二章 基礎訓練 初日
今日、伝えられたことがある。神になるということだった。神とは何か、よくわからないが、受け入れるしかないみたいだった。
☆
「本日も昨日と同じ訓練をしてもらう。各自こなすように」と教官が訓練兵に告げる。
ザイゲン教官は昨日の印象だと少し怖くて厳しいが、本来はどうなのだろうと思うオッフルだった。
「今日も同じ訓練なのね! 頑張りましょう!!」と明るく声をかけてくれたのはサクリだった。
「元気やなぁサクリちゃん。うちも見習わんとやな」というのはディーテルだった。
「そうだな!一緒に頑張ろうぜ!」とカムラッドがみんなを鼓舞する。
「私も頑張ります!」とカムラッドの妹のアングリフが呟く。
「お前さんたちは元気だなぁ」とレクエルドが呟いた。オッフルは共感していた。
「僕らも頑張らなきゃだね。一緒に頑張ろう」とアパルはオッフルを鼓舞した。
「がんばればなんとかなるわ。一緒に頑張りましょう」とジーニアスも応援してくれた。
「クヨクヨしても始まらないし、とりあえず頑張るか」と気持ちを切り替えたオッフル。
皆、覚悟を決めて訓練に臨む。
☆
訓練は本当に昨日と同じみたいだ。一般教養の試験を行い、山道を走る。正直ここが一番しんどいと思うオッフル。
「ハァ、ハァ……」と呼吸を乱しながら走るオッフル。何人もの訓練兵に追い抜かれていく。ただ、一人を除いては。
「待て、オッフル……ハァ、ハァ……、そんな急ぐな……ハァ、ハァ……」と声をかけるのはカムラッドだった。
「ハァ、ハァ……お前、本当に……運動、できないんだな……ハァ、ハァ……」と返すオッフル。それに「まあな」と返すカムラッド。整った顔は疲れで歪んで今にも倒れそうだった。
こいつには負けない。そう思ったオッフル。そんなことを考えていると。4人がまとまって走っているグループを発見した。
「あいつら、固まって走っているな、ハァ、ハァ……」とオッフルは呟いた。なんだか不思議だったからだ。
「ハァ、ハァ……、あいつらは4人とも幼馴染で、ずっと一緒に……行動しているらしいぜ……ハァ、ハァ……」とカムラッドが苦しそうに返す。4人とも幼馴染で一緒に行動しているのはオッフル自身、サクリとアパルを思い浮かべ、なんとなく親近感がわいた。
「まぁ、とりあえずあと一周、お前には勝つ!!」とカムラッドがペースを上げてきた。急に抜かされたオッフルも「負けねぇ!!!」と追い抜き返す。近い実力で競い合える奴がいる。それだけでこの辛い訓練を乗り越えれるとオッフルは思った。今日も2人同時に、一番最後にゴールした2人だった。
☆
先にゴールしていたレクエルドは隠れて葉巻を吸っていた。葉巻は20歳からであり、当然彼女は違反している。見つかればただじゃすまない。彼女が煙を吸い込み、それを吐く。レクエルドはまるでこの世で最もおいしいものを食べているかのような顔をしていた。
「ねぇ、あなたそれ」と女性に声をかけられた。レクエルドは驚いて不審な挙動をしたが、教官ではないことが分かって安堵した。
「あげねぇぞ。お前さんはルールを守りな。いいことねぇぞ」とレクエルドは返した。自覚はあるみたいだ。
「あら残念。私のもっているものと交換してほしかったんだけどなぁ」と金髪の女性は返す。レクエルドは興味を持った。
「何を持っているんだ?」と直球に聴くレクエルド。相当興味があるみたいだ。すると女性は「これよ」と腰からスキットルを取り出した。完全に酒である。
「……それはルール違反じゃねぇか?」とレクエルドは呆れたように返答した。「これが一目でわかるあなたも相当ね」と女性に返された。女性はどう見ても成人していなかった。
「等価交換よ。どう?」と持ち掛ける女性。レクエルドは少し考えて「乗った」と返した。女性に葉巻を渡し、指先から火を魔法で出した。
「ありがとう。私はアウローラ・グラマーよ。よろしくね」とアウローラの名乗る女性はスキットルを渡そうとしていた。
