お誘い
子ども達はジーンと同じくらいの年齢だろうか。
大人達に囲まれて育ったジーンとは異なり、無邪気なものである。
ジーンももしかしたら、この子ども達みたいに遊びたい年頃かもしれない。
それを思うと、少しだけ胸が痛んだ。
最初は子ども達とまーちゃんの遊びを見ているだけだったのだが、途中で誘われてしまう。
「アウレリア様も、一緒に遊ぼう!」
「わ、わたくしも!?」
腕を引かれ、遊びの輪に誘われる。
レニを振り返ると「行ってらっしゃいませ」、とばかりに頭を下げるばかり。
やるしかないようだ。
その遊びというのは、影踏みというもの。
「アウレリア様が、影を踏んでね!」
「おれ達は逃げるから!」
「影を踏んだら、アウレリア様の勝ち! 踏めなかったら負け!」
『アウレリア、頑張れ~~』
いきなり大任を任されてしまう。
子ども達の逃げ足は想像以上に速く、ドレスを着た状態では追いつけない。
せめて乗馬服だったら……なんて思いつつも、負けてなるものかと子ども達を追いかける。
子ども達が疲れたところを見計らって――捕まえた!
「わあ!」
私もやればできるのだ。
木陰で休んでいたまーちゃんも捕獲する。
『わーん、まーちゃんも、捕まっちゃったよお』
あとは誰が残っているのか。
なんて思いつつ周囲を見渡したていたらふと気付く。子ども達の母親がやってきていたことに。
子ども達も気付いていなかったようで、「うわ、見つかった!」と言って走っていなくなる。
この場に子ども達の母親が二名残された。
気まずい空気が流れる。
子ども達と本気で追いかける私を見て、変な人だと思われたかもしれない。
このままでは不審者でしかないので、挨拶してみた。
「こんにちは、その……」
怪しい者ではありませんと言おうとしたが、それだと余計に怪しまれそうだ。
母親の片方は、先日魔技巧品の説明会に参加していた女性の一人である。
目が合うと、気まずげな様子でいた。
いい機会だと思って、彼女らをお茶に誘ってみる。
「よろしければ、ここでお茶でも飲んで行きませんか?」
「ここで、ですか?」
「はい」
「いったいどうやって?」
「わたくしにお任せください」
魔法の鞄からピクニックシートを取りだす。
レニとまーちゃんが協力して広げてくれた。
ピクニックシートの上に座り、二人にも勧めてみる。
けれども戸惑いの表情を見せるばかりだった。
どうしたものか、なんて考えていたら、先ほど逃げた子ども達が戻ってきた。
「わあ、何をやっているの?」
「ピクニック?」
「ええ、そうですよ。よろしければどうぞ」
「わーい!」
「おじゃましまーす!」
子ども達は私のお誘いに応じ、ピクニックシートに座ってくれた。
再度、母親達に勧めると、しぶしぶといった様子で腰を下ろす。
魔法の鞄からスティック状のサブレを取りだす。一つ一つワックスペーパーで個装されているので、直接掴まなくても食べることができるのだ。
「お茶を淹れますね」
その間、サブレを食べておくように言っておく。
子ども達は嬉しそうに頬張り始めた。
私は魔石ポットを取りだし、水筒に入れていた水を注いで湯を沸かす。
レニはカップを並べ、茶葉を図ってくれた。
一瞬で水は沸騰したので、子ども達は驚いた様子だった。
「え、何それ!?」
「魔法みたいにお湯が沸いた」
「これは魔技巧品という、魔法で作られたアイテムなのですよ」
「魔法だったんだ!」
「すごい!」
沸騰した湯をポットに注ぎ入れ、しばし蒸らす。
子ども達は魔技巧品に興味津々な様子だった。
「こんな便利な物があるんだなあ!」
「おれ達なんか、湯を沸かすだけでも、薪を集めて火を熾してって、大変なのに」
魔技巧品があれば、その手間もかなり軽減される。
男手が足りない村にこそ必要なのだ。
母親達は魔技巧品の話を気まずげに聞いていた。
おそらく魔技巧品に頼らない暮らしをするというのは、領民全体の考えだと決めてあるのだろう。
私は敢えて母親達に魔技巧品を勧めることはせずに、ただお茶だけを飲むように言った。
お茶は茶菓子すら拒絶されたらどうしよう……なんて思ったが、口にしてくれたので胸を撫で下ろす。
子ども達やまーちゃんがわいわい話し、盛り上がっていたが、会話が途切れたタイミングで母親の一人が話しかけてきた。
「あの、アウレリア様は今日、どうしてこちらに?」
魔技巧品の説明会に参加しているほうの母親だった。
「わたくしは今日――銀狼騎士隊の騎士舎で、住み込みで働ける人を探しにまいりました」
それを聞いてハッとなったのは、子どものほうだった。
「ねえ、母さん! 父さんがいたところで、住み込みで働けるって!」
「でも、それは……」
「俺、やりたい! 掃除とかできるから!」
まさかの、子どものほうが働くことを望んだ。
もう一人の子どもも、母親に懇願する。
「父さんが働いていたところで、暮らしてみたいよ」
「俺も! だからお願い!」
母親同士顔を見合わせ、困った様子でいる。
この場で決めることは難しいだろう。
「一度、ゆっくり考えてください。また、ここを訪れますので」
余ったサブレをお土産として私、私とまーちゃん、レニは屋敷へ戻ることとなった。




