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逃げるそれは最強の行動  作者: 勝唯
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6走目 結晶

 おっさんに連れられ、俺は南通り側の街に来ていた。北通りが王城に繋がっているのでその反対側となるここ、南通りはこの王国を囲う城壁の正面入口となっている。


 因みにこの王国の名前はランドンゼルドという。もう一つ言っておくと彼は六年もここで暮らしているのにも関わらずこの名前を知らない。王国の名前を知らなくても生きていけない事は全く無いのだが、やっぱりちょっと非常識である。王国にいれば何処かでこの名前を見たり聞いたりするだろうに、何故知らないのか。それは彼の性格、どうでもいいことは無視するという所に直結しているのだろう。逆に気になる事には全力で首を突っ込むのだが。


 俺を背後に連れ、おっさんは先へ先へと歩いていく。先程までは肉を売ったり、衣服を売ったりと商いをしている人達が殆どで、住居らしき建物はちらほらとしか見かけなかったのだが、だんだん人が住んでいそうな建物が増えてきて、住宅街に入ったからだろう、辺りも大分静かになってきていた。


「おっさんの家はここら辺なのか?」


「ああそうだ。まだもうちょい奥だがな」


 閑散とした住宅街を進むこと十分、漸く一軒の住宅の前で足を止めたおっさん。


「ここか?」


「おう。さ、上がってくれ」


 煉瓦作りで、屋根一枚。外見は大して派手ではなく寧ろ地味といった方がいい感じの小さい家だった。中も同様、地味。家具等は必要最低限の物しか置いていないように見えた。殺風景だった。だがそんな雰囲気の内装だからこそ、一つの机に乗せられたアレが一際目立っていた。


「アレがおっさんの店の商品、結晶か…」


 前に見た赤色の結晶の他にも、深緑色、薄めの黄色、水色と数えられない程、多種多様な色があった。同じ色でも結晶の持つ輝きに差があったりと一つとして同一の物は無いように見えた。


「こう暗くて地味な部屋だと、綺麗だろ?」


「そうだな…これは…」


 思わず見入ってしまう。ずっと見ていても飽きない光景。俺の眼には幾つもの結晶が放ち、交差して織り成すその幻想的な光だけが映っていた。


(なるほどねぇ…これを作り出すためのこんな殺風景な部屋なのね…)


「どの結晶がいいか、決められないか?」


「何故それを…」


「そんなお前さんに俺が結晶の種類と区別を教えてやろう!これを聞けば、その悩みもパッと解決するだろう!」


「本当か!」


「ただし、ちょいっと料金はいただくぜぇ」


 おっさんがらしくない悪人ヅラで言ってくる。


「じゃいらね」


「あ、まって冗談!冗談だから!タダだから聞いて!」


「へいへい…最初からそうしろよ…」


「ヴ、ヴン!えーまず、結晶は大きく二つに分類できます」


「へー」


「一つは、鉱石がいろんな過程を踏んで変化したもの。所謂ただの素材だ。もう一つは、特殊な環境、あるいは人工的に生成されるもの。これは魔法石という」


「へー、違いは?」


「今説明するから黙って聞いとけ!」


「あー用事思いだした…」


「たいっっへん失礼しました、聞いてくださいお願いします!」


「はいはい…」


 実際ためになりそうだから帰るつもりはなかったけどね。


「えっと?どこまで話したっけ…えー、あっそうそう、魔法石な。人工的なのと天然なのがあると言ったな。一般的には天然の物の方が価値も高く…」


 この時点で、素材より魔法石、人工より天然の結晶を選ぶ事は確定した。


「…と、こんな感じだ。魔法石は使い捨てではなく叩き割ったりしない限り、ずっと使うことができるぞ」


(あ、や聞き逃した。何?使い捨て?なんの話?……まあいいか)


「でもこんな結晶売る奴とか、あんまりおらんだろ」


「ああ、俺は同業者を見たことが無い。みんな自分の物にするからな」


「おっさんは自分のもんにしないのか?」


「結晶売り、俺だけ、ってなんかかっこいいじゃないか」


(お、おう…そうだな…)


