アウレリアの決断
寝台の上にいれども威厳ある父の様子に、胸が熱くなる。
「お父様……!」
感極まって父のもとに駆け寄り、手を握る。
「どうした?」
「いいえ、お元気そうで、嬉しくて」
「そうか」
一度目の人生のように、自宅で療養し続けるのはよくない。
魔法医の先生の相談して、一度入院してしっかり検査したほうがいいだろう。
「して、どうした? 二人揃ってやってきて」
父の言葉を待ったとばかりに、カーリンが物申す。
「お父様、私、ブランデンブルグ大公家のオリヴァー様と結婚したの。でも、頭が固いアウレリアお姉様が譲ってくれなくって! なんとか言ってちょうだい!」
この言葉を聞くのも二回目である。父も同じように、カーリンの訴えを聞いて深いため息を吐いていた。
一度目の人生では、ブランデンブルグ家のオリヴァー様に嫁いで妻となった。
嫁ぎ先でも軽んじられ、居場所もなく、辛いだけの結婚生活だった。
譲れるものならば、カーリンに譲ってあげたい。
もしもカーリンの代わりに、リンブルフ辺境伯に嫁いだらどうなるのか。
三年後、大嵐で壊滅状態になることはわかっている。
けれども三年もあれば、魔石工房を使って何かできるのではないか。
そう思ってしまった。
「二人に、持参品を用意した」
私とカーリンの前に、宝石工房と魔石工房が置かれる。
私はすぐさま、魔石工房を手に取った。
「お父様、わたくしはこちらがいいです」
「さすがアウレリアだ。それは神々の遺物と呼ばれる、この世に二つとない大変貴重な品なんだ」
父がそう説明するやいなや、カーリンが思いがけない発言をする。
「アウレリアお姉様ばかりずるいわ!! 私もそれがいい!!」
私は魔石工房をぎゅっと胸に抱きしめる。
こればかりは譲るわけにはいかなかった。
カーリンは私が魔石工房を渡さない姿勢を見せると、余計に欲しいと言い始めた。
「ねえ、どうして嫁ぎ先も自由に選べないのに、アウレリアお姉様ばかりいい物を持って行くの!?」
一度目の人生ではあれだけ魔石工房を受け取ることを拒否していたのに、私が手にした途端に欲しがる。
カーリンの悪いところだ、と思ってしまった。
言うならば今しかない。そう思って父に宣言する。
「お父様、わたくし、リンブルフ辺境伯に嫁ぎます」
「アウレリア、何を言っているんだ!? そのようなことなど、許すことができるわけないだろうが!!」
わかっている。けれども一度目の人生と同じように、ブランデンブルグ家のオリヴァー様に嫁いでも同じ人生を辿るだけ。
「これまでわたくしがブランデンブルグ家のオリヴァー様に嫁ぐために、特別な教育を施していただいたのは、わかっております」
「そうだ。お前にはブランデンブルグ家に嫁がせるために、教育に金を惜しまなかった。それにカーリンにブランデンブルグ大公家の花嫁が務まるわけがないだろうが!」
「やってみないとわからないでしょう」
私の言葉に、カーリンも「そうよ!」と同意する。
「アウレリア、いきなりそのようなことを言って、どうしたんだ?」
「一度でいいから、自分で人生を決めてみたくなったのです」
貴族女性にそれが許されるわけがない。
けれども一度目の人生と同じ道を辿るのは、まっぴらごめんだった。
「もしも、願いを叶えていただけないのであれば、わたくしは修道院に身を寄せようと思います」
父は目を見開き、信じがたいという眼差しを向けてくる。
「本気なのか?」
「ええ、もちろん」
私の意志が固いと判断したのか。父は深く長いため息を吐く。
「わかった。お前の人生だ。嫁ぎ先くらい、選ばせてやろう」
「お父様、よろしいのですか?」
「よくはない。けれども、お前の意思を尊重したいから」
「ありがとうございます!!」
私は父に抱きつき、感謝の言葉を伝える。
「だったらお父様、私はブランデンブルグ家のオリヴァー様と結婚できるの!?」
「それは、先方に聞いてみないとわからない」
「何よ、それ!」
「相手にも、選ぶ権利はあるからな」
ひとまず、ブランデンブルグ家のオリヴァー様に嫁ぐ未来は回避できそうだ。
心の奥底から父に感謝したのは言うまでもない。
その後、父はリンブルフ辺境伯に私との結婚を打診したらしい。
すぐに了承するという返事が届いたようだ。
カーリンのときも同様の反応だったので、その辺は不安もなかった。
一報、カーリンのほうは莫大な持参金と引き換えに、結婚を受け入れてもらえた模様。
父は交渉に疲れている様子だった。
この機会を逃すまい、と私は父に本格的な治療を提案してみた。
すると、父は素直に応じてくれた。
しばらく魔法医の先生のもとで、治療に専念するという。
その間、財産は継母が自由に使えないよう、凍結しておいた。
さらに父がいない間に夜遊びしないよう、侍女に監視を付けておく。
効果があったのか、継母は愛人を作ることもなく、屋敷で暇を持て余しているという。
何かやらかすのも時間の問題だろうから、しっかり見ておくように使用人達に命じておいた。
◇◇◇
先に結婚したのはカーリンだった。
一度目に私が結婚した頃より、かなり早い段階で執り行われた。
きっとオリヴァー様の気持ちが変わらないうちに、嫁がせておこうという目論みがあったのかもしれない。
カーリンはオリヴァー様の隣で、幸せそうに微笑んでいる。
これでよかったのだ。
心の奥底からそう思った。




