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暁の銀嶺と黄昏の蒼  作者: 天野原 唯
13/110

013 暴露

 



 次の朝、前の晩眠る時に決めた事をなんとか実行しようと思い、ラウドラチャクリンが一人で居る頃、処を掴まえようにも、何処に居て何をしているのか……。

 見つけられないまま出発となってしまった。

 昼の間と云えば馬の上だし、常に隊商の誰かと一緒だったりして話しかけるチャンスはなかなか出来ず、ようやく声を掛ける事が出来たのは夕方、次にたどり着いた町の宿の厩だった。


「ラウ……あの、少し話をしても良い?」

「どうかしたの?」


 愛馬……ヴァージャというらしい……の首に手をのせて一人佇んでいたラウドラチャクリンは私の声に顔を上げた。

 そして何気無いいつもの声と表情で返事をくれる。

 前の晩ファドラーンに指摘されていなければ、傷付いたそぶりを見せない彼に、知らずとは言え無遠慮な言動で私は彼を重ねて傷つけてしまっていたかもしれない。

 それに敏感に気付いていたのか、姿形は似ていないし、言動には妙なぎこちなさが感じられるものの、流石にファドラーンと彼は兄弟を名乗っているだけはあるなと思わせられて。

「イェライシャ?」

 ちょっと気拙い思いで言い淀んだ私をラウドラチャクリンが促す。


「あの……昨夜……夕食の時の話で……私、皆の気持ちも考えないで勝手な事ばかり言って……あなたにも嫌な思いをさせたと思うの。ごめんなさい。それを言いたくて」


 言おうと用意していた言葉を立て続けに口にした後、反応を伺う様にラウドラチャクリンを見上げる。

 不思議そうな……というのか、おや?という表情の彼に、私の言いたかった事がきちんと伝わっているのかと不安になった。

「私の独り善がりな考えで、貴男を不快にさせるつもりは無かったの。……ご免なさい。これからは気をつけるわ」

「誰にでも独自の考え方があって当然だろう?……それに同行させてもらっているからって変に遠慮する必要も無いし、大丈夫だよ。……それとも、わたしはそんなに脆い人間に見えるのかな……?」

 重ねて口を開いた私に、何の事か思い当たったのかラウドラチャクリンは優しい声で返事をくれた。

 普段の落ち着き払って今ひとつ感情の読み取りにくい彼からは、想像出来ないくらいに優しい声でつい……ため息が出そうになった。 


 こんな声で囁かれたら……そうあの青い瞳の昏い底なしの恐怖に気付いて居なかったなら、礼儀正しく接してくれるファドラーンに惹かれるよりも前に、私はこの目の前の美しい男性に夢中になってしまっていたかもしれないわ。

 そう考えて昨日のファドラーンが見せた不思議な表情を理解出来た。


 多分ファドラーンは、今迄にこの『弟』に夢中になってしまった娘達を多く見て来たのだわ。

 そして私がラウドラチャクリンに惹かれてしまうのではないかと危惧したのかしら。

 けれど、ラウドラチャクリンの瞳の深さ……その昏さに気付けないような娘達と私を一緒にしたのね、と心の隅で少し悔しい気持ちになった。


「でも……昨夜だって、あんなに冷え込んでいた夜だったのに外で水垢離を取るなんて、……無茶よ。風邪をひくか身体を壊すわ?」


 そう重ねた私の言葉に彼はにやりと笑みを浮かべた。

 人の悪い笑み。でも本当の所はわざとそう見せているような気がするの。

「ファドラーンに何か吹き込まれたね?あいつは心配性で……わたしが他意も無く何かするのをも何か深い訳があると、思い込んでいるふうがあるからね。水垢離の件は……昨日は賊の襲撃やら何やら騒がしかったうえに、血なまぐさい日だったから、単純に浄めたかっただけだよ。血の匂いなぞ何時迄も纏っていたくはないだろう?」 

 肩をすくめ一度は馬に向き直ったラウドラチャクリンだったが、ふと振り返って言葉を続けた。

「ファドラーンは……君の同行を認めたのが自分だから、という気負いが大きいようだな。もしも奴が君に厳しい事を言ったのなら……わたしの方こそ申し訳ない事をしたね、許してほしい」


「とんでもないわ‼彼は、私が自分を見つめ直す為のチャンスをくれたの。同行を許して下さった事も、今回の事も、感謝こそすれ……貴方にも謝罪を頂く謂れの無い事だわ」


 自らのプライドにこだわらない……潔いとさえ言えるラウドラチャクリンの言葉に、慌てて言葉を紡ぎながらようやく思い当たった。 

 善意からの彼等の行為にずいぶん自分が図に乗ってしまっていたのだと。

 私が黙ってしまったのを横目で見て、ラウドラチャクリンはもう一度こちらへと向き直った。


「君が今日……妙にわたしの方を伺っているから、どうしたのかと思っていた。てっきり君が我々に隠している事を明かしてくれる気になったのかと当たりを付けていたんだが……?第三王妃とは言え、地元の人々から見れば最高に良い条件の、いわゆる玉の輿から逃げ出して姿を晦ましたのだから……相当な理由があると思っていたのだが、……シュヴァーゼの未来の王妃さま?」


 探るようにも感じられるラウドラチャクリンの言葉。

 すうっと……肝が冷え、足下が覚束無いような気がして、よろめきそうになった。 


 

 視点がイェライシャ嬢視点のままですが・・・。

 後もう少し、です。

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