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性悪ルナリアは初恋に殉職したい  作者: 御仕舞


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3 . 不測の事態にも備えること

 

 昼食時、セオドアとルナリアはそれぞれ別の人間たちに囲まれていた。


「見たよブラックウェル!あのお前の動き!」

「さすがブラックウェル家の嫡男だな!」


 友人たちに称賛されながらも、セオドアの頭の片隅にあったのは、あの生意気な女の姿。

 

 ルナリアもまた、魔術科の集団に囲まれ、称賛をうけていた。


「さすがルナリア様ですわ!」

「あの複合魔法についてご教授願えないだろうか」


 ルナリアは興奮する人々よそに、黙々と昼食を口に運ぶ。

そんな様子を見て、離れたところでルナリアの陰口を言う人もいた。


 ルナリアを嫌う人間は多い。

性悪、プライドが高い、お高く止まっている、素っ気ない、生意気など、ルナリアを形容する悪口は多種多様にある。

だが、それを抑えつけるだけのウィルブライト家という地位と魔術科のトップという高い実力があるため、ある種の信奉者のような存在を生み出していた。


 それをルナリアは知らない。

興味がないからだ。

ルナリアは実力主義ではないが、関心を抱く対象が狭く、それ以外には冷酷なまでに無関心になってしまう。

その分、興味の対象には深く深く入り込んでしまう。


 そこに、教官のアナウンスが流れた。


「本日早朝、北方の森で小型ながらも狂暴化した魔獣の群れが確認されたため、これを利用し、実戦形式での訓練を実施する」


 生徒たちの間にざわめきが広がる。


「第二部魔獣討伐訓練を開始する。生徒たちは昼休憩が終わり次第、北門に集合せよ」











 午後2時。

一行は王都の北門から出て馬車で移動した。

現場となる森林は鬱蒼と茂った樹木が並ぶ深い森だ。騎士団の偵察隊が先行して安全地帯を確保している。


「班分けを行う」


 教官が羊皮紙を取り出す。

周囲の期待と不安が入り混じった視線が交錯する。


「第一班はセオドア・ブラックウェルとルナリア・ウィルブライト。第二班は…」


 セオドアが低い声で言った。


「どういう班分けの仕方だ?こういう場合、成績上位者と下位者を組ませるものじゃないのか?これじゃあ、下位者が不利じゃないか」

「人の心配してる場合?そもそも、あなたは自分が上位者だと思っているの?あー面白いわ」

「さっきの模擬戦を見てなかったのか?次が自分の番だからって、俺の試合の間中、ずっと緊張で震えてたんじゃないよな」

「あら、まさか、あなたが無様にみっともなく辛勝したところはもちろん目に焼き付けてましたとも」


 説明の途中だと言うのに、小声だとしても言い合いを始める二人に、これだからブラックウェルとウィルブライトは一緒に組ませるしかないのだと教官は溜息を吐く。


 2人を別々に組ませた場合、どちらも互いを意識し過ぎて、暴走を始めるのは、何度もあった騒動だった。

ただの訓練であればそれも経験になるが、実戦になれば違う。

いくら、学生が対応できる小型の魔獣であれど、悪い状況が重なれば、命に関わるほどの怪我は考えにくいとしても、大怪我はあるだろう。

2人の統率がとれないと、被害がでるのは2人だけに留まらない。


 組み合わせは、成績での振り分けよりも、生徒同士の相性が重要だ。

2人は、あれだけ互いのことを意識し合っているせいか、意外にも組ませると相性がいいのだった。


「魔獣の種類は夜狐型ヴァーテックス。通常は臆病だが、今回の個体は怒り状態に入っている。三匹一体で行動すると報告されている。気をつけろ」


 2人は小声で言い合いながらも、教官の台詞を聞き逃すことはなく、むしろ頭の中でめまぐるしく情報をまとめ上げていく。

教官の号令を受け、二人は森の中へ踏み込んだ。

濃密な緑の匂いと湿った土の香りが鼻腔をつく。木漏れ日が地面に斑模様を作っている。


「わたくしが魔法で焼き尽くすからあなたはその補助をしなさい」

「俺の方が前衛向きだろうが。お前みたいなデコボコ魔術師に任せてられるか」

「あ、あれは暴発したわけじゃなく、学院の結界が経年劣化してたせいで、わたくしのせいじゃ…と言っても、あなたみたいな脳筋じゃ理解できないでしょうけど」


 ルナリアが杖を掲げると前方の茂みが揺れた。

金色の小さな眼が三対、こちらを凝視している。


「【焔針】」


