五章 模擬戦闘訓練開始
ネクサス体を使った訓練を始めて1週間が経った。訓練兵のみんなはどんなアビリティにするのか決まってきているようだ。
そして今日、ザイゲン教官が訓練兵にこう告げた。【今日から本格的な戦闘訓練を行ってもらう】と。
訓練兵たちはざわめく。これまではネクサス体での基礎訓練とアビリティの確認しか行ってこなかったからだ。それがいきなり戦闘訓練を行うとなっては驚くのも無理もない。
【訓練は別の場所で行う。ついてきなさい】とザイゲン教官が訓練兵に告げ、ついてくるように促す。訓練兵たちは言われるがままついていった。
☆
【戦闘訓練って何やるんだろうね】とアパルが楽しそうに質問した。
【戦うことしかわからないけど、楽しみね!】とサクリも楽しそうにしている。元気でかわいいと思うオッフルだった。
【お前らは気楽でいいよな……】とオッフルに2人を羨ましそうに言った。オッフルは楽しみよりも不安が勝っているらしい。
【オッフは心配しすぎなのよ! やってみれば何とかなるわ!】とサクリがオッフルに言う。こいつは本当に恐れを知らないのかと思ってしまう。
【そうやで~やってみないと分からないんやから気を張っても意味ないで~】と声をかけてきたのはディーテルだった。ゲリンゼルとケヴェアと一緒に歩いていた。
【僕も不安なんやけど、ディーテルさんがこう言ってるので考えるのをやめました】とゲリンゼルが言った。なんか言葉が訛っている気がした。
【せやせや、気にせんといきましょ】とケヴェアが言う。やはり訛っている。
【……お前らディーテルと一緒にいすぎて言葉なまったよな】とオッフルが2人に思ったことを言った。しゃべり方がディーテルに似てきているのを感じた。
【【そう??】】とゲリンゼルとケヴェアがハモって言う。それに驚いてみんなで笑いあった。
そんな会話を遠くで聞いていたフリューゲル。ちょっと羨ましそうにしている。
【混ざりたいなら一緒に行きますよ】とヒューレンがフリューゲルに言う。フリューゲルは図星をつかれたが【そ、そんなことはない】と誤魔化した。
ラピスラズリが【私たちの前で嘘ついても意味ないよ】と答え、【行きましょ!】とシャレルが手を引いてオッフルたちと合流した。幼馴染の連携はこういう日常でも活きるものである。
一方、ジーニアスはニアとアステールと歩いていた。この3人は一緒にいることが多いみたいだ。
【戦闘訓練……どんなのなんだろう】とニアがちょっと不安そうにしていた。
【ちょっと楽しみでもあり、不安だよね】とアステールが言う。2人とも不安そうだった。
【わからないものは怖いと思うものよ。でも、やればわかる。一緒に乗り越えましょう】とジーニアスが2人に声をかける。ジーニアス自身も不安はあるだろうが、それを悟られないように励ましていた。
【お前さんも不安そうだけどな】とレクエルドが声をかけた。
【みんな不安だろ】とカムラッドがみんなに声をかけた。
【あなたでも不安になるのねカムラッド】とジーニアスが返答した。ちょっと意外だったのかもしれない。
【でも楽しみのほうが大きいかな! やっと魔法を使って戦えるかもしれないからな!】とテンションが高いカムラッドだった。それをみてさゆりはかっこよく思った。アングリフはいつも通り元気だなぁと思った。
みんな様々な思いを抱えながら戦闘訓練へ臨む。
☆
5分ほど歩いて洞窟に入る。その洞窟は整備されており、人が往来しているのがわかる。道なりに進んでいき、一本道を過ぎる。
【ここだ】とザイゲン教官が訓練兵に告げる。そこは大きい訓練所だった。
実際の戦闘を想定したかのような設計の大きい地下修練場がそこにはあった。スナイパーの狙撃場所、高低差のある地面、広いスペース、遮蔽物など、実際の戦闘にある条件を満たした空間だ。一番高所には広いスペースと石板が置かれていた。その高所に訓練兵21名とザイゲン教官が今いるのだ。訓練所を一望できるその場所はまるで観戦席のようだ。