レクエルドは手で静止し、「訓練が全部終わったら飲ませてくれ。酔いはバレる」とレクエルドにしてはまともなことを言った。「私はレクエルド・コンパーニョだ。よろしく」と手を伸ばし握手をした。
☆
筋トレも終わり、剣術の訓練が始まった。オッフルはアパルとサクリが鍔迫り合いをしているのを見ながら、さっき見かけた4人組が気になった。
ふとレクエルドが見えた。知らない金髪の女性と楽しそうに鍔迫り合いをしていた。どうやら二人は打ち解けたみたいだ。そんなことを知らないオッフルは誰だろうと思いながらさっきの4人を探していた。
4人で固まって訓練をしているのが見えた。全員女性だったので、少し話しかけるのをためらってしまった。 その間、アパルがサクリに剣を突き刺していた。決着がついたみたいである。
「昨日から思っていたけど、アパルは剣が上手ね!!」とアパルを褒めるサクリ。とてもかわいいと思うオッフルだった。
「ありがとう。昨日ジーニアスに言われたことを落とし込んでやってみたんだ」とアパルは言う。その成長速度と貪欲さが素晴らしいなと思うオッフルだった。
そこに、カムラッドが逃げるようにこちらにやってきた。多分ジーニアスが強すぎたんだろう。
「お前、ジーニアスに負けまくってこっち来たんだろ」とオッフルはカムラッドをいじる。
「だってあいつ強すぎるって!!!」とカムラッドは必死に弁解していた。まあ、気持ちはわかるオッフルだった。そんなことを考えていると「あいつらが気になるのか?」とあの4人組が気になっていることを言い当ててきた。
「よくわかったなって顔だな。ずっと見ていたじゃねぇか」とカムラッドが追い打ちをかける。そんなずっと見ていたかな……と思うオッフルと、嫉妬しているサクリ。それを見て笑っているアパル。
「まぁ、ちょっと気にはなるよな。どれくらい仲がいいとかさ」とオッフルは返した。純粋に自分たちと重ねて疑問に思った。
「ま、俺に任せとけ」とカムラッドが言い、「着いてこい」と言うカムラッド。ジーニアス、アングリフ、ディーテルを拾って4人組に向かっていった。
「そこの4人、ちょっと勝負しようぜ」とカムラッドは4人組に声をかけた。
笑顔が素敵な茶髪の女性が「勝負ってどんな勝負?」と返答した。
「4対4の模擬戦ってのはどうだ?」とカムラッドは提案する。茶髪の女性が3人に相談する。銀髪の凛々しい女性が「面白そうね」と漏らす。銀髪の明るい女性は「私はいいけど、リューゲは?」と緑髪の凛々しい女性に尋ねた。「……いいわよ」と返すその女性。
「とまあ、勝負を受けることにします」と笑顔が素敵な茶髪の女性が申し出を受けると言ってきた。
「ありがとな!こっちからはジーニアスとアパル、サクリとオッフルが戦う。よろしくな」とカムラッドが勝手に決めた。オッフルは「勝手に決めやがって?!」とカムラッドに言うが、「お前のためにやってんだろ」と返された。何も言い返せない。
あちらは幼馴染で、こっちは幼馴染+ジーニアス。なんか勝てる気がしてきたオッフルだった。
「頑張りましょう。私がカバーするわ」とジーニアスが頼もしい言葉をかけてくれたので、不安が消し飛んだ。
8人が剣を構える。やはりジーニアスがとびぬけて隙が無いが、相手の緑髪の女性もそれに劣らない構えだと遠目で見ていたザイゲンが分析していた。ザイゲンはコミュニケーションの一環にもなるだろうとこの勝負を見て見ぬふりをしてくれている。
カムラッドが合図する。よーいどんと。
その直後、アパルが敵陣へ突っ込んでいく。ジーニアスが制止しようとしたが、相手の出方が気になって止めなかった。その代わりジーニアスもカバーできる範囲まで前に出る。それにつられてオッフルとサクリもついていく。
アパルの動きはまるでイノシシのように真っ直ぐだが、とても速い。相手の4人が驚くほど速かった。この訓練の後に出せるスピードか?!とオッフルも驚いていた。
相手は茶髪の女性が受け太刀をする。カン!という木刀のぶつかる音がする。いったん下がろうとしたアパルだが、すでに後ろに緑髪の女性と銀髪の凛々しい女性がアパルの背後をとっていた。銀髪の明るい女性は茶髪の女性の後ろで構えている。
