荒野の荊
進むにつれて、向かい風が強くなる。
まるで轟の谷に近づくな、と風が警告しているような気がした。
しかしながら、私達は止まるわけにはいかない。
なんとしてでも、ルカを見つけて連れ帰らなければ……!
「しかし、すごいな」
ドワーフ族の職人がぽつりと呟く。
「ここにやってくるまで、まったく魔物がいなかった。ありえないだろう」
銀狼騎士隊が魔物討伐をしているので、村の近辺には魔物が出ないとハルトヴィヒ様は話していた。まさか、ここまで広範囲に魔物がいないとは思わなかった。
「この恩恵に、村人達は気付いていないのだろうな」
「ええ……」
平和がもたらされているということは、目に見えるものではない。
そのため実感しにくいのだろう。
「いなくなった子どもも、魔物と遭遇せずにいればいいが」
今はそれを祈るしかなかった。
「この辺りは、荒野の荊ばかりですね」
私の呟きに、ブリーゼ様が言葉を返す。
「そろそろ戦車での移動も限界だな」
なんでもここから先は荒野の荊が無数に生えているため、馬や戦車で近づくことはできないらしい。馬や戦車はこの場に待機させ、徒歩で先を進むようだ。
「この戦車が本気を出したら、荒野の荊なんぞなぎ倒すことができるのだが」
「その、もしかしたらルカさんが荒野の荊に紛れているかもしれませんので」
「ああ、そうだったな」
戦車は急ブレーキで止まる。
奥歯を噛みしめ、なんとか耐えた。騎士隊の馬も次々到着する。
馬はぐったりバテている様子だった。あまりにも強い向かい風を受け続けたことに加え、不規則に伸びる荒野の荊を避け続けたので、余計に疲れてしまったのだろう。
騎士達は馬を労い、たっぷりの水と好物の角砂糖を与えていた。
まーちゃんが戦車から下りずに、風の匂いをくんくん嗅いでいた。
「あの、まーちゃん、ルカさんの匂いがしますか?」
『馬! 馬と、ほんの少しのルカの匂いがする!』
この辺りにルカと馬がいるのだろうか?
騎士達にも報告する。
グノー副隊長が「案内してください」と言うと、まーちゃんは元気よく戦車から飛びだした。
騎士二名とブリーゼ様やジーン、ドワーフ族の職人達はこの場に待機させ、グノー隊長が率いる二名の騎士と私、まーちゃんで探しに行く。
まーちゃんはこの先にあるという断崖絶壁へ進む方向から、逸れる形で進んで行っているようだ。
グノー副隊長をはじめとする騎士達は、苦悶の声をあげつつ先に進んでいた。
「この辺りは、荒野の荊が伸びる密度が高すぎる!」
「もう無理です!」
「俺らには、無理があります」
まーちゃんや私には可能でも、騎士達の体格ではこれ以上進むのは難しいらしい。
「ここから先は、わたくしとまーちゃんで行きますので」
「アウレリア様、どうかお気を付けて」
「ええ、あなた方も」
私もだんだん厳しくなるが、通り抜けられないほどではない。
『あ、いたあ!』
ついに、まーちゃんは発見したという。
遅れて到着したそこにいたのはぐったりした様子で横たわる、葦毛の馬だった。
『ルカの匂いがする靴下があるよ!』
馬の鞍にルカの靴下が結んである。馬が安心すると思って残したのか。
ルカは馬のために水を用意し、牧草の束も置かれていた。
馬に近づいて声をかけると、ハッと目を開く。
「大丈夫ですか?」
そう声をかけると、立ち上がって「ヒヒン!」と元気よく鳴いた。
どうやら眠っていただけだったらしい。
ルカが置いていったと思われる牧草に気付くと、元気よく食べ始めた。
まーちゃんが声を張り上げ、報告してくれる。
『みんなー、ルカの馬、発見したよー!! でも、ルカはいないみたーい!!』
遠くから「了解!」という声が返ってきた。
ルカの馬にも角砂糖を与え、もう少しここで待っているように言っておく。
グノー副隊長達と合流し、皆がいる場所に戻った。
その間、ブリーゼ様が使い魔である大鷲を使って上空を調べてくれたらしい。
「荒野の荊が無数に生えているせいで、ルカ少年の姿を捉えることはできなかった」
「そうでしたか」
このまま徒歩で進むしかないようだ。




