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epilogue

 ロイドのレポートに端を発した一連の事件から数日が経つ。

 ここのところはずっと事件の後始末に追われている。一度出していたレポートが再び清書し直しになったり、町の広場での爆破や水道橋の破壊に関する報告書を作成したりと、しょうもない書類仕事ばかりだ。

 被害者だからと責任までは取らされないようだけれど、それでも各所への説明のための弁明書のようなものとして書類を用意させられている。

 全体としては、ユーグが郊外のホテルで開かれた四部会で騒動の終結を宣言して、修繕の費用は国で大分賄われることが決まったようだ。ひとまずは要求通りに済んだようだけれど、お父様が自発的に修繕費用を出すことになったみたいで、そこだけが不満ね。騎士団に請求しなさいよね、まったく。

 書類仕事がひと段落したところで、メリルが食器類を片付けるのを待ち、連れ立って帰路に着いた。

 日は落ち、遠くの山の稜線だけがかすかに闇夜の訪れの最中に浮かび上がる。王宮内の道は所々あかりが灯され帰り道を示す。


 馬車に揺られながら夜の町の様子を流し見る。酒場の前の灯りは煌々と灯され、仕事を終えた人々が続々と集まっている様子が見える。誰も彼もそれぞれに笑顔で、このひと時を楽しんでいるようだ。遠くから響く、くぐもったラッパや太鼓の音が町を覆う夜を明るく染める。

 この町中を一晩中飛んだり跳ねたりしてたのが嘘のように思える。劇場前の通りに向かう馬車をすれ違いながらぼんやりと眺めた。

 

 屋敷に帰って、荷物を片付け着替えを済ませ、顔を洗ってから食卓についた。

 早々と緑の野菜のサラダを平らげ、メインの豚のカツレツに手を伸ばす。薄い衣をつけてカラッと揚げ焼きにされた厚いお肉に、赤野菜や果物を煮詰めた酸っぱいソースが掛かっている。オーブンでじっくり焼いた芋が添えられて、さっきから食欲が刺激されっぱなしだ。

 切り分けられた一切れにフォークを刺すと、ザクっと軽い音がする。皿のソースをたっぷりつけて。

「カナリィ、王宮での仕事は順調なようだな」

 いざ一口、というそのタイミングで父親が話しかけてきた。構わず一口齧り付く。さくっと軽い衣に、歯応えのある肉の弾力。口の中に脂が広がり頬を喜ばせる。

「なんと今日オーガス卿が来られてな」

 国外での活動がメインの、魔導師であるオーガスが屋敷に来るなんて珍しい。父に頼み事かしら。

 ゆっくり噛みながら肉の旨みを堪能する。

「それも、カナリィ、お前への結婚の申込みだ」

 ごっくん、と飲み込むのと同時に、思わず咳き込みそうになる。

「へぇ!?なによそれ!」

 思わずフォークを置いて身を乗り出した。

「もちろん断ったぞ。当人同士の気持ちが大事だから、と」

「ほっ……」

 そんな突飛な申し出を事前に断ってくれた父に感謝する。

 フォークを手にしてもう一切れ、と手を伸ばそうとした。

「だからまずは当家の庭園でゆっくり話してはどうかと提案しておいたぞ。次の休息日だ。頼んだぞ」

 カツに突き刺したところで固まってしまう。

「そんな!聞いてないわよー!!」

 悲痛な叫び声が夜空に響いた。



 静寂に包まれた夜のとばりの下で、明かりも消えた魔術院が静かに佇んでいる。その北向きの窓を構えた一室。机の引き出しにしまわれた小瓶の中で、獣の毛束は人知れず、あらゆる『空想』の色彩をたたえていた。

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