表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妹が「ずるい!」と言うので、二度目の人生は大公と結婚するのを諦めて辺境伯に嫁ぎます  作者: 江本マシメサ
第一章 アウレリア、一度目の人生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/25

カーリンの提案

 私は夫に、実家の支援とカーリンの滞在を頼み込んだ。

 夫はそれくらいのことでいちいち許可を取るな、と冷たく言い放っていなくなる。

 相変わらずの淡泊で冷たい態度だった。

 ひとまず、実家関係のことはなんとかなりそうで、深く安堵する。


 その後、私はカーリンを婚家に残し、実家に戻った。

 出産するまではゆっくりできるだろう。そう思っていたのに、事件は起こる。

 それはお腹の子がそろそろ目立ってくる頃で――再度、ブランデンブルグ家の侍女が私のもとにやってきて訴えたのだ。

 なんでもカーリンが私の不在中、女主人のような振る舞いをしていると。

 大人しくしているように言っていたのに、すぐこれである。

 その日の晩、注意をしに戻ったところ、衝撃的な場面を目撃してしまった。

 カーリンと夫が、共に夜を過ごしているというのだ。

 脳天を鈍器で殴られたような衝撃を感じた。

 あの夫がカーリンに心を許すなんて、信じられなかった。

 ショックのあまり夜も眠れなくなる。

 一睡も眠れないまま朝を迎えた私に、カーリンがやってきた。

 何をしにやってきたのか、と。

 カーリン曰く、今では彼女のほうが奥方として扱われているらしい。

 だからさっさと妻の座を明け渡してくれと言われた。

 そんなこと許されない。

 そう思っていたが、夫はそれでもいいとカーリンに言ったらしい。

 さらに、カーリンは衝撃的なことを口にした。


「私、お腹に彼の子どもがいるみたいなの」


 魔法医の診断で、妊娠の兆しがあると言われたという。


「だからね。あの人の妻の座を、私にちょうだい」

「カーリン、あなたはリンブルフ辺境伯の妻でしょうに」

「そんなのどうでもいいわ! あんな、妻をほったらかしにして魔物退治ばかりしている男なんか、夫でもなんでもないから!」


 好き好んで魔物退治なんかしている人なんていないだろう。

 きっと魔物がいることによって深刻な被害を受けているので、倒しに行っているに決まっている。

 そう言っても、カーリンは納得しなかった。


「そんなにあの人を理解できるのならば、あなたがリンブルフ辺境伯の妻になればいいわ!」


 カーリンはそう言って、少しここで待つように言う。

 戻ってきた彼女の手には、魔石工房マジリトス・ワークショップがあった。


「これ一度も使えない、価値なんてないガラクタだったの! アウレリアお姉様にあげるわ!」


 そう言って、カーリンは私に魔石工房マジリトス・ワークショップを投げつけてきた。


「きゃあ!」


 勢いよく飛んできたそれは、私の額に当たった。

 ガッ!! と大きな音を立てて、魔石工房マジリトス・ワークショップは床に落ちる。

 その音を耳にするのと同時に、視界がぐらりと歪んだ。

 ぽたぽたと滴るのは涙でなく、鮮血だった。

 吐き気と頭痛に襲われ、立っていられなくなる。

 その場に蹲ると、カーリンが高笑いしながら私の宝石工房ジュエリー・ワークショップを手にしていた。


「やっぱり、私はこっちがいいわ」

「カーリン、それは……!」


 魔法の知識がないあなたには扱えない。

 それは言葉にならなかった。


 呼吸もままならなくなり、その場に倒れ込む。


「じゃあね、アウレリアお姉様!」


 カーリンはそう言って、私のもとから去って行った。

 残された私は、助けを求めようと手を伸ばす。

 けれどもこういうときに限って、周囲に誰もいないのだ。

 指先が魔石工房マジリトス・ワークショップに触れた。

 この世のありとあらゆる物で、魔石を作ることができる神々の遺物アーティファクト

 目の前に、真っ赤な文字が浮かぶ。

 私はそれを、深く考えもせずに唱えた。

 すると、魔石工房マジリトス・ワークショップは眩い輝きを放つ。

 暖かな光が私を包み込んだ。

 もうどこも痛くないし、苦しくもない。

 薄れゆく意識の中で、不思議と楽になれるのだ、と思った。

 目を閉じると、楽園のような場所に誘われるように眠りに落ちた。


 ◇◇◇


「アウレリアお姉様ばかりずるいわ!!」


 そんなカーリンの言葉でハッと我に返る。

 目の前には、記憶にあるより少し幼いカーリンの姿があった。

 どうしてか、ブランデンブルグ家の屋敷でなく、アルテンブルク家の屋敷にいる。


「私のほうが、ブランデンブルグ家のオリヴァー様に相応しいはずよ!!」


 カーリンのその発言には、聞き覚えがあった。

 それは遡ること三年前、父から持参品である宝石工房ジュエリー・ワークショップを渡される前の話である。


「アウレリアお姉様、これからお父様のもとに行って、どうにかならないか話し合いに行きましょう」


 そう言ってカーリンは私の腕を強く引いた。

 ここで、私は部屋にあった七曜表カレンダーに気付く。

 日付は――三年前。

 いったいどういうことなのか?


「カーリン、お待ちになって」

「どうして? もしかして、マリッジブルーなの?」

「……」


 やはり、何かがおかしい。

 カーリンの腕を振り払い、私は走る。

 屋敷も、使用人も、家令も、三年前のまま。

 父も――。


「アウレリア、どうした?」


 病床にいる父は、記憶に残っているものよりもずっと元気そうだった。

 間違いない。

 私の時間が三年前に巻き戻っているようだ。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