だからね、いいんだ。”私は”もう、十分生きた、だから、いいんだ。にしし
これ以上はない最大の好機!
心を強く持った少女はその隙を見逃すことはなく、今自分が何をするべきか冷静に判断し、遠くに落ちてしまったナイフを拾うよりも、馬の脚へと手を伸ばし足に触れ、いつもの様に手のひらに力を込め
「立って!」
馬の足を手のひらで叩くと馬もこの機会を逃せば助からないと感じたのか必死に立ち上がり距離を離そうと歩きだす
少女もまた馬と一緒に歩きだすと少し離れた場所で小さな獣が少女たちを誘導するかのように待っていたのが見えた。
いつの間にか距離を離していた小さな獣を見つけた少女は、諦めていたのは私達だけかも、っと小さな笑みを浮かべ、小さな獣が居る方へと足を引きずりながらも生きる為に諦めることなく前へと進んでいく。
馬もまた、自身の足を支えようと手を添えてくれる少女の暖かさに心を強く持とうと諦めずに!必死に!足を引きずりながら無様と鼻で笑われたとしても生きる為に!前を歩く小さな獣の後をついていった。
怪我をした少女たちは、一歩足を前に出すたびに突き抜けていく感情を押し殺しように耐え、生きる為に歯を食いしばり、痛みや恐怖によって明日を忘れないように少女たちの希望となり先導する小さな獣を頼りに森の奥へと進んでいく…
一心不乱に歩き続けていく弱者たち…
少女は自分達が何処へ向かっているのかわからなかった。
そう、小さき獣についていくだけで、どこに向かっているのか少女も馬も知る術がなかった。
少女は街から遠ざかっているような気がしてきたが、それでも、今の少女は小さき獣を信用する事しか出来なかった。
それに、少女はこう考えてもいた、あの一連の流れで小さき獣だけが安全地帯へと逃げようとしていた、私達が知らないだけできっと、小さき獣達、この森で最も弱者である彼らだけが知っている安全な場所があるのだろうと考え、不安を感じつつも、意識を集中させ小さき獣についていった。
小さき獣なら容易く通れるような草藪を通り抜けると突如、僅かだが開けた場所に出るのと同時に、馬が足を止めてしまう。
何故なら小さく開けた場所に待っていたのは先ほどの徒党を組み集団でイキモノに襲い掛かっていた獣と似た風貌の獣が待っていたからだ。
馬は慌てて後ろへと方向を変え来た道を戻ろうとしたのだが少女の声に振り返るのをやめた
「あ!そっか、君の?」
足に手をずっと触れている少女の声を出し、ゆっくりと待ち構えていた小さきされど、爪も牙もある獣へと近づこうと足を進める。
馬もまた、少女に誘われるように歩きだす、目の前に居るのが普段であれば自分達を襲い捕食する相手だとしても…
例え、先ほどの獣達に比べてかなり小さい獣だとわかっていも馬は足を震わせながらも近づいてく…
普段であれば絶対に近寄らない牙と爪を持ち合わせた獣の前へと少女に誘われるように進んでいった
少女に押され足を震わせながらも馬は絶対に踏み入ってはいけない相手の牙が届く距離まで歩くと勇気を分けてくれる温もりが離れて行ってしまった。
馬は不安を感じ今すぐにでも膝を折り床にふせってしまいそうだったが、少女が小さくされど牙と爪を持ち合わせた獣へと近づくのを見て勇気を振り絞り足は震えど勇敢に立ち続けた。
少女は馬から手を離し小さくされど牙と爪を持ち合わせた獣へと近づいていき顔を合わせるように視線を下げ。
「えっと、君は…」
少女が離れた後、馬は少女が触れていた箇所へと名残惜しいのか鼻先を僅かに向けると驚いたことに血が止まっているのか血の匂いがしなかった…
それだけではなく確かめるように足を軽く動かすと、先ほどまでは僅かに動くだけで痛みが全身を駆け巡っていたのに、多少動かした程度では痛みを感じなくなっていた。
確かめるように恐る恐る何度か軽く爪先を持ち上げる程度に足を動かしても不思議と痛みを感じなかった…馬は自分の状況を理解したからなのか、周囲を観察するように耳を動かし始めた。
そんな馬の素振りに少女は気にすることなく、牙と爪を持ち合わせた獣へと近づき頭を下げ視線を合わせ牙と爪を持ち合わせた獣の前足を臆することなく掴むと牙と爪を持ち上げ足の裏を覗き込む様にする
「えっと…あ、うん、うん!そうだったそうだった」
足裏もしっかりと見てから頷き呟く、牙と爪を持ち合わせた獣はその様に持ち上げられても一切の抵抗なく舌を出し尻尾を振り満足そうにしていた。
その光景を馬は目を細め、尻尾を左右に振り眺め続ける、少しばかり足元を蹄で引っ掻く様な仕草と共に…
そんな仕草をしながらも、馬はこの目の前で起きている事実が異様な光景であると本能が告げているのを感じていた。
そう、本能がずっと告げているのだ、生きたいのかと?…
生きるのであれば、今は痛みを感じないが走り出せば痛みがぶり返してくるであろう、そんな、傷ついた足でも、この瞬間であれば自分だけでも逃げれるだろうと本能は確信を抱いていた。
本能に従うのであれば、静かに気配を殺し逃げる為に動こうとするのが正解だろう、馬は自分の中に宿る感情とは別に本能に従おうと足に力を込めた。
だが、本能の囁きのほかに、ある違和感に気が付き動くのをやめてしまった。
