ウインド・リーフ
領民達が度胸試しをするために、ウインド・リーフを採りに来ていた。
けれどもそれは、この地を守護する巨大ハリネズミにとって、大事なものだったのだ。
『ピイイ、ピイ、ピイイ……』
なんでもここ近年は、根っこごとウインド・リーフを採れた者こそ、真なる勇者。
一人前の証だと言われていたらしく、轟の谷のウインド・リーフは絶滅寸前だったという。
巨大ハリネズミは警告するように、自らの棘で領民達が立ち入らないようにしていた。
けれども領民達は増えていく荒野の荊をさほど気にも留めず、度胸試しとしてウインド・リーフを採っていったようだ。
そして今日、最後のウインド・リーフをルイが採ってしまった。
巨大ハリネズミは怒り、背中の棘で攻撃してしまったという。
「事情はわかりました。では、ルイさんにウインド・リーフを返すよう、お願いしますね」
『ピイイ……』
巨大ハリネズミはもともと優しい性分なのだろう。
ルイが返してくれたら、許してくれるという。
声を張り上げ、大鷲の背に乗るルイに巨大ハリネズミからの言葉を伝える。
「ルイさん、そのウインド・リーフは、ここを守る精霊であるこの子にとって、大切なものらしいです。返していただけますか?」
私の言葉を受け、ルイはわかったとばかりに手を振る。
大鷲で接近し、ウインド・リーフを回収することは難しいだろう。
どうやってすればいいのか、と思ったそのとき、方法を思いつく。
「――自動吸収!!」
呪文を唱えると、ルイの手にあったウインド・リーフがこちらへ飛んでくる。
それをしっかり受け取り、巨大ハリネズミに差しだした。
「どうぞ、ウインド・リーフです。こちらをお納めくださいませ」
『ピイ!!』
巨大ハリネズミは嬉しそうな鳴き声をあげる。
どうやら許してくれたようで、ホッと胸を撫で下ろした。
このあとどうやって手渡せばいいものか。
同時に、私はどうやって地上に降りたらいいのか。
宙ぶらりん状態のまま考えていたら、驚きの変化が起こる。
巨大ハリネズミが、突然姿を小さくしたのだ。
『ぴい!』
かわいらしい声で鳴き、私の胸に飛び込んでくる。
それを受け止めると、小さな鼻先をすり寄せてきた。
なんて愛らしいのか。
と思ったのは一瞬のこと。
巨大ハリネズミの突き出た棘にぶら下がっていた私は、落下してしまう。
「きゃあ~~~~~!!!!」
ブリーゼ様の大鷲は地上に着地してしまった。
助けは間に合わない。
ハリネズミがケガをしなよう胸に抱き、衝撃に備える。
奥歯をぎゅっと噛みしめ、あとはケガが酷くありませんようにと祈るばかりだったが――。
「アウレリア!!」
ハルトヴィヒ様の声が聞こえた。
ワイバーンに騎乗した姿で、颯爽と現れた。
両腕を伸ばし、私を受け止めてくれる。
「夢みたい……!」
うわごとのように呟くと、ハルトヴィヒ様がにっこり微笑む。
「アウレリア、よく頑張ったね」
そんな言葉が返ってきた瞬間、これは夢ではないと確信する。
ハルトヴィヒ様が私を助けにやってきてくれたのだ。
地上に降りると、腰が抜けて立っていられなくなる。
そんな私をハルトヴィヒ様はしっかり支えてくれた。
「ハルトヴィヒ様、ありがとうございます」
「うん、無事でよかった」
ハルトヴィヒ様はそう言って、私を優しく抱きしめてくれた。
「アウレリア様!!」
ジーンが元気いっぱいな様子で駆けてくる。
それに続いて、まーちゃんやドワーフ族の職人、ブリーゼ様も続いた。
ルイは少し遠慮がちにやってくる。
ケガなどはないようで、ホッと胸を撫で下ろした。
「アウレリア様……迷惑をかけて、ごめんなさい」
「無事でいてくれて、本当によかったです」
単独で轟の谷にやってきたことは、褒められたものではない。
けれども彼は大人の問題に巻き込まれた被害者でもある。
怒ることはできなかった。
ルイはハリネズミにも謝罪した。
「精霊様も、大事なウインド・リーフを採ってしまって、ごめんなさい」
『ぴい』
寛大なハリネズミは謝罪を受け入れ、ルイを許した。
「アウレリアよ、よくやった!! まさか、精霊に契約を持ちかけるとは、夢にも思わなかったぞ」
まーちゃんとの一件があったので、契約について閃くことができたのだ。
ドワーフ族の職人達は小さくなったハリネズミを覗き込み、「これが精霊様か……!」と感嘆するように呟く。
『アウレリア、この子の名前はなんていうの?』
そういえば、命名をしていなかった。
相手はこの地を守護する精霊様である。勝手に命名なんてしていいものかのか。
一応、念のためお伺いを立ててみた。
「その、お名前を付けてもよろしいでしょうか?」
『ぴい!』
もちろん、と返してくれる。
ならばこの子は――。
「テール、というのはいかがでしょうか?」
それは大地を意味する古い言葉である。
気に入ってくれたのか、ハリネズミ改めテールは『ぴいい!』と嬉しそうに鳴いてくれた。
「一件落着かな!」
ハルトヴィヒ様は最後の一言で締める。
皆、ケガもなく、村に帰ることができそうだ。