「でもこんな大量、どっから仕入れてんだ?」


「俺の古い知り合いからだ。結構有名な冒険者で嵐の剣士とか言うらしいぞ。ちょっとおかしいよなっ」


 大きく笑いながら話すおっさん。まあ確かに痛い名前だなって思ったけど。因みに俺はそんな奴知らないよ?誰だよ嵐の剣士て。てかまた話ずれたぞ。


「それより結晶だ」


「おうよ。さー選んでくれ」


 その机の上に置かれた輝く結晶の山。また見入りそうになるもじっくりと観察する。だが、まるで違いが分からない。どれが良いものか、そして、素材の結晶と、魔法石としての結晶の差も全然分からなかった。色の違いの他は全く分からない。なので俺は手取り早く、聞くことにした。


「おっさん、魔法石の中で一番価値が高いやつくれ」


 おっさんは一瞬躊躇う様な表情を見せたが、俺が半目で睨むと何かを諦めたかのように結晶の山を掻き回し始めた。


「おっさん、嘘は、つくなよ」


「もちろんそうするとも。商売は信用が第一だからな」


 暫くして、これだと言わんばかりにおっさんが山から持ってきたのは、何やら布に巻かれた拳サイズの丸型の結晶。


「輝きが凄い魔法石ほど、そいつに刻まれた魔法の効果が大きくなると説明しただろ?」


「あ、ああそうだったな」


(え、魔法!?魔法って言ったよな今!使えるんですか俺!?)


「こいつは価値が高い魔法石の中でも…」


「話ぶったぎって悪いけど、結晶っていくらするんだ?」


(そう、前に言ったが、この世界では魔法といったら一つ使えるだけで有名人になれる程、超珍しいものだ。それが、結晶とかいう石をどうするか具体的には知らんが、ともかく結晶があれば刻まれた魔法が一つ使えるというんだ!持っているだけで魔法が使える?そんな物の値段なんて計り知れないぞ…)


「素材の結晶は百グラム基本五万ゼルドくらいで…魔法石は一つで…安くても二百万ゼルド…くらいかな…」


「ええぇーーーーっ!!」


 ゼルドとは彼の居るこの国、ランドンゼルドの通貨の名称である。分かりやすく価値を説明しよう。冒険者達の必需品、回復液(ポーション)類を例えにしよう。一般的に治癒系回復液小スモールヒールポーションの相場は百ゼルドとなっている。もっと分かりやすくしよう。マリが一ヶ月生きるのに必要なゼルドは二千だ。お分りいただけただろうか。


「高すぎないっ!?」


「そうなんだよ…だから全然売れず、しまいには盗まれるしね…たまに素材の方は売れたりするけど…」


 そりゃ盗まれるでしょ。高すぎるもの。そもそも露店に出すような商品じゃないでしょこれ。あーだからあんなに盗人捕まえてって頼んできたのか…。というかまた脱線してるな。


「あ、説明の続きするぞ?」


「はい、どうぞ」


「こいつはそんな中でも一番高価なだけあって、輝きの量がおかしいんだよ。ちょっと眩しいから普段はこうやって布に包んでいるんだ」


 怖いからもう値段は聞かないことにした。下手したら国宝級かも知れないが、もういい。


「てかその…嵐の剣士?だったっけ、その人よく譲ってくれたな…」


「あぁ、そうそのあいつがいつも一度使って、どんな魔法が刻まれてるか教えてくれるんだが、この結晶だけ、使わなかったらしくて、俺からはとにかく凄いとしか言えないんだ」


「なるほど」


「だから、こう一番価値は高いんだけど…値段は付けられなくて、ちょっと困ってたんだよね」


(じゃああれか、さっきの迷ったような素振りはこんな得体の知れない物俺に渡してしまって大丈夫かな的なやつか)


 俺は布に包まれたその結晶を片手で受け取った。


「マリナ、お前、鞄持ってないじゃないか。ちょっと待ってろよ…」


 何かと面倒見が良いおっさんは奥の部屋へ。一分程すると、部屋からおっさんが腰に巻くタイプの鞄を持って来てくれた。ちょっとボロい古い茶色革の鞄だが、それなりに丈夫そうな作りをしている。

 俺はありがたくその鞄を頂戴し、その中に、ポケットに入れていた所持金と検査結果の紙、先程の結晶を入れた。


「あそうだ、魔法石の使い方教えてくれない?」


「えっとな、確か、結晶を直で強く握って、魔力?を込めるとか言ってたな…」


「そうか、色々ありがとなおっさん!」


「お互い様だ!」


 彼は見送るおっさんを背に、こう思っていた。


(はあ〜魔力ってなんだよもおぉお!)






 次々と湧いてくる問いを胸に彼はテンシュの家を後にした。

おっさん、喋りすぎ。

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