ソレ、ソレ~
アパートの四階からハンスの家に向かったゲオルクとオロロック。
ハンスの家はかなり近く、広場を挟んだ向かい側の貴族たちが住むアパートの三階にあった。
なので、あっという間にそのアパートの入り口まで来た。
ドアは閉まっており、鍵もかけられている。空き巣防止の為だろう。
ゲオルクは一瞬どうしようか迷ったが、オロロックに静かにドアを開けるよう頼んだ。
するとオロロックは軽くドアノブに手をかけると、ゆっくりとひねり、バキッ! と音が立つまで回した。
「ふ」
ゲオルクは平然と鍵を壊してしまうオロロックについ笑ってしまった。オロロックも笑みを浮かべている。
こうしてゲオルクは玄関ドアを開け、中に入った。しかしオロロックは玄関から中に入ろうとしない。
「オロロック? 中に入れよ」
「イケナイネ~」
ゲオルクは意味が分からない。それを察したオロロックは、目の前で玄関ドアから入ろうとした。
すると玄関に空気の壁があるようで、オロロックの鼻はグニャと曲がった。
「ええ? 何それ?」
「ウマク~、イエナイネ~」
すっかりオロロックの事をあきらめ、ゲオルクは仕方なく一人ハンスの家を捜索する事になったが、全く灯りがなく、夜目のよくきくゲオルクとしても、室内ではとても暗すぎて何も把握できない。
ゲオルクは困った。そこでオロロックに聞いた。
「オロロック。部屋の中は見えるのかな?」
「ミエルネ~」
「ああ~……じゃあさ、僕に指示してくれないか? どこに何かあるか僕には分からなくて」
「ワカッタネ~」
そういう訳でゲオルクはオロロックの指示を聞きながら、部屋を捜索し始めた。
しかし見えるの玄関から見えるところだけ。これまた困ったと思ったゲオルクは、なんとか窓まで行ってカーテンを開き、窓を全開にした。
「オロロック、寝室の窓も開けるから、窓から指示して」
「ワカッタネ~」
オロロックは返事をすると、一瞬で窓まで移動し、ゲオルクに指示を始めた。ゲオルクはあまりの速さに驚いたが、それよりも手がかりを……と思っていたので、すぐに平常心に戻って捜索を始めた。
ベッドの下、暖炉、テーブル、タンスの引き出しなど、いろいろと調べたが、手がかりになりそうな物は出てこない。ゲオルクは焦った。
当然と言えば当然で、この場所はすでに補佐司教たちによって一度調べられた後。その状態で手がかりが出てくる方が奇跡なのだ。
「オロロック。何か、その時にあった犯人の手がかりになりそうな……何かないかなあ?」
ゲオルクは自分でも何を頼んでるんだ? と思いながらオロロックに尋ねた。窓の外のオロロックは少し考えた。
「ン~……パン~……タベタモノ~……アッチ~……」
「食べたもの?」
ゲオルクはキッチンに行くと、パンの切れ端をいくつか見つけた。
「ソレ、ソレ~」
ゲオルクはオロロックにパンの切れ端を渡した。するとオロロックは、その一つ一つを丁寧に臭いを嗅ぎ始めた。
ゲオルクは(臭いで分かるのか?)と疑問に思ったが、オロロックはゲオルクに笑顔を見せた。
「ワカリマシタ~! ココネ~!」
オロロックはそういうと、窓の外をふわりと移動して、隣りのアパートの一室を指差した。
「ええ? 臭いでそこまで分かるの?」
大慌てでゲオルクはそのアパートの入り口の前まで移動した。
「ここは……ハンスとカスパールの親父さんの家……」
ハンスとカスパールの親父さん、シュテルン卿は長らくザルツブルクに尽くした名門で、そのアパートの一階から四階全てを所有していた。
ゲオルクは何か胸騒ぎを覚えながら、ドアをノックした。
…………
無言。こんな屋敷なら、使用人も在住しているからどんな時間でも出てくれると思ったが、誰も出てこない。
ゲオルクは嫌な予感がしつつ、ドアノブをひねった。
キィ~……
「ああ~……開いちゃったねえ~……。これはヤバいかもねえ~……」
ゲオルクは中に入ろうとしたが、またオロロックは入らない。
「オロロック? ここもダメ?」
「ハイレナイネ~」
まあ~……仕方ない。
ゲオルクは左手の短剣を抜いて、玄関を入って行った。
ここまで読んで頂いて、本当にありがとうございます!
まだまだ続きますので、次回もお付き合いして頂けると嬉しいです。
今回も本当にありがとうございました!!




