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この布、取ってくんね~か?

「……しかしこの死体、ホントに血が抜けたかのように軽いですな!」

「た、確かに軽い……でもなんか臭いですよっっ。やだなあっっ」


「ほら! ゲオルク君もカスパール君も文句を言うんじゃあ~ありません! 誰もこの死体を触りたくないっていうから、私たちで運ぶしかないんじゃないですか!」


「大司教は持ってないじゃないですか!」


 本来ならば街の死体は街の裁判官たちが検死をした後、遺体を運ぶ搬送人たちが教会まで運ぶのだか、先程大司教が脅したせいでみな逃げてしまった。

 そんな訳でゲオルクとカスパールが、街の外れの路地裏で見つかった男の変死体を、布になんとか包んで、両端をお互いに持って教会にセッセと運ぶ事になったのである。

 大司教はその様子を見ながらニマニマと笑を浮かべいっしょに教会へ向かって歩いていた。


 この移動中も、ザルツブルクの民衆たちは遠目で伺っていた。

 あの変死体が、モンスターにやられたなんて事になったら、この街はどうなるのだろう?

 そんなヒソヒソ話もしっかり三人には聞こえていた。


 もうすぐ街の教会という所で、教会からまっすぐ走ってくる男性が一人。

 その顔を見て、三人はめんどくさそうな顔をお互いに見合わせた。


「そ、それですか? 今朝見つかった変死体もいうのは!」

「そうだ、クラーマー。お前も二人を手伝ってやれ」

「え?」


 大司教の言葉にその男は動揺した。明らかに布で包まれている死体を持つのを嫌がっている。まるで毒でも持たされるんじゃないか? と思っていそうな顔をしている。ゲオルクは冷ややかな目をしながら話しかけた。


「クラーマーさん。無理に持たなくても大丈夫ですよ。あなたの手を汚す必要はありません」


「い、いやワタクシはそういうつもりでは……ただ魔物に襲われたと聞いたので慌てて……」


「あれ? クラーマーさん。いつもだったら事件があったら何でもすぐに駆けつけてたのに、今日は遅かったじゃないですかあ?」


 カスパールが素朴な疑問をぶつけた。


「い、いや、今日は教会の中の用事が多くて、き、教会から離れられなかったんですっっ」


 この言い訳を聞いた大司教の目がキランと光った。


「嘘つけ! お前、ドミニコ会の異端審問官なんだから、教会に仕事なんかねーだろうが! あ、お前、この死体が怖かったんだろう? どうだ? 違うか?」


「そ、そんな訳ないじゃないですか! やだなあ大司教~~っっ。じゃ、じゃあワタクシは先に帰って一時保管室の準備をしておきますので! では失敬!」

   

 そう言うと、その男、クラーマーはバツが悪そうに慌てて教会に向かった。


「あれ、怖かったな」

「ええ、そうですな」

「あの人、分かりやすいですね~~」


 三人は笑いながら、なんとか聖ペーター修道院教会に到着した。


 その広い教会の中に入ると、当然ザルツブルク市民や、修道士などがいた。そして当然、噂の変死体を運ばれてくる事も耳にしており、そこにいる全員が、教会の壁側に自然と寄っていき、三人を避けた。