銀髪の凛々しい女性がアパルに切りかかる。アパルは横に転がり、木刀を避ける。そこに緑髪の凛々しい女性が切り掛る。それをジーニアスが受け太刀をし、事なきを得る。「いったん下がるわよ」と伝え、下がろうとするが、2人の周囲を4人が包囲していた。一瞬で形勢が不利に傾いた。
そこにサクリとオッフルが縦に切り掛る。相手の4人は目を合わせ、頷くと緑髪の凛々しい女性が二人の間を抜けて木刀を二人に叩き込む。一瞬でサクリとオッフルが落とされた。
3人になった隙に、ジーニアスが銀髪の凛々しい女性を下から切り上げた。下から来るとは思わず、防御が間に合わないまま落とされる。その隙にアパルが2人を倒した緑髪の女性に突っ込んでいく。その勢いでノックバックするが、受け太刀はできている。ジーニアスは2人と切りあっていた。
「アパル、私が2人を倒すまで持ちこたえなさい!」とジーニアスが感情を表に出して伝える。剣のことになると感情的になるのかもしれない。「了解!」とアパルは返した。
1対2だが、ジーニアスは全く動揺していない。勝つのが当たり前という気概さえ感じる。ジーニアスは自分からは動かない。相手の出方や隙を伺っていた。
一方、相手の2人は相談しあっていた。それを隙ととらえたジーニアスが銀髪の明るい女性に切りかかる。茶髪の女性は少し剣が扱えると気づき、そうでないほうを落とそうという判断だ。茶髪の女性が間に入るが、それを読んだかのような剣筋で銀髪の明るい女性を木刀に当てる。これで1対1である。
その一方でアパルが連続で剣を振るうが、すべて防がれてしまう。
(当たらない!どうすれば?)と考え、思いっきり前に出たアパル。驚いた緑髪の女性は咄嗟に木刀を横に凪ぐ。それを低い姿勢になってよけるアパル。そのまま木刀を突いて攻撃する。横に体をひねり、木刀をかわし、距離を取ろうとした時だった。後ろからこつんと木刀で叩かれた。
緑髪の凛々しい女性はきょとんとしている。振り向くとそこにはジーニアスがいた。ジーニアスが茶髪の女性を倒し、加勢したのだ。
「そこまで!」と教官が告げた。周囲を見渡すと、みんながこっちを見て拍手している。
「あのまま切りあっていればフリューゲルがアパルに勝っていただろう。アパルはもう少し戦術を学べばかなり伸びるだろう。ヒューレン、シャレル、ラピスラズリとのコンビネーションは良かった。だが、ジーニアスが剣において強すぎたようだな。あとはみんな練習して強くなることだ」とザイゲン教官が総評を述べた。8人は「「「「「「「「ありがとうございます!!!!!!!!!!」」」」」」」」と返事をした。
「ありがとう。4人ともすごい息が合った連携だったよ」とアパルが緑色の凛々しい女性に握手を求めながら言った。緑髪の女性は握手こそしてくれなかったが「君もすごい動きだったよ」と返してくれた。
「すいません、この子ちょっと人見知りだから照れているんですよ」と茶髪の女性が代わりに握手をしながら答えた。「私はヒューレン・レッデゥン。よろしく。こちらの人見知りの子がフリューゲル・クラルテ。あとの二人が……」と話していくと、銀髪の二人が自分で説明したがっていたのでヒューレンは説明を止めた。
銀髪の明るい女性は「シャレル・ショールヴァイト! シャルって呼んで! よろしく!」と言い、銀髪の凛々しい女性が「ラピスラズリ・ヴァルナー。仲良くしてくれるとうれしいわ。よろしくね」と自己紹介をした。
ヒューレンが「私たちは生まれた時から一緒らしいの!だからお互いの考えていることとかがなんとなくわかる気がするんだ」と返した。
「俺たちも一緒なんだ。俺はオッフル。すばしっこいのがアパル、かわいいのがサクリ」とオッフルは説明した。雑な説明だなぁと思うアパルと、突然かわいいと言われて照れるサクリ。
「ジーニアス・セカンダリよ。よろしくね。フリューゲル、ヒューレン、シャレル、ラピスラズリ」と全員の名前を口にする。やはり記憶力がいいなと思うオッフルだった。
