止まらない
クラーマーにいいように捕まってしまったゲオルクとラーダとゾラの三人。オロロックは十字架があり、近づけず、三人が連行される時には暗闇に紛れてしまった。
こうして三人は、昨日放り込まれた牢屋に逆戻りしてしまったのだった。ラーダとゾラに至っては、本日二回目の牢屋となった。
しかも隣の鉄格子だけで仕切られた牢屋には両手に鎖、両足には足かせの付いたままのオットーがニマニマしながら座っている。
「あらあら♪ さっきはすぐにここを出てったのに、お嬢さま方はもう戻ってきたのね♪ しかもゲオルクまで連れて♪」
「もう私たちに構わないでください」
ラーダは素っ気ない態度をオットーにとり、ゾラはオットーから顔を背けた。
ゲオルクは、何かこの男が要らない情報を手にしていないか気になっていたと同時に、ゾラに話したゾラのオヤジさんの事も気になっていた。
そんなオットーは、三人の気を引こうと鎖を無駄にジャラジャラ鳴らし始めた。
しかし三人は無視。その行為にオットーは苛立ちを見せた。
「ゲオルク。ゲオルク! ゲオルク・グルーバー! ちょっと相手してよ! もう! 小生ずっと話し相手がいなくて寂しかったのよん! お願いだから相手してほしいのさっっ」
ゲオルクは無視を決め込んだ方が今は正解な気がしたので相手にしなかった。
するとそれを察したオットーは、いじけた顔を見せた後、ニヤリと悪い顔をしてゾラに話しかけた。
「ねえゾラ。ゾラちゃん。さっきちょっと話したでしょ。ゾラちゃんのね、お父さんをコイツ! コイツが捕まえたのよ! あの時、お父さんが捕まらなかったら、この街はまた変わってたのに! もう小生残念!」
ゾラは耳を塞いだ。
「オットー。それくらいでもうやめなさい。ゾラは聴きたくないって」
ゲオルクは渋い顔で忠告した。
「あらゲオルク! 小生とようやく話してくれたわね♪ ありがたいわあ~♪ 実はねゲオルク、小生、ゾラのお父さんの処刑の時、あの時ね、見物人の中に混じって拝見してたんですから。あの時は、長年いっしょに仕事してた仲間があんな形で殺されてね、小生はホントに、本当にいつかゲオルク! あなたを倒してお父さんの仇討ちをしようと心に決めてましたのよん! まあ昨日は負けちゃったんだけどね♪」
オットーは鎖をジャラジャラ言わせながら、忠告は全く聞いていない様子。
「ゾラ、あなたのお父さんはね、そりゃ~腕の立つ男でね。弓も剣も、持たせたら一流だったのよ~。だから、いろんな人から頼られて、小生とよく闇のお仕事をしてたっ訳。でもね、よく考えてほしいんだけど、その闇のお仕事って、表側はそりゃあイケナイお仕事と思うかもしれないけど、一般市民の皆さんの、心の声を代弁して行ってるとも言えるのよ。あの時だって、大司教が税金を無理矢理上げて、苦しんでる姿を見た私たちの雇い主が、頼んできたんだし。それをこの男、ゲオルクがお父さんの邪魔をしたから、そりゃあ市民のみんなも本音はガッカリしたって言ってたわよホントに♪」
「ちょっと! ウソつきなさい! そんな声、私聞いてないわよ!」
つかさずラーダが割って入った。
「ああ~~ラーダさん怖い~~! でもラーダさん、あなた占い師ですわよねん? その頃、税金が高くて困ってるっていう相談、いっぱい来たんじゃあ、あ~りませんの?」
ラーダは一瞬黙ってしまった。ゾラとゲオルクはそんなラーダの顔を見た。ラーダはそんな二人を見て、我に返った顔をした。
「ほら~~♪ ラーダの顔を見たでしょ~~。ゾラちゃん。コイツらはねえ、偽善。偽善で動いているのよ。もうそんな人達とは別れて、小生といっしょに仕事をしない? あなたはお父さんの血を受け継いでるから、絶対に剣も弓もすぐに上達すると思うのよん♪」
ゾラは思いもしない誘いにビックリして顔をあげた。ゲオルクはゾラの目線の前に移動して、オットーを見えないようにした。
「ゾラ。あんな奴の言う事をまともに聞いちゃあダメだ」
しかしオットーは止まらない。
