チャリできた
轟の谷へは馬を駆って、二時間半くらいの場所にあるという。
私は騎士隊で馬を借りる予定だったのだが、ドワーフ族の乗り物に乗るように言われた。
ドワーフ族の乗り物とはいったい……?
なんて首を傾げていたら、二輪で走るソリみたいな形状の乗り物でやってくるドワーフ族の職人達を発見した。
「アウレリア様、待たせたな!!」
「は、はあ」
まーちゃんは瞳をキラキラ輝かせながら『すごーい、かっこいー』と喜んでいる。
その言葉を受け、ドワーフ族の職人達は胸を張っていた。
「その乗り物は、初めて見ました。なんというのでしょう?」
「これは俺達の戦車だ」
「戦車、ですか」
彼らが言う戦車とは、戦場を駆ける馬車だったような。
馬は繋がれていない。代わりに先端に二本の杖のような物が差し込まれていて、それを握って操縦するようだ。
「これは素材を積むために、荷台を大きくしてある。ジーン坊とエルフ族の商人も、一緒に乗れるぞ!」
「それはそれは、助かります」
ジーンは馬に乗れると言っていたものの、正規の騎士ほど速く走らせることはできないだろう。
追従が難しい場合は、ブリーゼ様の使い魔である大鷲にジーンも乗せてもらえばいいと考えていた。
ただ、ジーンは戦車に乗ってくれるだろうか。
先ほど、自分の馬を引いてくると言って、走っていなくなったのだが……。
ジーンが戻ってくる。少し俯きながら、しょんぼりと背中を丸めていた。
「ジーンさん、どうかしたのですか?」
「アウレリア様……俺の馬、爺ちゃんだから、騎士隊の外には連れていけないって言われたんだ」
「そうだったのですね」
気落ちした様子を見せるジーンの肩を、ドワーフ族の職人の一人がぽんと叩く。
「ジーン坊、心配するな! 俺達の戦車に乗せてやるから」
「ちゃり……おっと?」
ジーンの背後にあった戦車を振り返るやいなや、表情が一瞬でパッと明るくなった。
「なんだあれ!? かっこいい!!」
「お、その年で戦車のよさがわかるのか?」
「わかる! すげえ、あれ、走れるのか!?」
「ああ、走れるとも」
戦車に乗ってくれるかという心配は、杞憂に終わった。
続けてブリーゼ様もやってくる。
もしかしたらブリーゼ様も、戦車に乗りたがらないかもしれない。
そう思っていたが――。
「なんぞあれは!? 初めて目にする魔技巧品だ!!」
ブリーゼ様もジーンと一緒になって、瞳をキラキラ輝かせながら戦車を眺めている。
好奇心旺盛な二人でよかった、と心の奥底から思った。
騎士達が集まってきた。
皆、ドワーフ族特製の戦車を見て驚いた様子を見せていた。
最後にグノー副隊長がやってくる。
「私達が先導しますので、ついてきてください。難しい場合は、この花火を空に向かって撃ってくださいね」
「難しいものか。この戦車は走り出せば、どの動物よりも速く走ることができるぞ」
それを聞いて、乗るのが恐ろしくなる。私に耐えきれるだろうか。
ただ、ルイのために急いで現地へ向かわなければならない。
ありがたく戦車に乗せてもらった。
座席は思っていたよりも広く、座り心地もいい。
体を固定させるベルトもあって、安全性もある程度確保されているようだ。
ただ、体は剥き出しの状態で走るようである。うっかり振り落とされないように気をつけなければ。
まーちゃんは私の足下に乗り込む。落ちないように、注意しておいた。
その後ろにブリーゼ様とジーンが座った。
「では、出発!!」
グノー副隊長の号令で馬が走り始める。
それに続いて、戦車が走り始めた。
「いくぞ、お前ら~~~~!!」
「おおおおおおお!!!!」
「いけえええええええ!!!!」
独特なノリで発進となった。
ずん!! と体が後方へ強く引かれる。
だんだん早くなっていくのではなく、最初から全力疾走するようだ。
「~~~~~~~!?」
何か言ったら絶対に舌を噛むので、奥歯をぎゅっと噛みしめて衝撃に備える。
途中、突起した岩に乗り上げた。
車体は大きく跳ねて右側に傾く。
視界の端に地面が見えた瞬間、叫びそうになった。
まーちゃんは楽しげな様子で、きゃっきゃと喜んでいた。
ジーンも「おおおおお!」と声をあげているものの、怖がっている様子はない。
ブリーゼ様も「ははははは!」と笑っていた。
皆、平気そうで羨ましくなった。




