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妹が「ずるい!」と言うので、二度目の人生は大公と結婚するのを諦めて辺境伯に嫁ぎます  作者: 江本マシメサ
第五章 新たな問題

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騎士舎の現状

 その後も、目を疑いたくなるような状況が続く。

 妙に弾力がある床だと思っていたら腐食していたり、イタチの兄弟が棲みついている部屋があったり、ガラス窓がなく吹き抜け状態の部屋があったり。


「このふわふわ床は、いろんなところにあるんだ」


 なんでも銀狼騎士隊では、腐食状態にある床を〝ふわふわ床〟と呼んでいるらしい。


「前の隊長さんが酔っ払ってふわふわ床の上で跳びはねて、床が抜けているところもあるんだよ」

「まあ……」


 ちなみにその穴には、マットを広げて隠しているという。


「でも年に一度、誰かが知らずに穴を踏み抜くから、どんどん広がっていくんだよねえ」


 イタチの兄弟には名前があった。


「一番大きくて態度もでかいのががルードヴィヒ十七世、体が小さくて臆病なのがアレクサンドル大公、毛並みがよくて真っ白なのがコンラート侯爵」


 なんだかとてつもなく高貴な名前が付けられていた。

 ちなみに餌付けしているわけではないらしい。


「何度も追いだそうとしているのだけれど、返り討ちにあっているみたい」


 普段、魔物相手に勇敢に戦っている騎士も、野生の動物相手では強く出ることができないようだ。


「イタチの兄弟、見てみる?」

「いいえ」


 ジーンはレニにも聞いていたが、彼女も丁重にお断りしていた。

 ガラス窓がない部屋は、騎士同士のケンカで壊れたあと、そのまま放置しているという。


「一階部分にあるんだけれど、玄関まで行くのが面倒くさい人が出入り口にしているんだって」

「窓から出入りしている、ということですか?」

「そうそう」


 話を聞いているだけで、くらくらしてきた。

 共用部分だけでこれだけいろいろあるのだから、上の階の個人スペースはさらに酷いことになっているだろう。


 上の階も案内してくれるとジーンは言ったものの、私的空間なのでお断りさせてもらった。

 一階部分を見ただけでも、人が暮らせるような環境としてふさわしくないことは十分理解できた。


「アウレリア様はこんな酷い場所を見て回っても平気なんだね」

「わたくしが、ですか?」

「うん」


 なんでも昨日やってきた使用人の中には、あまりの酷さに目眩を訴え、しばらく外で休んでいた者がいたという。


「ハースト隊長が、普通の女の人には耐えられない酷い環境だって言っていたから」

「たしかに、そうかもしれません」


 これまで何度も意識が遠のいていくような場面があった。

 なんとか耐えられることができたのは、ここの現状をハルトヴィヒ様に伝えなければ、と思う責任感からである。

 私がどう思うか、感じるかは二の次なのだ。


「その、逆にみなさんはよく平気でしたね」

「他の騎士達は、最初はびっくりしたけれど、暮らし始めたらあんがい快適だって言ってた。俺は最初からこの状態だったから、これが普通だって思っていたんだ。それに実家だって、だいたいこんな感じだし」

「そう、だったのですね」


 なんでもジーンの母君は移民かつ未婚の母で、父親は誰かわかっているものの、少しでも問いただしたら激しく叱られていたという。


「母ちゃんは父ちゃんに捨てられたから、禁句だったみたい」


 酒浸りの毎日を送っていたようで、ジーンは酔っ払った母親から追いだされてしまったようだ。


「行く当てもなく困っていたら、偶然通りかかったハースト隊長が俺を保護してくれて、ここに住みつつ騎士見習いになることを認めてくれたんだ」


 騎士をするにはジーンは幼すぎる、なんて思っていたのだが、そんな事情があったとは。


「これまでよく、頑張りましたね」


 そう伝えると、ジーンは驚いた顔で私を見つめる。


「この話をして、初めて褒められた!」

「そうだったのですか?」

「うん。母さんについて話すと、みんな可哀想な顔で見てくるから」


 この世にはさまざまな事情を持つ者がいる。

 だから私はジーンを可哀想だとは思わなかった。

 むしろ、こんなに幼いのに身を立てようと努力するなんて、尊敬に値すると感じたくらいである。


「アウレリア様、ありがとう!」


 こんなふうに彼がまっすぐ育っているのは、ハースト隊長をはじめとする騎士達のおかげだろう。

 そんな彼らが暮らすこの場所を、もっと快適に、住みやすい場所にしなくては、と改めて思ったのだった。


 少し休憩しよう。

 掃除をしていた使用人や訓練に励んでいた騎士を呼び寄せ、外に敷物を広げてお茶とお菓子を振る舞う。

 水源を調査していたまーちゃんやルカエルとミカエル、ドワーフ族もやってきて、成果を報告してくれた。


『あのねえ、まーちゃん、水場を三つも発見したの!』

「頑張りましたね」

『うん!』


 ルカエルとミカエルはまーちゃんの活躍を臨場感たっぷりに報告してくれた。

 三つ見つかった水場のうち、一つは温泉だったという。

 水は問題なくあるというので、あとはここをどうするかだ。

 他の騎士から不便なところはないか聞いてみる。


「いやあ、とくに」

「俺達、ネズミやイタチがルームメイトですからねえ」


 その言葉にため息が零れる。

 こんな暮らしを受け入れ、馴染まないでほしい。

 ネズミやイタチなどの野生動物は病気をたくさん保有しているという。

 もしもたちが悪い病気に感染したら大変だ。

 改めて、掃除を徹底しなければと思う。

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