030 焦思
「どんな言葉を使ったのかは知らんが、また彼女を怒らせたようだな」
部屋を出て行くイェライシャの後ろ姿を見つめていたら、そうラウドラチャクリンに冷やかされる。
流石に言い返す元気も無く、不機嫌な顔で彼を睨んでみせた。さほど明るくはない食堂の明かりでも見て取れるだろうと言うのは承知の上だ。
食事の間、彼とイェライシャの何気ないやり取りが俺の不機嫌に拍車を掛けていた。
それが只のジェラシーだと自覚はしているが、何事かをラウドラチャクリンに囁かれて頬を染めていたイェライシャに、そして何となく思わせぶりな態度を取るラウドラチャクリンにも、妙に納得のいかない気持ちで居たのだ。
「粗忽で不器用な男なんで……何が彼女の気に障ったのかも判っちゃ居ないんですがね」
「わたしに八つ当たりならお門違いだよ、あのまま黙って食事をするつもりだったのか?気まずい食事の席なぞわたしはご免だからな、せめて会話くらい普通に出来るように歩み寄っても良いだろう」
自虐的な言葉を口にする俺の、不機嫌の多くを理解していたらしい彼の言葉につい苦笑いが込み上げる。
「安心しましたよ、貴方が彼女に食指を動かす気になったのかと……余分な心配をする所だった」
「お前……油断していると、そうなるかもしれないよ?彼女が頬を染めるのを見てると、初々しくていいし、ね」
何とか余裕のある様子を繕おうとしていたのに、彼の更なる発言で流石にその仮面も外れそうになってしまう。
悪戯心たっぷりに微笑むラウドラチャクリンはそこまで見透かしていたのだろう、少しばかり改まった表情に戻って、グラスへとその視線をもどした。
「一時の軽い気持ちでなく……本当に連れて行きたい相手なのなら、きちんと捕まえておかなけりゃ」
少し前の親父との話し合いのこともあり、彼のその言葉に返事が出来なくて、自分のグラスを見つめ続けていた。
夕食前の俺と親父そしてラウドラチャクリンとの話し合いは概ねがイェライシャの今後の事だった。
勿論他の打ち合わせもありはしたが、一番長い話題だったのは間違いない。
親父は相変わらず気乗りがしないと言う態度で、俺の説得はおろか、ラウドラチャクリンの言葉でさえあまり真面目に聞いていないようだ。
けれどその間のラウドラチャクリンの言葉はかなり好意的なもので、俺としてはかなり心強かったのだが。
結局、最後はイェライシャが自分の世界と決別でき、そしてフィルダウスの守護者の許可を得られるのならば全てを認めようというものに落ち着いていた。
初めの頃に俺との間で合意に達した事以上に進展する事は無かったのだ。……こっちはこっちで難関だよなぁとも思う。
例え次代国王の推挙があり、身元保証人としての俺の存在があったとしても、何の属性も無い、つまりはメリットの無い者を簡単に迎え入れる事が出来る程、フィルダウスの懐は大きくはない。
勿論俺としてもそれが排他的だからと言う訳ではなく、この国の成り立ちからしても、そして現在の状態からしても慎重にならざるを得ないからだと言うのは理解してはいるのだが。
やはり狭き門……という印象を拭う事は出来なかった。
そして俺はと言えば、彼女を怒らせてばかり居る粗忽な男らしいから、彼女からの所謂……いい返事……を受け取る事が出来るのかさえ怪しい雲行きだった。
短すぎなヘタレターン・・・すみません。
ヘタレに拍車が掛かり中で、くよくよしちゃってます。




