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ギチギチ

 失踪届けが出て無事発見されたのに、クラーマーに捕まりホーエンザルツブルク城まで連行される事になったゲオルク。


 道中、街の人たちはゲオルクを見てどういう流れか理解できず、困惑気味の様子。

 それは妻のアンナもいっしょで、城内に入った所で迎えにきたアンナは兵士二人に連行されるゲオルクを見て目をまんまるにした。


「な、なんで? どゆこと?」

「んん~……大司教に知らせて!」

「わ、分かった!」


 混乱した顔のアンナはそのまま、大司教を探しに城内に消えた。

 こうしてゲオルクは城の奥の、牢獄に通された。当然、先に連行されたジプシーたちが二十人くらい、三部屋あるのにギチギチに無理矢理一つの牢屋に入れさせられていた。

 そして、この牢屋にゲオルクも入れさせられた。ただでさえ狭い空間に二十人くらい、九月とは言え、この密集度では熱気もすごければ湿度もかなり凄かった。そこに来て人間の体臭とジプシー特有の樹脂と動物の皮の臭いが混ざり合い、ゲオルクは内心「勘弁してくれよ」と思った。


「なあノッポさん? あんたもかよっっ」

「オレたち処刑とかされないよなあ」


 先客のジプシーたちは、これまた当然のようにゲオルクに不満をぶつけてきた。それに対してゲオルクは苦笑するしかなかった。

 すると占い師のラーダとオジさんもそこにおり、声をかけてきた。


「なんでゲオルクさんも?」

「ねえ」


 ゲオルクはこちらにも笑顔で返す事しかできない。

 ただ、こんな狭い一つの牢屋に二十人近くのジプシーたちがいる中で、ハンガリーの少年と、ゾラの姿が見当たらない事にゲオルクはすぐに気がついた。

 ゲオルクはラーダに小声で聞いた。


「ゾラと少年は?」

「あの子たち、たまたま川に草を取りにいったのよ」

「ああ~……なるほど」


 ゲオルクは、あの二人が捕まらない事を祈った。

 そして、あの馬車からオロロックが見つからない事を祈った。


 するとまもなくアンナと共に沸騰寸前の大司教が姿を現した。


「これ? どういう事だよ? 外のジプシーたちをこんなトコに連れて来て! あの野郎めちゃくちゃじゃねえか!」


 この怒涛にビックリしたアンナは少し下がってしまった。

 一方でラーダは鉄格子越しに大司教に声をかけた。


「ロ、ローア……大司教っっ! これ、どうにかならないの?」

「ああ、今、解放してやるからな! おい、おまえら、ここのジプシー全員解放しろ!」


 大司教が若い兵士たちに命令した。すると「ちょっと待って!」と慌ててクラーマーが走って来た。


「何してるんですか? 大司教? この人たちは、容疑者です!」

「何の?」

「ザルツブルクを崩壊させようと悪魔を呼んだんです!」

「おまえ、頭イカれてんじゃねーのか? 話にならねえ! 全員解放だ!」

「ダメです! これはドミニコ会異端審問官のワタクシの特権です! 許しません!」

「はあ?」


 大司教は思わずクラーマーの頭をどついた。


「あ、ああ~! ワタクシに手を挙げましたね? あなたも悪魔に身体を乗っ取られているんだ! そうに決まってる!」


 クラーマーの意味不明な見解に大司教も堪忍袋の尾が切れた。


「てめえ殺されてえのか! オレはここの大司教だぞ! おまえがドミニコ会の異端審問官かなんだろうが、こっちはおまえを追放する権利もあるんだよ! これ以上くだんねー事言うんなら、ここから出ていけ!」


 この言葉にクラーマーは少したちろいだ。


「あ、ああ~……わ、分かりました。ここはワタクシが一旦引きましょう。しかし、これだけは譲れません! そこの女性とその奥の男、この二人はゲオルクさんを誘拐した容疑でここに残させます。それとゲオルクさんも何か妙な事ばかり先程言っていたので、ここに入れておいてほしい。ひょっとすると、何か重要な事を隠している可能性があります」


 そこの女性と奥の男とは、もちろんラーダとオジさんである。


「何だとこの野郎……」


 大司教はゲオルクとラーダとオジさんに目を向けた。


「おい、クラーマー! てめえ少し席を外せ。オレはゲオルクと話がある」


「はあ! ダメで……」


 と言いかけたクラーマーだったが、あまりの大司教の威圧感に負けて、そのままスゴスゴと後ろに下がった。

 そこで牢獄に入った三人に近ついて、声をかけた。


「いいか。必ず出してやる。ラーダ、待ってろよ。そこのアンちゃんも悪いな。それで、ゲオルク。カスパールの話は聞いたか?」


「ええ、先程。でもそれ、本当なんですか? カルパールだってそこそこ剣の腕は立ちますよ」


「そうなんだよ。でも本当みたいだ。まだオレも確認できていないんだけど、今、補佐司教に見に行ってもらってる」


「ああ~……そうなんですか……。あ、それ絡みで昨日情報をもらいましてね。どうやら犯人は、ワラキア語しか話せないようです。それでソイツ、たぶん大司教を狙ってると思われます」


「何、本当か? んん~~、ヤな情報だけど、それだけでもいい情報だ。ていうか、お前、昨日どうした?」


「ああ~……それが……」


 ゲオルクは大司教の後ろにクラーマーが近づいている事に気がついた。


「あ、あの~……そろそろ……」


「うるせえ! ちょっとまってろ! アンナ! こっちおいで! 旦那さんと話したいだろ?」


 ビビりまくっているアンナだったが、ここでようやく牢屋の鉄格子越しまでやってきた。


「あんた……大丈夫?」

「ああ……大丈夫だ。大司教を呼んでくれて、ありがとうな」

「すぐ戻って来れるよね?」

「もちろん」


 その言葉を聞き終わると、アンナは大司教と後ろに下がった。そして二人が完全に離れると同時に他のジプシーたちは解放された。


「ラーダ、必ず出してやるからな! ゲオルクも待ってろよ」

「あんた! 待ってるからね!」


 こうして大司教とアンナ、他のジプシーたちは去り、あれだけ賑やかだった牢獄には、ラーダとオジさんとゲオルクの三人だけになった。

 正確に言えば、見張り役が一人、廊下の椅子に座っているが。

 先程までとは打って変わって静まり返ったこの牢獄で、ラーダは不安そうな顔を見せた。

 

「ゲオルクさん。私たち、どうなっちゃうの?」


「さあ、分かりませんな」


 ゲオルクはそう言うと、二人の事は気にしないそぶりで汚い牢屋の床に横になった。

ここまで読んで頂き、本当にありがとうございます!

まだまだ続きますので、引き続き次回も読んで頂けると嬉しいですっっ。

今回も本当にありがとうございました!!


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