帰宅後
帰ってくると、庭に見なれない家が建っていた。
その周囲を取り囲むのはドワーフ族の職人たち。
「すばらしい出来だろう!?」
元気いっぱいな声が聞こえる。その主はブリーゼ様だった。
よくよく見たら、その背後にハルトヴィヒ様の姿を発見した。
仕事の話をしているだろうから、声をかけないほうがいいだろう。
そう思っていたのに、ハルトヴィヒ様は私に気付いてくれたようで、手をぶんぶん振ってくれた。
「アウレリア、おかえり!」
「はい、ただいま戻りました」
「どうだった?」
「ひとまず掲示板に求人を貼って、少しだけ領民の方々とお話もできました」
色よい返事はもらえなかったものの、話を聞いてもらえただけでも大きな前進だと思うことにしておこう。
「一人でそこまでできたんだ! アウレリア、すごいよ!」
なんでもハルトヴィヒ様が最初に一人で村を訪問したとき、話を聞いてもらうことすらできなかったらしい。
「みんな顔を見るなり、蜘蛛の子を散らすようにぴゅーーっといなくなってさあ」
何度も何度も村に通った結果、ようやく害のない領主だという認識が広まったようだ。
「さすがだ」
「いえ、その、偶然子ども達が遊びの輪に入れてくれまして、その結果、お母様方をお茶に誘うことができました」
「お茶も飲めたの!? すごすぎる……!」
魔石ポットを使ってお茶を淹れたら、困惑されてしまったことも報告しておく。
「でも、子ども達は喜んだでしょう?」
「そうなんです。よくわかりましたね」
「子どもは好奇心旺盛で、素直だからね」
ひとまず種を撒くことはできたので、あとは花咲くことを願うばかりだった。
「こっちはこの通り、ブリーゼが来てくれてね」
なんでもブリーゼ様をすぐに呼び寄せることができる、魔法の招待状を預かっていたらしい。
「魔法の招待状、ですか?」
「そう。メッセージを書いて外に放り投げたら、ブリーゼのもとに飛んで行くんだ」
なんて便利な魔法なのか。羨ましく思ってしまう。
と、ここでリンブルフ辺境伯領にやってきてからというもの、父に手紙を書いていなかったことを思い出す。
初日からバタバタしていて、すっかり忘れていた。
あとで書いて送らなければ、と思う。
「ブリーゼが売る家、アウレリアが言っていた通り、この前よりはずっとお手頃な価格で買い取りできそうだ」
「それを聞いて安心しました」
ドワーフ族の職人達は出し入れできる野営邸に興味津々だという。
「まさか、エルフ族とドワーフ族がああやって、一緒に楽しそうにしているところを見ることができるとは、夢にも思っていなかったよ」
「本当に、よかったです」
依然としてエルフ族に対する複雑な気持ちはあるようだが、隠れ里が火事になった騒動でドワーフ族の人々を助けてくれたブリーゼには敬意を示しているようだった。
「ハルトヴィヒ、そこで何をして――おお、アウレリアではないか! こっちへ来て、商品を見ていくといい」
ブリーゼ様は元気いっぱいな様子で手招きしてくれる。
「野営邸をたくさん仕入れたんだ。アウレリアも一軒どうだ?」
「わたくし、ですか?」
「ああ。魔石や魔物の素材を保管するのにいいと思わないか?」
「たしかに、そうですね」
そんな会話をしていたら、ハルトヴィヒ様が待ったをかける。
「アウレリア、保管庫が必要だったら、うちにもあるから!」
「ならば、ケンカしたときの別居用に使うのはどうだろうか?」
「ブリーゼ、変な理由をつけて売り込まないで!」
魔法の鞄の収納には限りがあるので、いいと思ったのだが。
「今、一つ一つ紹介していたんだ」
現在目の前に展開されているのは、キッチンやお風呂も完備されている、三人から四人家族用の平屋建ての家だという。
他にも二階建ての家や、お風呂や台所がない、眠るだけに特化した家もあるという。
ハルトヴィヒ様と共にじっくり見学し、購入する家を選んだのだった。
◇◇◇
その日の晩、父に手紙を書いた。
ハルトヴィヒ様によくしてもらい、充実した日々を過ごしている。
そんな報告をすることができた。
一度目の結婚では、絶対にできなかった報告である。
ハルトヴィヒ様の婚約者になれて、リンブルフ辺境伯領にやってきて、本当によかった。
そんな素直な気持ちを父へ書き綴り、王都の実家へ向けて送ったのだった。




