グノー副隊長
グノー副隊長は息を切らしながら私達のもとへとやってくる。
「初めまして、わ、私は、銀狼騎士隊の副隊長を務めております、ジョエル・グノーといいます」
「お初にお目にかかります、わたくしはアルテンブルク侯爵の娘でであり、リンブルフ辺境伯の婚約者である、アウレリアと申します」
ルイの母親の兄であるグノー副隊長は、年頃は四十代半ばくらいか。
ひょろりと背が高く猫背気味で、目の下にくっきりくまが刻まれている、くたびれた印象のあるお方だ。
「これはこれはご丁寧に……。と、ゆっくり挨拶をしている場合ではないですね。どうやらうちの甥がとんでもない行動を起こしたようで」
ルイの母親からも聞いただろうが、私からも事の次第を説明する。
「ああ、そういうわけだったのですね。妹は私を見るなり取り乱しておりまして、要領を得ていなかったものですから」
身内を前に、感情的になってしまったのだろう。
緊急を要する自体を前に冷静さを保つのは、とても難しいことなのだ。ルイの母親はしばらく休むように言って、執務室に待たせているという。
「グノー副隊長、ルイさんの捜索を目的に、騎士隊を轟の谷に派遣するので、出立準備をしていただけますか?」
私のその言葉にジーンが疑問を投げつける。
「あれ、でも、騎士隊は領主様の命令がないと騎士隊は出立できないんじゃないの?」
「ああ、そうそう、そのとおり。我々銀狼騎士隊は、領主様の許可がないと動けない」
「その件についてですが、こちらを預かっております」
ハルトヴィヒ様が用意してくれた委任状を見せる。
「ああ、はいはい。妹から先ほどお聞きしておりました。了解です。すぐに準備しましょう」
「グノー副隊長、俺も行く!!」
ジーンがそう訴えると、グノー副隊長は表情を曇らせる。
「俺もルイを助けに行きたいんだ!」
「一人前の騎士以外の帯同は難しいかと……」
ならば、私も同行できないようだ。
銀狼騎士隊は少数精鋭で、任務以外の護衛に戦力を割く余裕などないのだろう。
ジーンは悔しそうにしている。
どうにかしてあげたいが、難しい問題なのかもしれない。
なんて思っていたのだが――。
「話は聞かせてもらった! この最強のエルフデア・ブリーゼが友人思いの少年ジーンを守ろうではないか!」
木の上から声が聞こえたかと思いきや、ブリーゼ様が飛び降りてきた。
「まあ、ブリーゼ様、いつからいらっしゃったのですか!?」
「そこのジーン少年が〝アウレリア様、いらっしゃい〟と言っていたところからだな」
「最初からいらっしゃったんですね」
「まあ、そうなる!」
突然のブリーゼ様の登場に驚いたものの、彼女は商人であり、強力な風魔法の遣い手でもある。同行は心強いだろう。
「ちなみに、どうしてそちらにいらっしゃったのですか?」
「ハルトヴィヒから注文を受けた野営邸を、納品しにやってきたのだ」
なんでもリンブルフ辺境伯邸にハルトヴィヒ様や私が不在と聞いて、銀狼騎士隊に直接持って行こうと思ったらしい。
「けれども途中で眠くなってな! 木の上で眠っておったら、元気なジーン少年の声が聞こえて目覚めたのだ」
ブリーゼ様がグノー副隊長に「問題なかろう?」と訊ねると、「よろしく頼みます」と返す。
ジーンは跳び上がって拳を突き上げ、ブリーゼ様に感謝していた。
「俺、出立準備してくるから!!」
そう言って駆けていった。グノー副隊長が胸に手を当ててため息をついているところに、私も物申す。
「グノー副隊長、わたくしも帯同させていただけますでしょうか?」
「ア、アウレリア様も、ですか!?」
グノー副隊長は眉尻を極限まで下げ「うーーーーん」と唸る。
私もジーン同様、戦力外なので同行は難しいのだろう。
諦めかけたそのとき、背後から力強い声が聞こえてきた。
「アウレリア様は、わしらが守るぞ!!」
そう言ってやってきたのは、ドワーフ族の職人達。手には斧を持っている。
「えーーと、あなた方は?」
「ドワーフ族だ。素材集めをするため、魔物と日々戦っていた。アウレリア様を守るくらいの戦力はあるだろう」
「まあ、それでしたら……」
困らせてしまって申し訳ない。
ドワーフ族の職人達にも、感謝の言葉を伝える。
「ずっとアウレリア様に恩返しをしたかったんだ!」
「任せてくれ!」
「アウレリア様のことは、わしらが絶対に守るぞ!」
ドワーフ族の職人が三名、私の護衛としてついてきてくれるらしい。
『まーちゃんも、アウレリアを守るよ!』
「ありがとうございます、頼りにしています」
グノー副隊長を含めた騎士五名と、私とドワーフ族の職人が三名、ジーンにブリーゼ様の捜索隊が組まれることとなる。
ルイの母親のお世話は、レニにお願いしておいた。
暗くならないうちにルイを発見し、村に帰らなければ。
そんな目標を掲げ、私達は出発した。




