大捜索
ルイが乗って行ったのは、騎士だった亡き父親が乗っていた馬らしい。
ジーンの馬同様、二十五歳と年老いているという。
長年農耕馬として使っていたようだが、ときおり昔を思い出すのか、若い馬顔負けの走りを見せるときもあるという。
思っていたよりも進んでいないかもしれないし、張り切って遠くまで進んでいる可能性もある。
そんな行動が読めない馬にルイは乗っているようだった。
轟の谷へ続く道は、当然ながら整備なんてされていない。
突起した岩が行く手を阻み、乾いた大地が振動を伝え、激しく泥が跳ねる。
王都の周辺の整備された道しか知らない私にとって、衝撃の連続だった。
初めての体験で心が、体が悲鳴を上げる。
不思議と、王都にいるときよりも自分はこの地に生きている、と実感することができた。
ドワーフ族特製の戦車は絶好調のようで、ときおり騎士達の馬を追い越すことがあった。
そのたびに、グノー副隊長から下がるように注意されていた。
ドワーフ族の職人達は気持ちが高揚しているようで、出発してからずっと「いけいけ!」「おらおら」などと声をあげていた。
ジーンやブリーゼ様、まーちゃんもその声に応えるように盛り上がっている。
戦車が皆をそうさせてしまうのか。
私にはまったく理解できなかったのだが。
リンブルフ辺境伯邸や銀狼騎士隊の駐屯所、村がある場所は比較的緑があったものの、この周辺は荒れ果てた広い原野が広がっていた。
地面から突き出るようにして突起する岩は、〝荒野の荊〟と呼ばれ、うっかり転んで串刺しになった事件も発生しているという。
聞いただけで恐ろしくなる。
この荒野の荊について、昔はなかったようだが、ここ数年で増えてきているという。
きちんと調査はされていないようだが、強風で地面がめくれてできたのではないか、と言われているらしい。
なかなか興味深い話である。
『あ!!』
まーちゃんが何かに気付いたようだ。
「どうかしましたか?」
『ルイの匂いがするの、岩に縛り付けてあったの』
まーちゃんの訴えを聞いたドワーフ族の職人の一人が、戦車の停止を言い渡す。すると、操縦していたドワーフ族の職人は「おうよ!」と返事をし、戦車を停車させた。
さらにすかさず、もう一人のドワーフ族の職人が花火を打つ。
すると先を走っていた騎士隊も走行を止め、こちらまで戻ってきてくれた。
「どうかしましたか?」
「グノー副隊長、ルイさんの私物と思わしきものを発見したそうです」
高く伸びる岩の荊に、靴下が結ばれていた。
確認してみると、ルイという刺繍が入っている。
「ルイさんの私物で間違いないようですね」
「ええ」
おそらく道に迷わないように、こうして靴下を残していたのかもしれない。
グノー副隊長は確認したあと、再度同じ場所に靴下を残しておく。
「もしかしたら行き違いになるかもしれませんので」
「そうですね」
私はハンカチを取りだし、ルイにメッセージを残す。
口紅を取りだし、〝銀狼騎士隊、ルイを捜索中、ここを動くな〟と書いた。
魔物避けの聖水も周囲に撒いておこう。これで、ルイがここにやってきて、待機しても問題ないはず。
ルイは確実に轟の谷を目指している。先を急がなければ。
「まーちゃん、お手柄です」
『えへへ、嬉しいなあ』
騎士隊も敬礼し、まーちゃんの活躍を称える。
もっと褒めちぎってあげたかったものの、時間がない。
捜索を再開させた。
景色が変わっていく。
乾いた大地に、高い壁のように高くそびえ立つ岩壁が見えてきた。
しだいに風が強くなっていく。
向かい風を浴び、馬の速度も落ちていった。
ここに来るまで一度しか休憩させていないので、疲れもあるのだろう。
その一方、戦車は強風をもろともせずに進んで行く。
ドワーフ族の職人がグノー副隊長に向かって叫んだ。
「このままではルイ坊の発見が遅れる! 先に行くぞ!」
「はい、頼みます」
戦車がぐんと前に出る。
そのあとを騎士隊の馬が続くこととなった。
土煙を上げながら、戦車は左右を高い岩壁に挟まれた荒野を進んで行く。
ルイらしき人影は見つけられない。
いったいどこまで行ってしまったのか。
ここでジーンが身を乗り出して叫ぶ。
「ウインド・リーフのある場所、たぶんこの先にある断崖絶壁だ!」
永遠に続くように見える道だったが、行き止まりになっているらしい。
さらに険しく切り立った崖のようになっているらしく、そこにウインド・リーフが自生しているようだ。
まーちゃんも身を乗り出し、くんくん風の匂いを嗅ぎ始めた。
途中でハッとなる。
『ルイの匂い、するかも!!』
ようやくルイに追いついたようだ。