【すげぇ】と声を漏らすオッフル。訓練兵のみんなも似たようなことを述べていた。
【まずはチームを組んでもらう。3人か4人のチームを作りなさい】とザイゲン教官が訓練兵にチームを作るように促す。
訓練兵たちはもう決まっているかというようにいつものメンバーでチームを組んでいた。
【では隊長を決めなさい】とザイゲン教官が言う。隊長か。難しいなとオッフルが考えていた。
オッフル・アパル・サクリの3人は話し合う。
【隊長だってさ。どうする?】とオッフルが質問する。
【僕はオッフルがいいと思う】とアパルが言い、【私もそう思う!】とサクリが続けて言った。
オッフルは納得がいかず、反論する。【俺でいいわけないだろ! 頭が特別いいわけでもないし、運動は出来ない。俺はサクリかアパルがやるべきだと思う!】と猛反発である。
【このチームは君のためのチームだ。君を守るためのね。そう誓っただろう?】とあの日誓ったことを思い出すアパル。
「君1人ならすぐ死ぬだろう。だから、僕も付き合う」「オッフルの母さんに頼まれたしね。オッフルを頼むって」。この言葉があったからアパルは軍へ入隊したのだ。
【わたしもオッフを守るために入隊したんだから、あなたが隊長をやりなさい! やらないならチームは解散するからね!】と無茶苦茶をいうサクリ。だが、その言葉に嘘偽りはない。
【お前ら……】とオッフルは考える。サクリは学力が1位で運動も8位と高水準、一方アパルは運動が1位で学力が18位と戦闘なら高スペックだろう。オッフルは学力が7位、運動が20位と戦闘には向かない。やはり俺は向いていないのではないだろうか。そう思った時である。
【成績云々を考えているなら関係ないよ。むしろ君は頭がいい。君の指示で僕らが動きやすくなると思う】とアパルはオッフルをフォローする。本音の言葉だ。
【そうよ! オッフは機転が利くし、隊長に向いてると思うわ!】とサクリからもフォローされた。
ここまで言われたら断れないと思ったオッフル。覚悟を決め、【わかった。俺がやるよ。でも、俺には自信がない。だから2人とも協力してくれ】とオッフルは2人にお願いした。
【【当然!!】】と2人はあっさりと承諾してくれた。ネクサス隊が誕生した瞬間である。
☆
隊長が決まり、それぞれの隊長が前に出るように指示があった。前に出てきたのはオッフル、カムラッド、ジーニアス、ディーテル、レクエルド、フリューゲルだった。
【ではこれを受け取りなさい】とザイゲン教官がチームの人数分の水晶を渡す。
【それは実戦用の水晶だ。アビリティも左右4つずつ、計8つまでしか使用できない】とザイゲン教官が説明をする。本来のネクサス体では利き手に4つ、もう片方の手に4つアビリティや武器を持つことができる。それらを組み合わせて戦うのだ。
【そこの石板にその水晶をセットし、頭に思い浮かべたアビリティがセットされる。まずはそれを一通りおこないなさい】とザイゲン教官が言う。石板を通じてアビリティを入れ替えることができるわけか。
訓練兵たちはアビリティをセットしていく。オッフルたちも考えたアビリティをセットし、準備を完了する。
【では、模擬戦闘訓練を始めよう。基本、三つ巴か四つ巴でチーム戦を行ってもらう。最後まで戦い抜いたチームの勝利だ】と戦闘訓練の説明を行った。
【教官! 戦闘用のネクサス体が解けたら生身になると思うのですが、大丈夫なのでしょうか?】とサクリが質問する。生身になるということは死を意味する。攻撃を食らったら文字通り死んでしまう。
【この空間はこの石板から魔法で『魔力を回復し、換装が解けた者をここに瞬間移動させる魔法』が施されている。死にはせんし、何度でも訓練ができるので安心しなさい】と教官が返答する。なるほど、なんどでも死に覚えができるようになっているのかとオッフルは思った。
【まずはネクサス隊、フリューゲル隊、レクエルド隊の3隊は石板の前で詠唱しなさい。そうすれば仮想戦闘フィールドに1人一人がランダムに転送される。そこからは自由に戦いなさい】とザイゲン教官が指示を出した。
