村長との邂逅
夜明け前にハルトヴィヒ様は魔物討伐に出かけてしまったらしい。
知っていたら、見送りをしたのだが……。
アンナマリアさんは突然魔物討伐に出かけるのはよくあることで、気にしなくてもいいと言っていたが……。
ハルトヴィヒ様がいないとなると、途端に不安な気持ちに駆られる。
不在中、何も起こりませんように、と祈るばかりだ。
◇◇◇
挨拶もなしに求人を出して村の手を借りることは、よくないことだろう。
やはり村長に会っておかなくては。そう思い、昨日と同じようにレニとまーちゃんを連れて村に向かった。
今日も村の広場では、子ども達が楽しそうに遊んでいた。
「わあ、アウレリア様だあ!」
「まーちゃんもいるう!」
一瞬にして、子ども達に囲まれてしまう。
まーちゃんは子ども達によしよしと撫でてもらい、お腹を上にして寝転がる。
実に幸せそうな表情を浮かべていた。
一息吐いたところで、子ども達から質問を受けた。
「アウレリア様、今日は何をしにきたの?」
「お仕事の募集?」
「いえ、今日は村長さんにご挨拶をしたいと思いまして」
「村長さんだったら、家にいるよ!」
「連れて行ってあげようか?」
「よろしいのですか?」
「うん!」
お言葉に甘えて、子ども達に案内をお願いすることにした。
みんなでワイワイお喋りしながら村長の家まで歩いて行く。
子ども達のおかげで、緊張も少しだけ解れた。
「あの家が村長さんの家だよ!」
「呼んでくるね!」
私の心の準備が整う前に、子ども達が村長を呼びに走ってしまう。
止めようとしたときには、すでに扉を叩いていた。
「村長さーーーん!!」
「お客さんだよーー!!」
村長が家から出てくる。
白髪頭に立派な髭を蓄えた、六十代後半くらいの男性が出てきた。
「誰だ、こんな辺境に客なんて――」
村長とバチッと目が合ってしまう。
すかさず、私は頭を下げて名乗った。
「初にお目にかかります。わたくしは領主ハルトヴィヒの婚約者であります、アウレリア・ド・アルテンブルクと申します」
「お――お前か!!」
脳天に雷が落ちたのでは、と思うくらいの怒号だった。
子ども達は一瞬にして、怯えた表情を浮かべる。
私はすぐにレニに目配せして、子ども達を連れ出すようにお願いした。
レニは頷き、子ども達の手を引いていなくなる。
「村人を騎士隊で働かせようと目論むなど、許すことはできない!!」
「申し訳ありませんでした」
こうなることはある程度予想できていた。
それなのに、こうして怒鳴られてショックを受ける私がいたのだ。
「ただでさえ、若い力を騎士隊に奪われ、村はこの通り閑散としている!! すべては、領主一家のせいだ!!」
ぐうの音も出ない、というのはこういう状況を言うのだろう。
なんて言葉を返したらいいのかわからず、奥歯を噛みしめる。
きっと何を言っても、聞き入れてくれないだろう。
ここで、レニが戻ってきた。
「移民を従えたからと言って、村の者も従うと思うなよ!!」
「移民、ですか?」
「知らないのか? その女をはじめとする移民が、この村にはたくさんいるのだ!」
なんでもリンブルフ辺境伯家のお屋敷で働く使用人は全員、さまざまな地方から移り住んできた移民だという。
「もしもこれ以上働き手が必要なのであれば、移民の手を借りることだな!!」
村長は吐き捨てるように言ってから、家の中へ戻っていってしまった。
ぎこちない動きでレニを振り返る。
普段、クールな彼女だったが、少し泣きそうな顔で私を見つめていた。
「レニさん、今日は帰りましょう」
「ええ、そのほうがよろしいかと。ただその前に――」
レニが移民の移住区へ案内してくれるという。
向かった先は雑貨店や食堂、鍛冶工房など、暮らしに必要な施設が並ぶ通りだった。
「この辺りで商売をしているのは、ほぼ移民なんです」
村人達はもともと、自給自足の暮らしをしていた。そのため、それらの施設を長年必要としていなかったらしい。
レニの実家は食堂だった。
今は両親と姉夫婦が力を合わせて営業しているという。
食堂の扉には準備中という看板が下がっていたものの、レニは気にせず中へと入った。
「おやおや、まだ営業時間じゃ――レニじゃないか!」
テーブルを拭きつつ振り返ったおかみさんは、レニの母君だった。
「そちらのお方は噂の、領主様の花嫁さんかい?」
「ええ、そう。アウレリア様です」
「どうも初めまして」
挨拶していると、レニの家族がゾロゾロ出てくる。
父君に姉君、お婿さん――皆、明るく元気だった。
レニは少し恥ずかしそうな様子で、お茶とお菓子を用意するように言っていた。
普段、無表情なレニだったが、家族の前では末っ子に戻るのだろう。
彼女の新たな一面を見ることができて、嬉しく思った。
お茶とお菓子が運ばれてきたあと、私はレニから移民についての話を聞くこととなる。




