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妹が「ずるい!」と言うので、二度目の人生は大公と結婚するのを諦めて辺境伯に嫁ぎます  作者: 江本マシメサ
第六章 助けたい命

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銀狼騎士隊へ

 銀狼騎士隊の駐屯所へ向かう馬車の中でルイの母親は顔面蒼白で、かすかに震えていた。

 大丈夫、心配いらないなんて無責任なことは言えない。

 こういうとき、なんと声をかけていいものかわからなくなる。

 どうしたものか、と考えていたらまーちゃんがルイの母親に話しかけた。


『大丈夫だよお、みんながいるから!』


 一人で抱え込まないで。そう伝えたいのだろう。

 ルイの母親はハッと顔を上げる。まーちゃんが差しだした手を握って、「ありがとう」と感謝していた。

 まーちゃんの言葉で勇気づけられたのか、先ほどのように弱々しい様子を見せることはなかった。

 瞳に光が宿り、強い眼差しで窓の外を眺めている。

 一気に母親の顔となった。

 銀狼騎士隊に到着すると、ジーンが出迎えてくれた。


「アウレリア様、いらっしゃい!」

「ジーンさん、急にごめんなさい」

「何かあったの?」


 私達の顔色を見て、ジーンはすぐさま察したようだ。


「今日はハースト隊長はいらっしゃいますか?」

「ハースト隊長は領主様と魔物討伐に出かけたよ」


 今、駐屯所にいるのは副隊長であるグノー卿だという。


「ハースト隊長とグノー副隊長は、交互に魔物討伐に出かけているんだ」

「そうだったのですね」


 レニに続いてルイの母親が下りていくる。


「あ、あれはルイの……!」


 ジーンを見るなり、ルイの母親はばつが悪そうな表情を浮かべる。

 どうしたのか、聞いている場合ではなかった。


「本日ここにいるのは、副隊長であるグノー卿みたいです」

「ジョエル・グノーは私の兄です。先に事情を話してきます」


 ルイの母親はそう言って、騎士隊の駐屯所に向かって駆けていく。

 なんとなく、この場にいたくなくて言ったようにも聞こえた。

 その場に残された私達は、どのタイミングで行けばいいものなのか。

 なんて考えていたら、ジーンが衝撃の事実を口にした。


「俺、ルイの母親に、ルイと一緒に遊ぶなって言われたことがあるんだ」

「そ、それは、その……」


 ジーンの母親は移民だったような。

 その辺の問題が絡んでいるのだろうと思っていたが違った。


「俺の父ちゃんって、村長の息子だったんだ」


 それはすなわち、ルイと父親が同じだということになる。

 ルイの母親はジーンの父親について知っていたので、夫の不貞を許すことができずに遊ぶなと強く言ったのかもしれない。


「ルイの母ちゃんは俺に厳しかったけれど、ルイは優しかったんだ」


 こっそり会って遊んだり、お菓子を分けてくれたり、秘密基地を作って夢について語ったり。


「ルイは死んだ父ちゃんみたいに、騎士になりたいって言っていたんだ。でも、祖父ちゃんと母ちゃんに大反対されたから、絶対に無理だろうって」


 村長の息子は銀狼騎士隊に所属する騎士で、魔物討伐のさいに命を落とした。

 つまりルイの父親はもうこの世にいない。

 そういえばと振り返る。

 村で一緒にお茶を囲んだとき、ルイは父親について話すときは過去形だったと。


 ――ねえ、母さん! 父さんがいたところで、住み込みで働けるって!

 ――父さんが働いていたところで、暮らしてみたいよ 


 胸がぎゅっと締め付けられる。

 息子を亡くした村長の嘆きも、息子を亡き夫と同じ騎士にさせたくないルイの母親の気持ちも、騎士になって死んだ父に近づきたいルイの気持ちも、すべてではないが理解できる。

 今回の事件は、それぞれ異なる感情を持つ者達がぶつかり合って起きた悲劇だったのだろう。


「ルイの母ちゃんが来たってことは、ルイに何かあったの?」


 やはりジーンは鋭い。すぐに察してしまった。

 彼は幼い子どもであるものの、銀狼騎士隊の従騎士である。

 隠すわけにはいかない。


「ルイさんが村を抜け出し、轟の谷にウインド・リーフを採りに行ったそうです」

「なんだって!? どうしてそんな――」


 言いかけたものの、ジーンは「そっか」と腑に落ちたように呟く。


「ルイが話していたんだ。いつか轟の谷に行ってウインド・リーフを持ち帰って、絶対に騎士になってみせるって」


 そのときジーンは自分も一緒に行くと言い、約束を交わしていたらしい。


「俺も、ウインド・リーフを母ちゃんに持ち帰って、騎士になるんだって、言っていたのに……」


 ルイは騎士になることを大反対され、ジーンは偶然が重なって騎士となった。

 父親は同じなのに、まったく正反対の人生を歩んでいる二人だと思った。


「アウレリア様、俺も、俺もルイを助けに行きたい!」


 そう懇願され、困ってしまう。

 私でさえも、足手まといだと断られる可能性があるのに、ジーンの同行が許されるものなのか。

 なんて考えていたら、騎士隊の駐屯所から一人の騎士が駆けてきた。


「あ、グノー副隊長だ」


 どうやら話は終わったらしい。

 おそらく事情はルイの母親が話しただろうが、改めて報告しよう。

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