話し合い
「領民に求人を出す、かあ……」
アンドリュースさんは後頭部を掻き、なんとも言えない様子でいた。
アンナマリアさんも同様に。
ハルトヴィヒ様は「うーーーーん」と声をあげ、困っているようだった。
彼らが言いたいことはわかる。
「領民の方々は騎士隊の活動をよく思っていないので、求人を出しても応募がないかもしれない、というのは承知の上です」
「そう、そうなんだよ……」
この前の魔技巧品の説明会を振り返ると、協力してくれるとは思わない。
「しかしながら、子ども達は騎士である父親に会いたがっているようでした」
「うん、そうだね」
騎士は基本的に常駐していて、交代任務で働いている。
週に一度休日があるようだが、体を休めることに使っているようで、村に戻ってくる者はほとんどいないようだ。
「帰っても家族から騎士を止めろだの、家を空けて役に立たないだの、いろいろ言われるのが嫌で、休日は騎士舎で過ごす者も多いみたい」
家族を思って魔物討伐に出ているのに、それが報われないとなると、帰るのも億劫になるのだろう。
「わたくし、考えたんです。銀狼騎士隊の敷地内で、住み込みで働けばいいと」
騎士隊に住居を構えたら、騎士も家族のもとに帰ることができる。
家族の時間を過ごすことができるのだ。
私の提案を聞いたハルトヴィヒ様は、パッと表情を明るくする。
「さすがアウレリアだ! 住み込みで働いてもらうなんて、まったく思いつかなかった!」
ただ最大の問題はどこに住むのか、である。
騎士舎は人が住めるような状況でないし、本格的に改装するのであれば、騎士も住めなくなるだろうから。
アンドリュースさんが問題について述べる。
「簡易的な家を建ててもらえばいいのだろうが、ドワーフ族は改装作業で忙しいだろうし……」
「村の職人に頼むしかないのよね」
職人は頑固な者が多く、応じてくれるだろうか、とアンドリュースさんとアンナマリアさんが遠い目で話していた。
「それに関しては、ブリーゼ様を頼ろうと思っています」
「ブリーゼというのは、ハルトヴィヒが懇意にしている商人だったか」
「そうそう。ブリーゼに家を発注するの?」
「ええ。以前、ブリーゼ様が使っていた、〝野営邸〟です」
「ああ、そういえば、あったね!!」
魔技巧品の〝野営邸〟は、一瞬で住宅を建てることができる。
「まあでも、けっこう高価だけどね」
ブリーゼ様は一軒につき、金貨五十枚と話していた。
貴重な魔技巧品のようだったが、量産に成功したと言っていたので、もう少し安く販売されるかもしれない。
「そっか、野営邸があれば、騎士達の仮住まいになるし、家族の時間も作ることができる。いいこと尽くめなんだ」
「野営邸を購入する資金は、わたくしが――」
「大丈夫、大丈夫! 野営邸を購入する資金くらいはあるから」
ブリーゼ様に連絡して、野営邸をいくつか購入するという。
「ひとまず十個あれば、足りるかな」
十人の人手があれば、清掃も行き届くだろう。
「ハルトヴィヒ様、採用はわたくしに任せていただけますか?」
「え、いいの?」
「はい」
アンドリュースさんやアンナマリアさんも、私がやったほうがいいと言ってくれた。
「領主一家は嫌われているからね」
「お恥ずかしい話なんだけれど」
「ううう、耳が痛いい……」
上手くいくかわからないが、一度やってみよう。
任せてくれたハルトヴィヒ様に感謝しなければ。
◇◇◇
翌日、私はレニとまーちゃんを連れて村に向かった。
まずは村長に挨拶をしなければと思い、レニの案内で訪問する。
けれども不在で、家はもぬけの殻だった。
一応、ハルトヴィヒ様が村長に手紙を送り、清掃員を募集する旨は伝えてあった。そのため、村長に直接お伺いを立てる必要はないと言われていたのだ。
けれども一度挨拶をしたほうがいいと思い、こうしてやってきたわけだが……。
「いないのであれば、仕方がないですよね」
「ええ」
挨拶は諦めて、村の掲示板に求人募集の紙を貼りつける。
あとは雑貨店や食堂にもお願いしようか。
なんて考えていたら、先日会った子ども達がやってくる。
「領主様の花嫁さんだー!」
「今日もきれいねえ」
「ふふ、ありがとうございます」
子ども達は掲示板の裏から出てきたまーちゃんを見て、驚きの声をあげる。
「わあ、なんだこれ!」
「でっかいネズミなの?」
『まーちゃんは、オオカワウソ妖精だよお』
「喋った!」
「まーちゃんだって!」
あっという間にまーちゃんと子ども達は打ち解け、遊び始めた。
なんとも微笑ましい光景だった。




