誰か来ま……
牢獄に取り残されたゲオルクとラーダとクラーマー。見張りの兵士もいっしょに牢屋の中から出られず、目の前にはもう一人の見張り役が倒れ、牢獄の入り口付近では補佐司教が倒れている。
ゲオルクとラーダと見張り役の兵士は、声を出して助けを求めているが、今の所、誰も来ていない。
「ダメね。誰も来ないわ」
「他の連中はどこで何してんだ?」
ゲオルクとラーダが愚痴を言っている間、クラーマーは一人牢屋の角でしゃがんで下を向いてブツブツ何かを言っている。
「ねえゲオルクさん。あの人何言ってんのかしら?」
ラーダとゲオルクは耳を澄ました。
「やはり悪魔の仕業だった……やはり悪魔の仕業だった……ワタクシは間違っていない……ワタクシは間違っていない……」
ラーダは驚いて思わず仰け反った。ゲオルクは苦い顔をした。
「な、なんでこんな事になっても、こんな……」
「……そうやって自分を誇示しないと、生きて来れなかったんでしょう。でももう今は壊れてますな完全に」
「気の毒な人……」
ゲオルクもこのクラーマーを見て、痛々しく感じた。そんな時、
「あ! ゲオルク様! 誰か来ま……」
そう叫んだ見張り役の兵士だったが、言葉を失った。目の前に現れたのは空中に浮いているオロロック。
「ゴメンネ~」
「いいよいいよ! そんな事より、ここを開けてくれ」
「ワカッタ~~」
そう言うとオロロックは、いとも簡単に牢屋の鍵を壊して無理矢理入り口を開けた。
「よし! アンナと大司教が心配だ! 急いで部屋に戻ろう!」
「私も行くわ!」
「いやラーダ! ラーダは彼と人を呼んで来てくれ! それでオットーが脱獄した事を皆に知らせるんだ! それでゾラも探してくれ!」
「分かったわ!」
「わ、分かりましたっっ!」
「あ、君、その剣貸して!」
見張り役の兵士は、驚き過ぎていたのだが、あまりの緊急の事態に、訳も分からずラーダといっしょに牢屋から走り去った。
ゲオルクは見張り役の兵士から譲り受けた剣をブンブンと振りながらまだ一人で牢獄の隅っこでしゃがんでブツブツ呟いているクラーマーに目を移した。
「僕たちも行くからな」
ゲオルクはいつまでも動く様子のないクラーマーを放っておく事にした。そしてオロロックに両肩を掴まれると、フワっと浮き上がり、あっという間に牢屋を後にした。
牢獄から飛び出たゲオルクとオロロックは、大司教とアンナのいる客間まで外側から飛んで戻ろうとしていた。
すると自分のいた部屋から「ダーーーー」という悲鳴が聞こえているきた。
「アンナ!」
ゲオルクとオロロックは慌てて窓の外から侵入すると、ベッドで肩から血を出しているオジさんと、客間の出入り口で剣を構えるオットーの姿。
「ええ? なに~……コレ?」
ゲオルクは意味が分からない。アンナも大司教もいない代わりに、何故かオジさんがベッドにいる……二人はどこ行った?
ゲオルクが混乱していると、オットーが苛立って声をかけてきた。
「も~~話が全然違うじゃないのさ! ここに大司教いるんじゃなかったの? 何でこんなオジさんがここにいるのよ! しかも小生の剣を少し避けて攻撃もしてきたわよ! 誰なのよこのオジさんは!」
「ええ?」
ゲオルクはオジさんをよく見ると、オジさんの右手に短剣が握られている。
「ええ? オロロックが連れてきたの?」
「ソーネー」
オジさんは痛みを堪えて笑顔を返した。そしてオロロックも窓の中に侵入してきた。
「ダーーーーっっ! こんなんじゃ勝てる見込みがないじゃないの~~って言いたいトコだけど、そこの吸血鬼にはこの十字架が効くんでしたわよねえ♪」
オットーはつかさず首にかけていたネックレスをオロロックに向けて掲げると、オロロックは怯んで窓の外側まで下がった。
「いやオットー。十字架でオロロックが下がったとしても、もうおまえに勝ち目はないだろ? もう素直に捕まったらどうだ?」
「それはご遠慮いたしますわよ♪ だって今ここで捕まってもどうせ処刑されるのは分かってるんですから。それなら最後まで戦って死にたいと思うのが、男ってもんじゃないのホントに!」