逃げる為に力強く大地を蹴ろうと傷ついた足に力を込めた、これが違和感だった。
これ程までに力を込めたというのに、痛みが襲い掛かってこなかったからだ。
鋭い痛みに全身を震わせてしまう覚悟を決めてもう一度確認するように、足へと力を込めたのに何故か傷ついた足から痛みが伝わってこなかった
馬は自身の傷ついた足をこの目で確認するために、恐る恐る首の向きを変え目で確認すると、傷が塞がっているのが見えた。
ありえなかった
信じられなかった
何故なら馬もまた、悲惨な経験を目の当たりにしてきたからだ。
馬は幾度も共に生きる群の仲間や、自分よりも小さい獣達がこのように傷つき倒れ痛みで見悶えているのを目撃してきていた、難を逃れたとしても何れ動かなくなってしまう、それ程までに深い傷だと理解していた…
だからこそ、馬は知っている、今の自分の足が有り得ない状態だと。
おかしい、そんなことはありえないと、足を動かしてみるとやや違和感を感じる程度で何をしても
痛みが無かった
そんなはずはないと、ここまで力強く動けば傷口が開き痛みが襲い掛かってくるはずなのに、今度は目ではなく匂いで確かめるように傷があった箇所へと鼻を近づけると、あんなにも力を込めたというのに傷ついた箇所から新しい血の匂いは無かった。
血の匂いは無く、そこには少女が触れていたからなのか僅かな少女の匂いだけが残されていた、その匂いは…まるで、太陽に照らされた牧草のような優しい香りだけが傷があった箇所に残されていた。
不思議な香りがする少女へと視線を向けると牙と爪を持ち合わせた獣が、少女に逆らうことなくされるがままで受け止め続けていた
その光景を見て馬は群れとはぐれてから今まで感じたことのない安心感を感じてしまっていた。
それはまるで…
幼き頃に死をもって分かたれてしまった母に感じていたような安心感だった…
馬はそれを確かめるように、まるで幼き頃のように母へと縋るように少女へと近づいていく…そう、例え目の前に自分達の仲間を喰らっていった、決して相容れぬ存在が少女の隣に居たとしても、馬は少女に感謝を伝えたくて、いや、彼女の温もりに触れていたくなってしまっていた。
馬として、多くの仲間が襲われてきた経験を忘れてはいけないのに、牙と爪を持ち合わせた獣から逃げきれない距離まで近寄ることなんて絶対にしてはいけないのに…
多くの仲間が遺してくれた教訓が霞み消えていくのを感じてしまう程に馬は少女へと強い感情を抱き、少女の肩へと鼻を擦り付けると先ほどの匂いが馬の心へと触れたのか、自然と膝をついて少女へと体重を預けてしまった
「おわっと?」
そんな馬の仕草に少女は驚きはしたものの、嫌悪感を示すような扱いをするようなことはせず、突如甘えてきた大きな存在を微笑みながら受け止めた。
そして、甘えているのは馬だけにあらず、牙と爪を持ち合わせた獣もまた、少女に甘え切っていた。
普段であれば群れで狩りをする大人たちが取ってくる美味しい獲物が自身でも命を刈り取ることが可能な距離にいたとしても…決して牙と爪を向けることは無かった。
そんな二頭のことなぞお構いなしに、少女は確認を続けていく。
牙と爪を持つ獣の前足、肉球を呼ばれている部分を少女は手で触れ、まるで医者のように検査を続けていき診察が終わったのか
「はい、っと、うんうん、良かった綺麗に治って」
牙と爪を持ち合わせた獣の足が地面へと着くように優しく下ろすと獣は少女に感謝の気持ちを伝えるように指先をひと舐めした。
その仕草に少女は口角を上げ照れた顔で
「にへへ、こっちこそありがとう、助けてくれて」
優しいお返しに少女も笑顔で爪と牙を持ち合わせた獣の頭を撫でるようにして応えると「ギャヮン」悲痛な叫び声が聞こえてきた。
少女は瞬時に音がした方へと視線を向けると、先ほど二足歩行の獣に襲い掛かっていた獣達の一頭が吹き飛ばされ、勢いよく地面へと叩きつけられ、その勢いのまま少女たちの横を通り過ぎていくように地面を滑っていった。
その絶望を示す光景に少女は
「ぇ?」
驚きの声を出したとしても感情と思考は別に動いていた。
感情は絶望によって体を強張らせようとしたが思考は生きる為なのか、抗う為なのか…
勝てないと解っていても少女はこちらへと向かってくる敵ともう一度…
戦う為に力強く立ち上がった。
思考は救いを求め現状を打破するために無意識に手を鞄の中へとねじ込むのと、同時だった…敵が姿を見せたのだ…
絶望を、死を連想させ、今すぐにでも惨めに無様に這い蹲ってでも逃げてしまいたくなる造形が姿を現した。
その姿を見た瞬間に思考は、逃げてしまいたくなる感情を押し殺し、冷静に敵の状態を分析しようと射貫くつもりで相手を睨みつけていた。
射貫くように睨みつけている存在はここに辿り着くまでに相当な深手を負ったのか、腕や首元から赤い液体が流れているのが見えた。
手負いであれば何かしらの勝ち筋があるのではないかと、恐怖によって頭が真っ白になりながらも少女は絶望によって心が折れないようにありもしない希望へと縋るように…いや、生きる為に必死にきっかけを掴もうと、手のひらから汗があふれ出しながらも、必死に鞄の中を弄り続けていると
敵は少女の焦りを見逃すことなぞなかった…
「ひ!?」




