あれ?
中央宮殿の客間に戻って数時間、そろそろ外が暗くなってきた頃、大司教は昼過ぎから飲んだワインが効いてきて、かなり酔っ払ってしまった。
「おお、悪い! オレ、ここでちょっと寝るわ」
「あ~……そんな予感はしてましたけど、いいですよ。こっちのベッドで横になってください」
「あ、ここアンナが寝てたベッドか?」
「違いますよ!」
こんなやり取りを終えると、大司教はガッツリ寝てしまった。
「ゲオルクちゃんごめんねえ。まさかここまで酔っ払っちゃうとは」
「いやあ~、大司教だいぶ精神的にシンドいと思いますから、こうなるのは分かります」
「私がいるから大丈夫です」
なぜかアンナは大司教の面倒を見る気満々になっているので、補佐司教も「じゃあ頼むわ」と、部屋を後にした。
「さて……と……」
ゲオルクは部屋の隅々を見回し、ドアを開けて廊下の確認も済ますと、キッチンの食器棚に入っていた小さな銀のフォークをアンナに手渡した。
「この部屋、これぐらいしか身を守れる物がないけど……」
「うん。持っとく」
「ああ~……部屋の外には見張りが三人くらい立ってたから、よっぽど大丈夫だと思うけどね。もし、もし妙な用事で部屋に入ろうとする人間がいたら、絶対に入れないようにな」
「うん! 絶対に入れない」
「さて……」
ゲオルクは外を見た。もうすっかり日は落ちている。
そして窓の外には、黒いマントに身を包んだオロロックがすでに待機していた。
「キノウハ、ゴメンネ~」
「いいよいいよ。それよりも話はベルキかオジさんから聞いたな? 行くぞ!」
ゲオルクはオロロックに両肩を掴まれた。
「じゃあラーダとゾラの救出に行ってきますので、後よろしく!」
「はい! 行ってらっしゃい! 旦那さま!」
ゲオルクとオロロックは、アンナの目の前からフワっと窓の外に躍り出た!
ノンベルク修道院はホーエンザルツブルク城の東側、山を下ったすぐそばにある。
ゲオルクとオロロックはすぐに修道院近くの上空まで来た。
「イルネ~」
「ええ?」
ゲオルクは修道院の前を眺めると、入り口付近にクラーマーらしき人物が目に入った。
「ああ~……裏の森に隠れよう。誰もいない?」
「イナイネ~」
「よし!」
ゲオルクとオロロックは、修道院の裏の森に着陸した。周りは森が茂っている為かなり暗く、月明かりがあっても夜目がきくゲオルクにも前を進むには躊躇が必要だった。
しかしそれ以上に、オロロックが着地してゲオルクを離した後、そばの木にもたれかかったのが気になった。
「大丈夫か? オロロック?」
「ダイジョブネ~。スコシ、ツライネ~」
これは大丈夫じゃなさそうだっっ。
ゲオルクはなぜオロロックの調子が良くないのかは分からなかったが、この場所に長居しても意味がないので、とにかく先に進む事にした。
「オロロック。来れるか?」
「ココ……イタイネ~」
オロロックは修道院を指差した。
どうやらオロロックには、この建物自体から痛みを伴っているようだ。ゲオルクはそれを理解して、オロロックはその場で待機させる事にした。
そして茂みの中を過ぎ、誰もいないか用心しながら修道院の裏口までゲオルクはなんとかやってきた。
ゲオルクは静かに裏口をノックした。
すると修道院長がすぐに姿を現した。
「まあまあゲオルクさん。よく来ましたわね。事情は聞いています。二人をすぐに読んできますからね」
「あ、表にクラーマーが待機しているので、聞こえないように静かにお願いします」
「え? 分かりましたわ」
そう言うと院長はすぐに奥に消えて、ラーダとゾラが姿を現した。心なしかサッパリしている。
「体を清めさせてもらっちゃったわ」
ラーダは嬉しそう。ゾラも何も言わず下を向いているが、やっぱり嬉しそうな表情を浮かべている。
「ラーダ、ゾラ、あまり時間がない。すぐそこにオロロックが来てるからそこに行こう」
「分かったわ」
ラーダとゾラは、院長に丁寧に挨拶を済ますと、静かに裏口から外に出て、ゲオルクと共にオロロックに向かって静かに歩き始めた。
しかしオロロックの姿が見えない。
あれ? 場所間違えた?
ゲオルクが思ったその時だった。
「よおーーーーし! 現場を押さえたぞゲオルクさんーーー! そこのジプシーも取り押さえろ!」
いきなり森の中から兵士たちが姿を現した!
「ええ! あれ?」
ゲオルクはオロロックを探した。すると、木の上の方にオロロックのような人影を辛うじて見つける事ができた。
あれ! 何であんな所にオロロックはいるんだ?
ゲオルクがそう思った時、クラーマーが高々と十字架を差し出した。
「そう! これ! 吸血鬼は神が苦手なのです! ワタクシが調べたとおり! 効果抜群でしたよ~~! いやあ~、かなり古い文献を漁って漁って、ようやく見つけたんですよ! ホント、調べてよかった~~!」
うわ~……マジか~~……っっ!
ゲオルクはクラーマーのその勉強っぷりに驚かされた。ただでさえ弱まっていたオロロックは、クラーマーの用意した十字架で逃げるしかなかった事を、ゲオルクはすぐに理解した。
「でも何で僕たちがここに降りたのが分かったんだ?」
クラーマーはその声も気持ちよく聞いていた。
「あのですね~。ワタクシが、正面に立っていたらあなた方は必ず修道院の後ろに回るでしょう♪ それぐらい、サルでも分かります♪ なので、ワタクシの協力者たちに、一定の場所で裏側を監視してもらっていたんですよ! なあ! みんなあ~~!」
修道院の裏側のいろんな場所から、兵士やら、貴族たちが姿を現した。
「ああ! あんた達は……」
「そう! 本日のオットーの供述を聞いて、ワタクシの意見に賛同して頂いたみなさんです! どうですかあ? やはりあなたは悪魔崇拝者だ! だって目の前に本物の吸血鬼を連れてやってきたのだから!」
ゲオルクはこの状況、ちょっと動くには無理があるっっ! と思い、両手を上げた。
「すまん。ラーダ、ゾラ、ここは投降しよう」
「ええ!」
ラーダとゾラはかなり失望した様子で、その場で崩れた。
ここまで読んで頂いて、本当にありがとうございます!
後半戦もまだ続きますので、宜しかったら次回も引き続きお付き合い頂けると幸いですっっ。
では今回も本当にありがとうございました!!




