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第1部  第1章  第2話   不敗の暴君は、美しすぎる問題児でした

【読者の皆様へ】

ご訪問ありがとうございます!

本作は「身に覚えのない罪で裏切り者の娘として追放されたヒロイン」が、時間を巻き戻す権能を駆使して未来を変えようとするものの、なぜか敵国の美貌の皇子に超絶溺愛されてしまう【時空操作×教育系ラブコメファンタジー】です。

ざまあ・スカッと展開はもちろん、甘々のすれ違いラブコメをたっぷり詰め込みました!

毎日のスキマ時間に、ニヤニヤしながらお楽しみいただけますと幸いです!

「合格したのは結構だが……娘よ、覚悟はできているのだろうな?」


試験会場から城の奥深くへと続く重厚な回廊を歩きながら、宰相は深くため息をついた。その顔には、優秀な人材を得た喜びよりも、憐れみと悲壮感が色濃く漂っている。


「覚悟、ですか?」


「うむ。レオン殿下は……一筋縄ではいかん。剣の腕は我が国随一、学識も並の学者を凌駕する天才であられる。だが、その苛烈さと冷酷さは誰も寄せ付けん。これまでに派遣された十三人の家庭教師のうち、まともに三日も持った者は一人もおらんのだ」


「三日も……ですか。ちなみに、皆様どうなられたのです?」


私が尋ねると、宰相は声をひそめ、苦々しい顔で言った。


「精神を病んで辞職するか、殿下の過激な『試練』に耐えかねて泣きながら逃げ出した。……まあ、命があるだけマシだがな」


「なるほど。心しておきますわ」


私はすまし顔で頷いたが、背後に控える侍女のフィナはすでに「ひぃっ」と小さな悲鳴を上げていた。


(不敗の暴君、ね。前世では我が国を滅ぼした冷徹な冷血漢として恐れられていたけれど……さて、どんな『試練』が待ち受けているかしら)


いくつもの重厚な扉を抜け、たどり着いたのは城の最上階に位置する一角。

大きな執務室の前に立ち、宰相が意を決したように扉を叩いた。


「レオン殿下。新たな専任家庭教師をお連れいたしました」


室内からは何の返答もない。重苦しい沈黙が流れる。

宰相が気まずそうに私を見ると、私は静かに頷き、自ら重い扉を押し開けた。


差し込む夕陽の中に、その男はいた。


窓辺の豪華な椅子に深く腰掛け、書類に目を通している一人の青年。

燃えるような銀糸の髪に、すべてを見透かすような鋭い琥珀色の瞳。彫刻のように整った顔立ちは、ため息が出るほど美しい。だが、その全身から放たれるのは、触れれば即座に斬り捨てられそうな、痛烈な威圧感だった。


彼こそが、大帝国第1皇子——レオン・ヴァルハイト。


「……またゴミが送られてきたか」


レオンは私の方に視線すら向けず、冷ややかな声で呟いた。低い、けれど鈴のように響く美しい声。


「宰相。言ったはずだ。俺に教えることなど何もないとな。消せ」


「で、ですが殿下! 彼女は筆記試験で満点をとり——」


「興味がない」


レオンは手元にあった分厚い本をパラパラとめくると、それをそのまま無造作に私の方へと投げ捨てた。

重厚な革装丁の本が、風を切って私のおでこを目がけて飛んでくる。


(あら、挨拶代わりに暴力? 容赦ないわね)


ドサッ!


本は私の顔面に命中……するはずだった。


ちく、たく。


(『時空の権能』——半秒だけ巻き戻し)


世界が一瞬だけブレる。

直後、私のおでこに向かって飛んできたはずの本の軌道を予知した私は、最小限の動きで首をひょいと横に傾けた。


バサァッ!


本は私の頬をかすめ、後ろの壁に激しく当たって床に落ちた。


「……ほう?」


初めて、レオンが顔を上げ、琥珀色の瞳で私を捉えた。

その瞳には、侮蔑の中にわずかな驚きと興味が混ざっている。


「今のを避けたか。……偶然にしては筋がいいな、女」


「偶然ではありませんわ、レオン殿下。貴方様が投げてくることが分かっていましたの」


私は胸の前で両手を組み、淑やかな微笑みを浮かべた。

レオンは鼻で笑うと、椅子から立ち上がった。背が高い。威圧感が段違いだ。彼はゆっくりとこちらへ歩み寄ると、私の目の前で立ち止まり、冷たい見下すような視線を投げかけてきた。


「調子に乗るな。お前がどんな手を使って筆記試験をパスしたかは知らんが、俺の家庭教師を務めたいなら、俺の『問い』に答えてみろ」


「問い、でございますか?」


「そうだ。……三日後、我が国は北方の蛮族と交戦する。敵の戦力は五万、我が軍は二万。地形は湿地帯。——お前なら、どうやって勝ちを収める?」


(……っ!?)


