、幸いにして警戒していた音や白い煙の姿は無かった。
「よかった、うっかり」
はぁっと、小さな吐息を零しながら胸を撫でおろした少女は、雪山での注意点を教えてくれた薬師のお姉さんや街の人達から教えてもらったこの花を採取する際の注意事項をもう一度思い出していた。
恐怖心からなのか安堵からくる冷や汗なのか、にじみ出てくる汗を分厚い手袋で拭い、もう一度確かめるように周囲を警戒しながら立ち上がった。
かといってすぐに歩きだすわけでもなく少女は教えを守るように警戒を怠ることがなかった。
立ち上がってからも、入念に周囲の観察を続けていく
「え~っと、あっちは、大丈夫、え~っと…こっちもだいじょぶ…」
左、右、前方、っと指を指しながらしっかりと周囲の景色に変化がないのか念入りに確認している。
少女もまた自身の記憶力には自信があるのか、今の風景と少し前の風景を照らし合わせていると
「ん~っと?むこうもだいじょ…」
前方の一部に小さな隆起や、僅かな裂け目が出来ていた。
「ばない、前は危ない、かも?」
危険な場所に近寄らない、この雪山という場所は油断すれば直ぐにでも命が吸い込まれてしまう。
薬師のお姉さんだけではなく、多くの方が雪というモノは怖いのだと少女は耳を塞ぎたくなるほど教え込まれている。
だからこそ、慎重にいつだって遊び心を抑えないといけないのだと
「うん、うん、だめだめ、せっかく…だもんね」
自身に言い聞かせるように先ほどまで浮かれていた自分を戒め、迂闊な行動によって危険な目に合わなかったことに胸を撫でおろすような仕草をし、危険な方には近寄るまいと頷いてから、回れ右をするために、雪に埋もれてしまった足を持ち上げる
足を上げたまま腰の力だけで体の向きを変え足元やこれから先、進んでいく道が問題ないのか様子をしっかりと観察してから何度も足踏みをするようにして方向を変え、進もうとしたとき
ふと、視界の端に何かが光ったような…見慣れないものが見えたような気がして
腰をもう一度、先の危険な方向に体を向ける為にゆっくりと後方へと上半身を捻り、何かが光った様な方へと視線を向けると
「あれ?」
一瞬だけ見えた気がした、光る何かは何処にも無かった
先ほどと同じで雪だけしか視界には入ってこなかった。
「んー…ん?」
少女は首を傾げ、見間違いかな?っと小さく呟き
「ん~、まぁ、あれっしょ?雪ってやつは眩しいから、だよね?」
うんうんっと頷き、きっと雪が光っただけだろうと納得し、捻った腰を戻し少しでも歩きやすくする為に膝近くまである雪を叩くようにして雪を払いのけようとすると降り積もった雪が粉々に崩れていく。
「てひひ」
少女は、それが楽しかったのか、敢えて雪を崩すようにと足を豪快に、ボールでも蹴飛ばすように足を大きく上げ小さな粉雪を空へ向かって蹴飛ばしながら、少女は晴れ渡る青空の下、雪山を探索していく。
豪快に粉雪を数回巻き上げると雪の下に埋もれていたお宝が顔を出した。
幸いにして先の花はこの辺りが群生地だったのか、雪を蹴飛ばすと次々と顔を出していく
目的の品が次々と見つかり少女は嬉しくなり
「おほ!いいじゃんいいじゃ~ん」
ついつい大きめな声を出し目を輝かせながら腰をかがめ嬉しそうに採取する作業へと没頭していった
周囲の雪が掻き分けられ続け、気が付けば、少女一人くらいは埋もれてもわからないほどの小さな雪山が周囲に誕生すると情けない声が小さな雪山の中心から発生していた
「ぅぃ~、っち、ぁぃたぁ、う~、ぃぎぎぎ」
どうやらずっと下を向いて作業をしていたからなのか、それとも雪をかき分けていたからなのか、はたまた、この寒さで筋肉の伸びが悪くなってしまったのか、少女は硬くなってしまった体を伸ばそうと作業を中断し背筋を、いいえ、腰を伸ばすように両腕を空へと持ち上げると街のおっちゃん達がするような声を出してしまっていた。
んふーっと鼻から大きな息を出し少しでも動きやすくする為に体を捻っていると
またも視界の端で何かが…光り輝く様な何かが見えた気がした
「ぁぇ?…んん?」
また見間違いだろうかと、思いはしたものの、少女は、もしもを考えてしまっていた。
何故なら光っていたように見えた場所は、先ほど、地面に割れ目が見えた場所の方向だからだ。
もしも、あの危険な場所に誰かがいたらと考え振り返るのとほぼ同時に少女の口と喉が開かれていた
「そこあぶないよ!!」
視界に誰かが居たわけでもないのに、少女の口からは大きな音が飛び出ていた。
もしも、いや、一度は見間違いだとしても、次はきっと見間違いじゃない、確信をもって少女は迂闊にも目視で確認せずに光が見えた方へと大きな声を出し、直ぐに自分の行動を間違えたのだと気が付いてしまった。
浮かれていたのか、慣れないフィールドだからなのか、少女の誰かを思いやるという献身的な心が衝動的に体を動かしてしまったのか…
ここが雪山であるのをまた、失念し大きな声を出してしまっていた。
それに気が付き少女はまたも失態を…
「あ”!!」
大きく開かれた口からは大きな、されど短い音が強引に閉ざすように雪山へと飛ばされて行った。
少女は愚かな行動をとってしまったのだと直ぐに気が付き溢れ出る愚かな自分の口を塞いだ瞬間、少女の耳には自分が投げ飛ばした音とは違う音を拾っていた。
耳に流れ込んでくる音、それは、遠くから此方へと迫ってくる、まるで、大地を揺らすような音だった。
その音が何を意味するのか少女は耳を塞ぎたくなるほど注意されていたので、直ぐに理解した。
瞬時に状況を判断するために光り輝く何かから視線を外し音の方へと体を捻ると驚きのあまり、口元に手を当てていたとしても大きな声を出してしまっていた。
「やっば!」