 ルナリアの詠唱と同時に鋭い焔が、セオドアを狙っていた夜狐の脚を貫いた。

残りの二匹が左右から攻撃体勢に入る。


 セオドアは反射的に左手を挙げた。

ルナリアは彼の動きに合わせて魔法を調整する。


 セオドアは左側の夜狐に体当たりを仕掛けて距離を取り、ルナリアの【火炎弾】が命中。

右の一体は彼女が【雷鎖】で拘束し、セオドアの剣による斬撃で倒す。

最後の一匹は脚の傷で動きが鈍い。

セオドアが素早く接近して柄頭で頭部を叩くと、魔獣は意識を失って倒れこんだ。


 二人はほとんど同時に肩で息をした。

周囲の魔獣反応がないことを確認し、セオドアは剣を鞘に収めた。


「学院の結界がなくてよかったな」

「あってもなくても魔獣はデコボコにしてやるわよ」

「地面も、だろ」

「あなたの憎たらしい顔も、にしてあげてもよくてよ?」


 言い合いながらも、どこか和らいだ空気が漂う。

そこに遠くから声がかかる。


「ブラックウェル!ウィルブライト!次はこちらに来い!第三班が苦戦している」


 セオドアとルナリアは顔を見合わせた。


「行くぞ」

「言われなくても行くわ」


 セオドアとルナリアが救援に向かう途中、前方から悲鳴と金属音が響いた。

第三班の担当エリアだ。

茂みの向こうから木々がなぎ倒される轟音が届く。巨大な影が見えた。


「なんだ…?」


 セオドアの眉が寄る。

現れたのは黒光りする毛並みを持つ大型個体。

体躯は小馬ほどもあり、四本の尾を不自然に蠢かせている。


「高位個体ヴァーテックスロード。厄介ね」


 ルナリアが険しい表情で杖を構えた。


「サムエルとマイケルが狙われている。俺が正面から引き付けるから、お前は背後から魔法を撃ち込め」

「了解」


 一瞬の躊躇もなしに役割分担がすみ、意思疎通がとられる。

そこに普段のいがみ合う2人の様子はない。


「サムエル、大丈夫か!?」


 マイケルの叫び声。

木陰に身を潜めた二人のもとにヴァーテックスロードが牙を剥き出しで接近する。


「【防御障壁】!」


 ルナリアの詠唱と同時に青白い六角形の盾が出現。魔獣の体当たりを辛うじて受け止めた。

セオドアが大剣を振りかざし飛び掛かる。

ヴァーテックスロードは素早く横へ跳び、鋼鉄製の樹皮に爪痕を刻んだ。


「動きが速すぎる!」


 サムエルが呻く。

マイケルは短槍で反撃を試みるも容易く躱される。


「セオドア!」


 名前だけを叫び、ルナリアが【霧煙】を放つ。

視界が白く濁り、魔獣の咆哮が木々に反響した。


「ルナリア!気をつけろ!」


 セオドアは大声で警告する。

霧の中に紛れた相手を正確に感知するのは難しい。

だがルナリアは冷静だった。


 霧の向こうで青紫色の瞳が輝きを増した。

彼女の杖と契約印が淡く反応する。

特殊能力【魔力波探知】。

この濃霧の中であっても魔獣の脈動を感じ取れるのだ。


「九時の方向!」


 ほぼ同時のタイミングでセオドアは大剣を回転させる。


「食らえっ!」


 刃が空を切る音とともに風圧が霧を払う。

そこにヴァーテックスロードが飛び出して


「【雷纏い】」


 ルナリアの詠唱でセオドアの剣が蒼い雷光を帯びる。


「これで終わりだ!」


 電光石火の斬撃。

魔獣の首筋に鋭い一閃が走り、焦げ付く臭いが立ち上った。

悲鳴のような咆哮を上げて巨体が後退する。


「効いた!」


 サムエルとマイケルが安堵の表情を浮かべる。

ルナリアが杖を高く掲げる。


「詠唱省略。簡易結界解除。【終炎砲】!」


 渦を巻く紅蓮の炎弾が放たれ、逃げようとするヴァーテックスロードを追尾して命中。

森の中に爆発音が響き渡った。

爆風が収まり煙が晴れると、魔獣は白目を剥いて倒れていた。


「やりましたね!」


 サムエルが駆け寄ろうとするが、セオドアが手で制止する。


「待て。まだ油断するな」


 慎重に近づいて生死を確認したあと、ようやく一同が歓声を上げた。

褒め称える声にルナリアは少しだけ鼻を高くしたが、すぐに気を取り直してセオドアを見つめた。


「まあまあ及第点ね」

「素直に喜べよ、やったなルナリア」


 そう言って、にかっと笑うセオドアが手を差し伸べる。

ルナリアは右手を上げ、一瞬動きを止め、


「いっってっ!」


 差し出したセオドアの手を払った。


「馴れ合う気はないの」

「やっぱ、可愛くねえ女」


 遠くで教官の号令が響く。


 一日の訓練が終了したのだ。








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