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ハンガリーから逃げてきた

「相変わらず狭いテントだなあ」

「占いの館ですもの。こういう所でしょ♪ 暑くなるからこれ貸してあげるわ」


 そう言いながらラーダはテントの奥に座ると、オシャレな羽根のうちわを大司教に手渡した。「おう」と大司教はそのうちわをさっそくパタパタと仰ぎながら、テント中央の布の被った小箱の手前のクッションに慣れた感じで座り、ゲオルクもその横に座った。


 テントの中はジプシーの彩色豊かな着物や装飾品がそこら中に置いてあったり飾ってあったり天井から吊るされたりでとても乱雑な雰囲気を醸し出しており、床には毛皮やジプシー特有の織物がこれまたごちゃ混ぜに敷いてある。

 そしてラーダの周りには、どういった時に使うのかさっぱり分からない白黒の石やら動物の骨やら、いろんな占い道具と思われる小物がいろいろと転がっており、それを含めたテント内をラーダの右横の小さな油ランプがさらに妖しく演出していた。

 そしてなんといっても樹木の香りがこのテント全体を覆っていて、今にも身体に染みつきそうだった。

 そして、薄い布一枚のテントなので、外のドンチャン騒ぎが全部聞こえてきて、ゲオルクは少しだけしかめっ面をした。


「それじゃラーダ。頼むわ」

「分かったわ」


 大司教の言葉を合図にラーダは左横に置いてあった木製のロザリオを箱の上に置いたが、その後に妙な歌を歌いながら、羊皮紙と先の焦げた木片を差し出した。

 すると大司教は胸のポケットから、やはり小さな羊皮紙を一枚出して、ラーダに見せた。

 それにはこう書いてあった。


(新しいジプシーの仲間で怪しい人物はいるか?)


 これを見たラーダは顔色一つ変えず、歌いながら羊皮紙に書いた。


(いいえ。でも新しい仲間はいる)


 大司教とゲオルクはその字を読んだ。


「ノッポ。外の様子見てこい」

「ええ」


 二人は小声で会話をし、ゲオルクはテントを出た。テントの中がかなり暑くなってきて、息苦しく感じていたから内心とてもホッとしていた。

 真夏が終わったとは言え、まだ九月。外の気温だってそんなに低くない。最近になって、ようやく過ごしやすくなったところだった。

 ゲオルクは大きく背伸びをして、周りを見渡すと、まだジプシーたちがドンチャン騒ぎの真っ最中。みな酒が進んでかなり出来上がっているようだった。


「お~、ノッポさん! もう占いは終わりかい? まあいっしょに飲もうや」

「ええ。そうですな」


 そう言いながらジプシーたちの輪に入ったゲオルクは、周りに見覚えのない顔がないかさりげなく見渡した。


 すると少し離れた場所に、見慣れない中年男性と、十歳くらいの赤と黒のチェックのスカーフを巻いた男の子が座っている事に気がついた。どうやらこの距離感からして、まだここの住人とは溶け込みきれていないように見える。

 ゲオルクはその二人のところに向かった。


「君たち、言葉は通じるかな?」


 ゲオルクなりに優しく声をかけたつもりだが、初対面のノッポの男に声をかけられた二人は少し怯え始めた。そして言葉は通じていないらしい。


「じゃあ……この言葉は通じるかな?」


 ゲオルクは両手をあげて、敵意はない事を示しながら、今度はハンガリーの言葉で尋ねてみた。

 すると二人は少し驚いた表情を見せ、子供の方が口を開いた。


「あ、あの……ぼくら、ハンガリーから逃げてきて……お、おじさんは、ハ、ハンガリーの人なの?」


「まあ……十年くらい前に訳あって住んでたんだ。そうか。君たちはハンガリーから……大変だったな」


 そう言うとゲオルクは、手に持っている酒を少しだけ飲んだ。

 それに合わせてジプシーの中年男性も酒を飲むと、少しだけ笑顔を見せた。しかしこの中年男性は話そうとしない。見た目がどう見ても堅物で、そもそも会話が苦手なタイプなのかも知れなかった。


「ところでハンガリーから逃げてきたと言ったけど、それは君たち二人だけ……」


 とゲオルクが話し始めた時、駆け足で二人の前に長い黒髪の娘が現れた。ラーダの姪のゾラだった。


「そ、その人たちは何の問題もありません!」


 そう言うと、すぐに男の子を抱きしめた。男の子はビックリしながらもスカーフと同じくらい顔が真っ赤になった。


「い、行きましょ」


 ゾラは二人を連れて、奥の馬車に入っていった。

 どうやらその馬車で、二人は来たらしい。


「まあ……いっか」


 ゲオルクはまた少しだけ酒を飲むと、ラーダのテントに戻った。中はさっきよりも熱気がこもってとても暑苦しく感じたが、まだ占いをしながらの聞き込みが続いており、二人とも汗だくになりながらも真剣そのものだった。


「……とにかく今ローアさんはいろんな所から命を狙われていると思った方がいいわ。気をつけてね」

「ああ、分かったよ。ラーダの胸を揉むまでは死なん。なあ、ノッポ」

「ええ?」


 二人のやり取りを聞いて少し笑ってしまったが、「命が狙われている」というラーダの言葉が気になった。


「よし、今日はもう帰るぞ。じゃあな、ラーダ。まだよろしく頼むわ」


 こう言うと大司教とゲオルクはテントを後にした。


「その新入りは見つけたか?」

「ええ。なんでもハンガリーから逃げてきたって。男の子とオッサンの二人みたいでした」

「それで?」

「まあ、話を聞こうとしたら、ゾラが現れて……」

「なんだ。またゾラに邪魔されたか」


 ここで大司教は笑顔になった。ゲオルクは困り顔である。


「まあ~……僕を恨んでいるんでねっっ。何をしてても邪魔だてされてしまいます」

「まだ誤解は解けんのか? つーか無理か」

「まあ~……無理でしょうなあ~。あ。あの馬車です」


 こうしてゲオルクと大司教は、ハンガリーから逃げてきた二人の入った馬車に向かった。そこにはまだゾラもいた。


「ゾラ。そんなしかめっ面してないで、オレの通訳してくれよ。二人にあいさつするだけだから」


 大司教のお願いに、ゾラは渋々通訳を引き受けた。


「なんか困った事があったらな、オレか、このノッポに声をかけるんだぞ。じゃあな」


 ゾラはちょっと拍子抜けした顔をしながら、その言葉を二人にジプシーの言葉で伝えた。

 すると中年男性も男の子も頭を下げてあいさつをしてくれた。


「よし! 帰るぞ!」

「ええ? 今日はもう飲んでいかないので?」

「んん~……ホントは飲みたいんだけどな。カスパールが待ってるかもしんないだろ?」

「なるほど」


 そんな訳で、大司教とゲオルクはジプシーのテント群を後にした。

ここまで読んで頂き、本当にありがとうございます!

まだまだ続きますので、よろしければお付き合いくださいませ♪

では今回も、本当にありがとうございました!!

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