077 状況
「お帰りなさいませ。ご無事を疑っては居りませんでしたが……流石に心配致しましたよ。さぁ、お掛け下さいな」
安堵した顔で迎えてくれたサヤに促されてテーブルに付くと、すぐに彼女は簡単な夕食を用意してくれた。
「他の皆は先に食事を済まされましたの。お二人で最後ですわ」
彼女の言葉に既に遅い時間なのだと納得したのか、イェライシャも食事に手を付けはじめた。
その隣について、サヤは今日の事を色々と俺達に教えてくれた。
「ラトーがあの仕掛けが使われた事を感知して……すぐにミシェイルがあの辺りの聞き込みに行ったんです。その時に得られた情報は、歩行の二人連れとクァーナ人が数人という事だったのですが……この辺りで私達が知らないフィルダウスの民が居るはずもありませんし、直接王国から来た者なら仕掛けなぞ使う必要もなく、自分達の自力で戻る事が出来るはずです。ラウ様もそれをいぶかしんでいた所へ、夕刻過ぎにスーイン様のお屋敷から……お二人が馬を置いたままだと連絡があって……あなた方が危ない目に遭ったのだと判ったのですわ」
サヤは珍しく饒舌だった。それだけ俺達の事を心配していてくれたのだろう。
「しかし、パドマさまからすぐに連絡は無かったのか?彼はラグヌス以下の者達に、クァーナ人を詳細に調べるよう指示を出しておられたようだ。俺達を迎えにくるのが遅れた理由を、ラグヌスはそう言っていたから」
「ラウさまは……何も言っては居られませんでしたわ?」
怪訝そうなサヤにようやく確信を持つ。
ラウドラチャクリンは既に知っていたのだ、あの仕掛けを使ったのが誰かを。
そしてその上で俺達に危険は無いと判断して、放置したのだ。
現場の処理が済み次第、パドマさまの配下が此所まで送ってくれるのを承知していたから。
「……どうかしたの?ファド」
不安げなイェライシャの声にふと我に帰って、思いっきり寄せていた根眉を元に戻す。
如何にも不機嫌そうな顔をしていたのだろう俺に、サヤも思い当たったらしく彼女は急に笑顔になった。
「ファド様がご一緒だったから、ラウさまも安心しておられたのですわ」
それを疑う訳ではないが、他にも彼の思惑を感じ取れなくもない。
なんだか今更なんだが、かなり心配性の身内を持った気分になった。
「ねぇ、ファド……教えてくれない?ラウ……ヴァルさまの事」
仕方なく大きな諦めのため息をついた所で、そう続けられたイェライシャの言葉にサヤが固まった。
「ヴァルさまって……イェライシャさんっ!」
「気付かれたんだ。随分……早かっただろう?そうそう、それで明日から……俺もヴァルとイェライシャのお供でフィルダウスに行くんだよ」
慌ててイェライシャを見つめたサヤに、俺としては微笑むしか無い。
「……情報源は貴方でしょう?」
どうしてだか俺には厳しい視線を注ぐサヤだが、一応俺の名誉の為に反論はしておく事にした。
「大半はね。けれど決定打を打ったのは俺じゃない。多分……ラグヌスだ」
そう言ってイェライシャを見つめると、彼女も同意の印だろうかうなづいて寄越した。




