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性悪ルナリアは初恋に殉職したい  作者: 御仕舞


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2 . 相手に実力をわからせること


 演習場には既に多くの生徒が集まっていた。


 今回の演習内容は『模擬戦』と『魔獣討伐訓練』の二部構成になっている。

第一王子レオンと聖女アリアも観客席から視察するとのことだった。


 レオンは、ルナリアやセオドアの一つ上の学年だが、学生であっても王族であり、既に政務をこなす身。

そのため、姿を見せるのは稀で、生徒たちにとっては数少ない目をかけてもらえるかもしれない機会に、自然と緊張感と興奮が高まる。


 演習場は熱気に満ちていた。


「ウィルブライトさん、隣いいですか?」


 ルナリアに声をかけてきたのは同学年のサムエルだった。

接点はないが、ウィルブライトを知らない王国民はほぼいないし、対してルナリアは、興味はなくとも自然と同学年の生徒は全て記憶していた。


「あなたも模擬戦に出るのかしら?」

「いいえ。僕は既に終わりましたから」

「ふーん」


 興味なさげなルナリアに、どこか緊張した様子のサムエル。

何か話したそうなサムエルに気付いてはいたが、話を振る義理も情もないのでルナリアはそのまま演習場へと目を向ける。

その時、「模擬戦第一試合の選手は前方へ!」という教官の声が響いた。


 出場するのは実力者ばかり。

第一部の模擬戦は、王族と聖女の政務の都合上時間が限られているため、模擬戦の目玉というべき、特級組の上位成績保持者で占められている。

他級の下位の成績者の模擬戦は別日に既に終了しているのだ。

他級が特級へ下剋上するのは、期末試験など状況は限られているが、数年に一度あるかないかの確率である。

それほど、特級との差は隔絶したものがあった。


 模擬戦の第一試合のカードは、

『セオドア・ブラックウェル vs ジョージ・ラグニエ』


「初戦であの2人…?」


 サムエルは驚きながらも、じっと演習場を静かに見つめるルナリアに目を向ける。


 ルナリア・ウィルブライト。

騎士を多く輩出するブラックウェル家との因縁を持つ魔術師の大家のウィルブライト家の娘にして、魔術科の期待の星。

冷たい青紫の瞳がサムエルを見つめ返すことはないと知っていても、せっかく同じ魔術科なんだから一度でも話をしてみたく、今回勇気を振り絞ったが、本人を前にすると話そうと考えてきた内容がどれもくだらなく思えて、結局何一つ口に出せないのであった。


 せっかく今なら信奉者がいないのに、とサムエルは項垂れる。


 一方、演習場の上のセオドアは緊張で高ぶっていた。

ジョージ・ラグニエ。

騎士科で首席を争う相手。

以前の試合で一度だけだが負けたこともある。

それ以上に勝利はしているが舐めてかかれる相手じゃない。

観客席では将来仕えるレオン殿下、憧れの聖女アリア、そして、ルナリアがいる。

無様な姿は見せられない。


 観客席を見なくても、なぜかセオドアにはルナリアがどこにいて自分を見つめているのかがわかるのだった。

2人が重ねた年月だけ、因縁が鎖のように互いに巻き付けられていた。


「始め!」


 審判の声が響くと同時にジョージが猛スピードで突進してきた。


「遅い!」


 ジョージの鋭い剣撃を辛うじて受け流すが、体勢を崩される。

セオドアは足腰に力を入れ直し、反撃の一閃を放った。

しかしジョージは余裕で回避する。


「甘い甘いなあ、セオドア!」


 ジョージの攻撃は正確かつ容赦ない。

セオドアは防戦一方になり始めた。


「くっ…!」


 額から汗が滴り落ちる。

観客席のざわめきが意識から離れ、遠くになる。

ジョージの大振りな一撃が空を切った隙を突き、セオドアは全身の力を込めて踏み込んだ。

渾身の突きがジョージの喉元わずか手前で止まる。


 審判が旗を上げた。


「勝者、セオドア・ブラックウェル!」


 あっさりと勝負が決まり、観客席から驚きの声が上がった。

セオドアは肩で息をしながらも、内心でガッツポーズを取った。


 どうだ、ルナリア、見ていたか!


 セオドアは観客席のルナリアを挑発するように見つめた。

ルナリアは片頬をあげ、この程度の勝利で浮かれるなとセオドアに無言で釘を刺す。


 そんな2人を観ている存在に無自覚なまま。


「あ、あのウィルブライトさん…?」


 控えめなサムエルの声にルナリアは片眉を上げる。

視線はセオドアに向けられたまま。


「次はウィルブライトさんの番ですね。相手のマイケルくんは強化魔法も使うから油断できません」

「わかってるわ」


 ルナリアは演習場を出ていくセオドアを見つめ、深呼吸をする。


 醜態を晒すわけにはいかない。

ライバルであるセオドアが勝利したのだから、ここで負けるわけにはいかない。

家の体面だけではない。

ルナリアは、もう二度とセオドアに弱い自分を見せたくなかった。


 フィールド中央へ向かう足取りは軽かった。

魔術師用の長い杖を片手にルナリアは堂々と進む。

向かい合うマイケルは短槍型の儀礼剣を腰に下げており、すでに詠唱準備完了の魔法陣が淡く光っていた。


「用意はいいか?」


 審判役の副担任が問う。

頷く2人に、始まりの合図が告げられ、それと共に地面が震える。

マイケルが初手で放ったのは加速魔法【疾風】。

視覚が追いつかない速さで右斜め後方へ回り込まれるが、


(想定済み)


 ルナリアの足元で紅色の幾何学模様が噴き上がる。

自動回避型の防御壁【幻影の盾】だ。

予測された斬撃が虚像へ吸収され、同時に本体は真逆の位置へテレポート。

杖の先端が鮮やかに輝き、


「【焔針】」


 不可視の高温粒子がマイケルの喉元へ迫る。

避けようと跳躍した隙を見逃さず、ルナリアは即座に追撃の【雷鎖】を繰り出した。


 二属性の同時展開。


 高度すぎる連携技に、観客席が騒然とし、それに対峙しているマイケルの驚きはいわずもがな。


「うおっ!?」


 雷鎖に絡め取られたマイケルが悲鳴をあげる。

観客席からどよめきが起きる中、


「そこまで!」


 審判が青旗を掲げた。


「勝者、ルナリア・ウィルブライト!」


 沈黙。

一瞬遅れて爆発的な拍手喝采が巻き起こる。

ルナリアは乱れた前髪を指で整えつつ深々と一礼し、ちらりと観客席を見やった。


「…セオドア」


 無意識に小さく呟いていた。









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