脇で聞いていた宰相が青ざめた。それは帝国軍の最高幹部すら頭を悩ませている、現実に直面している軍事機密の難題だったからだ。


「答えられまい。軍事の『ぐ』の字も知らぬ娘に——」


「いいえ。答えられますわ」


私は即座に微笑んだ。


「ですが殿下。私に『考える時間』を三分ほどいただけますか?」


「ふん、無駄な引き延ばしを……いいだろう。三分だ。答えが出なければ、今すぐこの城から叩き出す」


レオンが腕を組み、冷ややかな笑みを浮かべる。


(三分もいらないわ。必要なのは——巻き戻し!)


私はそっと目を閉じ、意識を集中させた。


カチ、コチ——!


世界が逆回転する。

私は心の中で『時空の権能』を発動し、時間を過去へ……ではなく、「前世の記憶の奥底」へとアクセスした。


(思い出しなさい、私! 三年前、レオン皇子が北方の戦場で使った伝説的な奇襲戦術を! あの時、歴史書に刻まれた彼の『不敗』の真相を!)


前世で神殿の書庫で読み漁った、帝国の戦記。

レオンがこの戦いで使った、誰も思いつかないような狂気の策。それは——。


パチッ、と目を開ける。

時間の歪みが戻り、レオンの前で三分が経過した(ように見える)。


「三分経ったぞ、女。諦めて降参するか?」


「まさか。お答えいたしますわ、レオン殿下」


私はレオンの琥珀色の瞳を真っ直ぐに見返し、ゆっくりと唇を開いた。


「湿地帯の水を切り開くために、上流の水門をあえて自ら破壊し、敵の退路を泥沼へと変えます。そして——自軍の二万を三つに分け、夜襲に見せかけた『火攻め』を行うのです。湿地のガスを利用して」


「……っ!?」


レオンの息が止まった。

それまで絶対的な余裕を崩さなかった彼の美しい顔が、驚愕で完璧に凍りつく。


「な……なぜそれを……!? それは俺が、今日の昼に一人で立案し、誰にも話していない作戦だぞ……!?」


当然だ。だってそれは、「未来のあなたが実際にやって大勝利を収める作戦」なのだから。

彼の思考を完全に先回りして言い当てた私に、レオンは言葉を失い、喉を鳴らした。


「貴方様は天才です、レオン殿下。ですが……その作戦には一つだけ欠点がありますわ」


「な……欠点だと……!?」


「ええ。上流の水門を壊せば、近隣の村が一つ、水没いたします。……勝利と引き換えに民の信頼を失う策は、一流の指導者のすることではありません」


私は一歩、レオンへと踏み出した。

威圧感に怯むことなく、彼の目の前で胸を張る。


「だからこそ、私が必要なのです。貴方様に『圧倒的な勝利』と『王たる慈愛』の両立を教えるために。……いかがかしら、殿下?」


静寂が部屋を支配した。

宰相も、フィナも、息を呑んで二人のやり取りを見つめている。


レオンはしばらく呆然と私を見つめていたが、やがて——その整った唇の端を、歪なほどに吊り上げた。


「……面白い」


彼の琥珀色の瞳に、これまで見たこともない怪しい熱が灯る。


「俺の頭の中を覗いたような口ぶりだな、女。……気に入った。お前を十三人目の……いや、俺の『唯一の家庭教師』として認めてやる」


レオンは私の手首を掴むと、力強く引き寄せた。顔と顔が息がかかるほどの距離に近づく。


「だが覚悟しておけよ、エル。俺から逃げ出せると思うな。……お前のその生意気な頭の中身、すべて俺が暴いてやる」


(……あら?)


手首を握る彼の力が、やけに強く、そして熱い。

不敗の暴君の瞳に宿ったのは、教え子としての敬意……ではなく、獲物を絶対に逃さないという『獰猛な執着』の光だった。


(……なんだか私、逃げる場所を間違えて、一番危険な肉食獣の檻に入っちゃったかしら……?)


こうして、破滅の運命から逃れるための私の「やり直し家庭教師ライフ」が、波乱の幕を開けたのだった。


©2026 [インフィニティ・G・イプシロン]. All rights reserved.

【作者より】


ご愛読ありがとうございます!

第1章、いかがでしたでしょうか?

自分の頭の中を完璧に先回りされて動揺しまくる暴君皇子レオン……!

時空魔法を使った「ズル(やり直し)」とはいえ、ドヤ顔で言い返すエルシアとの攻防を楽しんでいただけていたら幸いです!

次回からは**第2章【傾国の家庭教師と甘すぎる指導編】**へ突入します!

「不敗の暴君」だったはずのレオンが、なぜかエルシアに超絶激甘&重度の執着を見せ始め……!?

毎朝6:30時より、3話連続で投稿予定です!

ぜひブックマークと**評価(★5)**で応援よろしくお願いいたします!

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