003 交渉成立
配分ミスで、少ないです。
「な……」
瞬間異議を挟みそうになって、慌ててラウ……ラウドラチャクリンを見つめる。
同じようにうろたえたイェライシャ嬢の視線をふと感じたものの、意図の分からないラウの真意を見極める方が重要な気がしていた。
けれど深めにかぶったフードから伺えるのはいつも通りの余裕の微笑みだけ。
俺の方が背が高い分、奴の表情が判りづらい。
年齢からしても未婚の女性、しかも他国の貴族に同室の提案って……正直まともな神経じゃない。
これじゃあ、同行を申し出たのがこちらとは言え、断ってくれと言っているようなものじゃないか。
どうしてだかその事に少し焦りを感じて俺はラウを見つめ続けて。
「……わかりました。その条件で異存はありませんが、当然道中の安全も保証頂けるのですね?」
だからそう彼女の声が答えたとき、意外なその答えに驚くと同時に、それだけ彼女には前に進まなければならない、のっぴきならない事情があるのだとも悟ってしまった。
「勿論、可能な限りですが」
それらすべてを見透かしているかのようなラウは、何食わぬ顔でそう答え、そして続けた。
「我々はこれからご希望通りイクシールへと向かいます。その首都ツァイデアルに在る我々の商家にて荷を選別して、編成し直し次第……最終目的地であるルクアディナルフアへと出発します。貴女の宜しい所迄ご同行下さって構いませんが、御家族の元へお戻りになる気になったなら、早いうちにおっしゃって下さい」
彼はそう言うと、商人に相応しからぬと常々言い聞かせている、貴族顔負けの優雅な礼をして隊の方へと戻っていった。その背を見送り、娘……イェライシャ嬢に目を戻すと彼女は少し青ざめた顔で口元を両手で覆っていた。
心なしか震えてすらいる。
「驚かせてしまいましたか?」
問い質そうとしたが、彼女は口をつぐんで首を振った。
「では、貴女の荷物を取りに行きませんか?何処かの宿に預けてあるのでしょう?」
さっきの広場で見せた高飛車な態度からは想像出来ないほど弱々しく見えるその姿に、アレは廻りを威圧する為の虚勢だったのだと思い当たった。
むしろ今の姿の方が地のようだ。
世慣れても居ない貴族の娘がたった一人とは、かなりの訳ありという事か。
そう納得した俺は、何食わぬ顔で彼女を誘うと自分達の宿を後にした。