ネクサス隊、フリューゲル隊、レクエルド隊の3隊は石板の前でこう呟いた。【ネクサス・アクティベート】と。
☆
戦闘訓練1戦目は散々であった。
アパルとサクリは素人目ではあまり問題はなかったと思う。
問題はオッフルだ。まず、弾が当たらない。遠くの敵を狙うのに弾が当たらず居場所がバレてしまう。ムキになって連射してもシールドで防がれてしまう。あとは想像に容易いだろう。近づかれておしまいである。
ザイゲンがこっちに近づいて、俺にこう言った。【スナイパーは居場所を知られたら不利だ。数発打つたび居場所を変えて常に隠れている必要がある。弾を外すのは練習不足だが、撃ったらとりあえず居場所を変えてみろ。あと、ステルスは常時使っておけ。居場所がバレてたら警戒されてシールドで防がれてしまうぞ】と。
おっしゃる通りである。俺はムキになって撃ち返したが、スナイパーは居場所を知られたら不利なのだ。
【ありがとうございます。勉強になります】とオッフルはザイゲン
【うむ、今後も励めよオッフル】と一連のやりとりを終える。ザイゲンは一人一人アドバイスをして回っているようだ。
【すまん、めっちゃ足引っ張った】とオッフルがアパルとサクリに謝る。自分のミスだと自覚しているからだ。
【構わないわ!いきなり上手くできたら訓練なんていらないもの!】とサクリが返す。
【サクリの言う通りだね。それに僕らもまだまだだし、オッフルは気にしすぎなくていいんだよ】とアパルもオッフルをフォローする。
めっちゃ情けないが、2人がこう言ってくれるのは心底助かると思うオッフルだった。
とりあえずザイゲン教官が言ってくれたことを意識してやってみよう。そう思った。
☆
2戦目【ジーニアス隊】対【カムラッド隊】対【ネクサス隊】
ジーニアスとサクリ、アパルが斬りあっていた。
ジーニアス隊とカムラッド隊はリーダー以外全滅したようだ。ネクサス隊は全員生存している。
2対1だが、ジーニアスは剣技で2人を圧倒していた。
ジーニアスは一般教養が2位、基礎体力訓練で2位の俊才である。また、8つの頃から剣を習っており、ソードアートコンテストという剣技を競う大会で準優勝している強者である。
彼女は太刀一刀流であり、臨機応変に左右の手で剣を持ち、相手の攻撃を捌いていた。
ジーニアスの右側からサクリが切り込む。ジーニアスは左手に持っている太刀受け太刀をする。その隙にアパルが後ろから切り込みにかかる。
アパルを察知したジーニアスは太刀に右手を添えてサクリの剣をはじき飛ばし、横にステップを踏んで躱す。
交わした先に向かうアパル。アパルの右手から小型剣が振るわれる。それを受け止めるジーニアス。
アパルは追撃で左手の小型剣を突く。それを察知したジーニアスは体の重心をずらし、突きを避ける。
避けた後、アパルを後ろへ押し出し、体勢の崩れていたサクリに切り掛る。
ここがチャンスと言わんばかりに俺は引き金を引いた。
【ライフル】は遠距離から相手を狙撃する攻撃用のアビリティだ。見た目は火縄銃に近いが、スコープがあるので狙いを定めやすい。アビリティの中で1番攻撃距離が長いのが特徴だ。
ライフルの銃声音が聞こえ、弾が一直線に飛んでいく。その弾は真っ直ぐとサクリへめがけて飛んで言った。サクリは銃撃と斬撃によってネクサス体が解除された。
「?!」オッフルは確かにジーニアスを狙ったはずである。味方を打つのはトラウマものである。
オッフルは頭が空っぽになってしまった。
サクリからボンッと音とともに煙が周囲を覆う。サクリは石盤の前に戻っていた。
ネクサス体はダメージを受け、活動限界になると解除される。しかし、地下修練場では『魔力を回復し、換装が解けた者を石板の前に瞬間移動させる魔法』が施されている。そのため、魔力が尽きても再装填され、石板の前に戻る仕組みだ。
1人になったアパルは再びジーニアスに斬りかかる。体を回転させて体重を乗せて右の剣で斬りにかかる。
ジーニアスは受け太刀をし、衝撃を左に流してアパルを受け流した。