その後、教官からせっかくだから自己紹介の時間を設けようかと言われ、皆があいさつした。全員で21人。覚えきれない。みんな同じだろう……ジーニアス以外はと思うオッフルだった。
訓練が終わり、お風呂に入った。共用エリアでは牛乳が売っており、エウポリアでは大人気の飲み物だ。人気過ぎて購入制限があるくらいだ。
そんな牛乳を飲まずにお酒を飲んでいる2人がいた。レクエルドとアウローラだ。
「お酒って思ったよりうまくねぇんだな」とレクエルドが感想を述べた。思っていたよりはおいしくないらしい。
「葉巻と一緒よ。最初はそんなもん。あと、味より飲んだ後の気持ちがいいのよ」とアウローラは返す。
「……たしかにフワフワな感じがするな」とレクエルドは返した。ちょっと気に入っているようだ。
現場を目撃してしまった二人がいた。
「なんだ?お前らにはやらんぞ?」とレクエルドが二人に言う。
「気にはなるが大丈夫だ。それより、ばれたらやばいんじゃないか?」と銀髪で中性的な男性が言う。本当にその通りである。
「その覚悟を持って嗜んでいるんじゃないか?兄貴」というのは金髪のイケメンだった。
「そうよ。スリルを嗜んでいるの。よい子はマネしちゃダメよ」とアウローラが告げた。それはそうだ。
「まあ、俺たちファクト兄弟は誰にも言わないと誓うよ。俺はハハム・ファクト。銀髪のほうが兄貴のリフレイン・ファクトだ。よろしくな」と金髪のハハムが自己紹介をした。
「助かるぜ。私はレクエルド・コンパーニョ。こっちはアウローラ・グラマー。よろしくなお前ら」とレクエルドも自己紹介で返した。
秘密の共有をしてしまった4人である。
☆
不審な動きで牛乳を飲む男性がいた。その男性に「なんでこそこそ牛乳飲んでいるん?」とディーテルが話しかけた。その男性はびっくりしてむせていた。
「……背が小さいから、大きくなるために飲んでいるだ。でも、そう思われるのが恥ずかしくて隠れて飲んでいたんだ」と返答する男性。確かに小柄である。男性陣が平均160㎝あるのに対し、その男性は150㎝くらいで、ディーテルと大差なかった。
「別にええんとちゃう?小さくても君は君やろ。えーっと確か……」と言うが、名前が思いつかなかった。
「ゲリンゼル•カームです。よろしく。ディーテルさん」と律儀に返すゲリンゼル。
「覚えてくれてたんやなぁ!うれしいわぁ!」と喜ぶディーテル。それを見てゲリンゼルは心を奪われたかのような顔をしていた。ディーテルはめちゃくちゃかわいいくてコミュ力もある人柄だ。心を奪われるのも無理ない。ゲリンゼルは慌てて逃げ出してしまった。
「?どうしたんやろ」とディーテルが言う。罪な女だなと皆が思った。
「あなたかわいいわね!」とシャレルが牛乳を飲みながら言った。多分、本音+恋心に疎いところを言っているのだろう。
「ありがとぉ~!シャレルちゃんもかわいいでー!」とシャレルをほめるディーテル。
(正直、訓練兵の女性みんなかわいいよな)と思うオッフルだった。
シャレルとディーテルの会話で女性陣が集まり、女子会が始まった。男性陣はここにいるのはよくない気がすると思い、外に出た。
風が当たり、気持ちの良い夜だった。風呂上がりだからかもしれない。そこにカムラッドが「どうだ、やりあった感想は」と聞いてきた。アパルも一緒だった。
「連携がスムーズで、いつの間にか蚊帳の外だった」とオッフルは返した。何もできなかった自分を少し恨んだ。
「多分フリューゲルが起点なんじゃないかな?ジーニアスが言っていたけど、シャレルとヒューレンを作戦会議していたところが隙だと思ったって言っていたよ」とアパルが言う。確かにフリューゲルは全体を見て目で指示を出していた気がする。
「まあ、これからいっぱい強くなっていこう。そのための訓練だ」とオッフルが言い、みんなで食堂へ向かった。
その夜、寝室で男性陣、女性陣ともにオッフルとサクリの恋愛事情についての話で盛り上がって訓練兵初日は終わりを告げた。