客間の出入り口を陣取るオットーは、何か秘策があって逃げる機会を伺っているんじゃないかとゲオルクは思い、剣を構えたまま、オットーとの話を続けた。
「どうだ? せっかくだからここで僕と本気で勝負しないか? 一度勝負するのが夢だったんだろう?」
「あらら~~~~! 嬉しい事を言ってくれるじゃないのさゲオルクちゃんたらもう♪ 小生、人生で一度は傭兵の猛者と戦ってみたかったから、今がその機会って訳なのね~♪ もちろんズルはナシよ分かってるわよねん♪」
「その言葉はそのままおまえさんに返すよ」
こうしてゲオルクとオットーは、それぞれ剣を持って戦闘体勢に入った。
部屋は狭く、ゲオルクから見て右側には、昼に宴をした四人がけのテーブルがあり、左側にはすぐに壁。先ほど見張り番からもらった剣は長すぎて大ぶりするとどこかに引っかかってしまう。
そしてオロロックとおじさんはゲオルクの後ろに鎮座するベッドで並んで座って固唾を飲んで見守っている。
狭いなあ……これならオジさんの短剣と交換しておけばよかったかなあ……
ゲオルクは若干の後悔をしつつ、どうこの空間を使うか考えた。
その合間にも、オットーはジリジリと詰め寄ってくる。
「グフフフ。ゲオルク、右足が言う事をきかないのよね~ん。ホントは短期決戦を挑まないと、勝負に勝てないんでしょう? どお? 小生の推理?」
「ふふ……当たり当たり」
ゲオルクとオットーはなぜか両者笑顔で向き合っている。
「わあ~何か楽しいわあ~! こういうの! 小生この瞬間を待ってたのかもしれないわホントに!」
満面笑顔のオットーは、高笑いしながら右側のテーブルの上に飛び上がり、そこから剣を振りかぶってきた。
「こんな攻撃だったら足の踏ん張りもきかないんじゃないかしら~~!」
ゲオルクは左手の剣を両手で持ってオットーの振りかぶってきた剣を受けたが、右足の踏ん張りがきかず、ガクっと右足から体勢が崩れた。
「ほらね~~~~!」
意気揚々とオットーはその右足を狙って剣を振ってきた! するとゲオルクはオットーに向かってでんぐり返しをして股の間をくぐって避けた!
その時に左手の短剣を振ったが、それはオットーも間一髪で避けた。
「まあ~怖い! まさか小生の股の下を抜けるなんて思いもしなかったわよん!」
と言いつつ、オットーはゲオルクに向かって突きの連打をし始めた。
ゲオルクはそれを後ろ後ろに避けたが、背中に客間のドアが当たった。
「ほらほらほらほらほらほらほら~~!」
オットーは右腕で思いっきり剣を突いてきた! その時ゲオルクは後ろの客間のドアを手前に一瞬開くと、オットーの右腕はその隙間に吸い込まれるように客間の外に飛び出した! そしてゲオルクはすぐにドアを思いっきり蹴って閉めた!
「痛~~~~~~~~~~~~~~!」
オットーが右手を挟まれて叫んでいる最中に、ゲオルクは左手の剣をオットーの顔目がけて振った! しかしオットーはその剣を避けると、口から何かが発射! ゲオルクは顔に当たり目をつむってしまった! するとオットーは左手に隠し持っていたナイフを手に持って、ゲオルクの腹目がけて突き刺しにきた!
しかし目をつむったままのゲオルクは、この攻撃がくる事を察知していたので、オットーのナイフが刺さる前に踏ん張りのきかない右足で、オットーの股間を思いっきり蹴り上げた!
その衝撃で、オットーは右腕を挟まれたまま真上に飛び上がり、そのまま床にしゃがみ込んだり転がりと悶絶を始めた。
「グホ~~~~~~! 小生のっっ! あ~~痛い! 一世一代の闘いの最後がっっ……あーーーーっっ! 金的なんてイヤだ~~~~! 奥の手も読まれて小生悔しい~~っっ!」
のたうち回るオットーを横目に、ゲオルクはさっきオットーが口から飛ばしたモノが何か床を見渡した。
「え? 奥歯?」
「歯の一本や二本、すぐにまた生えてくるわよ! あーー痛い~~~~~~~~!」
「生えね~よ」
ゲオルクは、オットーの汚い口を見て、失笑した。
こうしてオットーとの闘いは幕を閉じた。
ここまで読んで頂いて、本当にありがとうございます!
もう少し続きますので、引き続きお付き合い頂けると嬉しいですっっ。
では今回も本当にありがとうございました!!