【な?!】と声を出すアパル。地面についたアパルをジーニアスが太刀で一刺し。2人の勝負は決まった。
俺は放心しており、その後ジーニアスに狩られてネクサス隊はジーニアス隊に負けた。
その後、ジーニアスが俺を斬った後にカムラッドと合間見える。その距離20メートル。この距離ならカムラッドが有利だ。
【プリマーヤ!】とカムラッドが叫ぶ。先手を取ったのはカムラッドだ。でかい珠体を細かく分割した弾を散弾のように放つ。
『プリマーヤ』は直線に飛んでいく弾である。特殊性はないが、威力が高めで、飛距離が長めである。
ジーニアスはシールドを2枚使い、全身を覆って守る。そして、シールドで全身を守り突っ込んでいった。
『シールド』は丸型の障壁を具現化し、相手の攻撃を防ぐアビリティだ。メインとサブに必ずと言ってもいいほど使われる必須級のアビリティである。
【クルヴァ!】と叫び、弾を上、後ろ、左右の4方向へ同時に放った。
『クルヴァ』弾の一種だ。『プリマーヤ』に比べると射程と威力は落ちるが、その分相手を追尾する効果がある。
クルヴァを4方向に放ってシールドを広め、足を止める作戦だろう。
ジーニアスはなお突っ込む。距離10メートル。あと10歩程度だろう。ネクサス体なら数秒で踏み込める距離だ。クルヴァが4方向から襲いかかる。ジーニアスは大きく踏み込んでクルヴァを交わし、弾アパルには弾に当たって相殺された。
【アングル!】とカムラッドは叫び、弾は12方向に飛び散った。
『アングル』は弾の一種である。軌道を自分で設定し、好きな弾道を飛ばすことができる。弾1つずつにコントロール権があり、それぞれを違う弾道で飛ばすことが可能である。
アングルがジーニアスを各方面から襲うが、ジーニアスは全身をシールドで守り、漏れた分を太刀で切り裂いた。
【メテオ!】と叫び、カムラッドが分割なしの弾を放つ。
『メテオ』は弾の一種だ。直線上に飛んでいき、着弾すると爆発する攻撃用のアビリティである。
前方向に2枚のシールドを貼りつつ前進するジーニアス。メテオを完全に防ぎ、カムラッドの目の前まで近づいた。
距離3メートル。あと一歩で太刀が届く間合い。
【くそッ!】と言い、カムラッドは後ろの崖を飛び降りる。
【……獲った!】と言い剣を振るうジーニアス。
【エクスラッシュ!】と叫ぶジーニアス。
刹那、斬撃が伸び、カムラッドの体を一閃する。ボンッという音と共に煙が周囲に散らばり、カムラッドは石板の前に転送された。
『エクスラッシュ』は剣のオプションアビリティだ。斬撃を魔力で具現化し、正面に飛ばす攻撃用のアビリティである。
今のはバックステップをしたことから弾が飛んでこないのを確認してシールドを解き、オプションのエクスラッシュで伸びる斬撃を放ったのだろう。読み合いがそこにはあった。
【試合終了!集合だ!】とザイゲンが言う。それに合わせて集合する訓練兵たち。
【カムラッドよ、弾の扱いがまだまだだな。もっと工夫して打つといい】とアドバイスするザイゲン。
はい!と返事して工夫の仕方を考え始めるカムラッド。こいつは試行錯誤が上手い。
【オッフルよ。お前……落ち着け。失敗は誰にでもある。それをどう活かすかが大事なのだ】と俺にも労いの言葉をくれた。
「そうよ! オッフが失敗するのなんで百も承知だわ!」とミスを気にしていない様子のサクリ。
しかし、スナイパーというポジションにトラウマを覚え始めたオッフル。失敗は成功の母とはいうが、失敗は引きずりやすい。完全に負の面に押し潰されていた。
これが本番だったらサクリが死んでいた。これが本番だったら俺のせいでサクリが。これが魔獣相手だったら。オッフルはそう考えて仕方なかった。
【……ネクサス隊、今日はもう休め】とザイゲン教官が休むように促す。
訓練はまだ途中だったが、俺達ネクサス隊は特別に休みをもらった。正直今のままでは訓練にならないので妥当な判断である。胸にしこりを残して訓練を終えたオッフルだった。