「あ、こちらになりますう~!」


 先に教会に戻っていたクラーマーが、奥の遺体一時保管室の前で大きく手招きをしている。


「アイツ、なんであんなに張り切ってんだ?」

「大司教にいいとこ見せたいんじゃないですか?」

「うわあ~、なんか恥ずかしいですね~~」


 そんな事を言いながら、三人は変死体とともに一時保管室に向かった。


「どうぞ大司教!」

「お前はそこで待ってろ」

「はいっっ」


 大司教の声色にビビったクラーマーはそのまま直立不動となった。

 三人は一時保管室に入ると、そこには人が一人横になれるくらいの机が置いてあり、遺体を包むためのシーツも敷かれていた。

 ゲオルクとカスパールは、布に包まれた遺体をそこにドカっと置いた。


 大司教はすっかり真剣な顔になり、変死体の布をめくろうとした。しかし、やっぱりやめてゲオルクを見つめた。


「おいノッポっ。この布、取ってくんね~か?」

「はいはい」


 ゲオルクはあまり気にしない素ぶりで、その布をめくった。その時、変死体からの腐敗臭がフワっと部屋中に広がり、三人はおのおの手でその臭いから逃げるようにあおいだ。

 こうしてゲオルクが布をめくり終わると、その異様な死体があらためて姿を現した。そして三人はじっくりとその変死体を観察を始めた。


 ミイラのように干からびた皮膚と身体。しかし首筋の獣にでも襲われたかのような傷口は、ミイラのように干からびた感じではなく、やはり少し前まで生きていたであろうツヤも残っており、この傷の中を見ると、若干の血が残っているのも確認できる。よって、この傷から血が抜かれたのは明白であった。


「ん~~……ゲオルク、カスパール。これ、どう思う? 人間がこんな感じで体液が抜かれたような死に方なんてすると思うか?」


「お、おれ、こんなの見た事ありませんっっ。検討もつかないっっ」


 カスパールはこの変死体を観察し直して、かなり気持ち悪くなったらしい。少し顔色が青くなっている。

 しかしゲオルクは全然平気そうで、まじまじと観察を続けている。


「……そうですなあ……。僕もこんなの見たこともないですからねえ……」


 そう言うと、ゲオルクはおもむろに死体の服を脱がせ始めた。


「え! ゲオルクさん! 脱がせるんですかっっ?」

「だってほら……何か身元が分かるヒントとかほしいからね」

「そうだなノッポ。脱がせろ!」


 大司教もしっかり乗り気である。

 そんな訳で服を脱がせ始めたのだが、死後硬直がすでに広がり、全身カッチカチ。よって死体から服を脱がせるにはかなり無理があった。そこでゲオルクは腰の短剣を使って、上着を切り始め、ゲオルクはその軽い死体を手で掴みまくって動かしながら、かなりの時間をかけてようやく服を脱がす事ができた。

 その間、大司教とカスパールは苦い顔で見守るしかなかった。


 そしてようやく三人で死体を観察することになったのだが、ゲオルクはすぐに不審な点に気がついた。


「んん~……この死体、なんだかキレイ過ぎませんか?」

「ああ、傷口以外、妙にキレイな体をしてやがる」

「ホントですねえ~」


 ゲオルクの言葉に二人は同調するも、ゲオルクの言っている事は少し違った。


「この男……。いかにも乞食みたいな服を着ているのに、下着が貴族の着るような白さですよ」

「あ!」


 そこで大司教とカスパールは驚いて、あらためてその死体の下着を見た。確かに乞食とは思えない白さの下着。


「なんだこりゃっ? じゃあ誰か貴族が乞食に化けたってことか!」

「だとしたら今、行方不明になっている貴族を探せば早いですね!」


 カスパールは目の前が開けた感じになり、笑顔を見せた。


「もう少しこの死体を観察しましょう。特徴がきっとあります」


 ゲオルクは冷静に、その死体を動かしまくってのすみずみを観察した。二人はやっぱり苦い顔で見守るしかなかった。


「ん? この男、右の脇にイレズミしてるぞ」


「え?」


 少し離れて様子を見守っていた二人も、その言葉に前のめりになってその右の脇を見た。


 死後硬直により、右の脇あたりにねじ曲がった顔があって分かりにくいのだが、その脇には確かに何かのイレズミが彫られていた。


「んん~……なんのイレズミだあ?」


 ゲオルクが一生懸命に観察していると、カスパールが「あれ?」とこぼした。


「なんだ? カスパール。言ってみろ」

「あ、あの……これ……兄のハンスじゃ……」


「ええっっ?」


 三人は固まってしまった。


今回も最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!

まだまだ序盤ですので、よろしかったら次回もお付き合いくださいますと幸いです♪

では本当にありがとうございました!!

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