「ほ~らゾラちゃん見た? ホントの事を言われたから、ゲオルクは必死になって小生を止めようとしてるんですわよ♪」
「聞いちゃダメ! もうやめてください!」
ラーダも止めに入った。
「ああ~~もうつまんないなあ~~。でも多分、ゲオルクとラーダがここにいるって事は、小生は釈放されると思うのよね~~♪ だってほら♪」
「ええ?」
ゲオルクとラーダは固まった。すると牢獄の入り口付近から、何やら上機嫌な鼻歌と、スキップでも踏んでいるような軽やかな足音が聞こえてきた。
「やあやあやあやあゲオルクさんにラーダさん♪ ゾラさんはかわいいですねえ~♪ あなた方に朗報です♪ 何と、先程! 大司教以外の司教とザルツブルクの貴族たちと相談した結果! 正式にあなた方を尋問する事に致しましたーー! そして無実の罪で捕まったオットーさん! あなたは釈放♪ あの緊張する場面で、あんな告白をしたあなたは素晴らしい! もうこんな街、来たくもないとは思いますが、これにめげずにまたいらしてください♪ おい! そこの君! オットーさんの鎖と足かせを取っておあげなさい!」
「ちょっと! ウソでしょ?」
ラーダは思わず叫んだ。ゾラは震え始め、ラーダの腕を掴んだ。
「おまえクラーマー。 ああ~……大司教抜きにそんな事決めて、いいと思ってるのか? 補佐司教は反対しただろ?」
ゲオルクはクラーマーに問うた。
「いやいやいやいやゲオルクさん。ワタクシの立場をお忘れか? ワタクシはドミニコ会の異端審問官。つまりワタクシはザルツブルクの人間ではない。あくまで直属はドミニコ会なんです♪ その異端審問官のワタクシが、このザルツブルクで起こっている魔術的な怪事件を、この専門で行っているワタクシが! 中心になって解決しないでどうするって話なんですよ! それをみなさんも承知してくれたんです。どうやら大司教は客間であなたのいた部屋でお酒が回りすぎて寝ちゃったらしいですし、補佐司教は反対したけど、みんながワタクシに賛同して補佐司教は下がるしかなかった! そして、こんな怪事件を解決できるのは! そう! こんな怪事件を解決できるのは! このドミニコ会異端審問官のワタクシ以外! 考えられないのです!」
クラーマーは自分の演説に感動して全身が震えている。ラーダとゾラはその演説の気持ち悪さにお互いを抱きしめ合い、ゲオルクは開いた口が塞がらなかった。
「そしていいですか? こんな怪事件の魔術で操られていた最大の被害者が、ここにいるオットーさんなんです! この方の釈放に、誰か反対すると言うのでしょう! いや誰もいない! あなた方を除いて!」
これを聞いたオットーは、涙を出してクラーマーにたいして両ひざを床につけて感謝した。
「ゔゔ~~っっ、ありがとうございます! クラーマー様! 小生、こんなに感動した事はありません! 小生、オットー・フォン・ニーマン三十五歳独身! クラーマー様の言う事でしたら、これから何でも聞きますので、何なりとお申し付けくださいましホントに♪」
「ええ? ホント~~~~? そんなに感謝された事ないから、ホントに嬉しいなあ~♪ 人助けって、いいなあ~~~~~~♪」
すっかり有頂天のクラーマーと、異常にゴマをすっているオットーの二人を見たラーダとゾラは、かなりショックを受けて下を向いた。
ゲオルクは一人苦い顔をした。
そんなゲオルクを見たクラーマーは、更に笑顔を返した。
「どうだ? ゲオルク? これで魔術を使った事を認めるしかないなあ~? そして黒魔術師ラーダ! おまえが首謀者なのかなあ? これからワタクシ! ドミニコ会異端審問官ハインリヒ・クラーマーが、じっくりと尋問してあげるから、今はそこでじっくりとその時を待つがいい! ナハハハハハハハハハハーーっっ!」
ゲオルクは、この展開はまずいと思いながらも、打開策が頭に浮かばず更に苦い顔を見せた。
ここまで読んで頂いて、本当にありがとうございます!
こんな感じでまだ続きますので、よろしければ次回も引き続きお付き合い頂けると嬉しいですっっ。
では今回も本当にありがとうございました!!




