計画について
アンドリュースさんとアンナマリアさんに、相談を持ちかける。
「なるほど、銀狼騎士隊の騎士舎に温泉を、か。その手があったな!」
「とてもいいアイデアだと思うわ!」
アンドリュースさん曰く、訓練を終えたあとや、討伐からまっすぐ入浴できるよう、外に新しい建物を造ったほうがいいという。
「騎士達は汗や魔物討伐で汚れた体を、騎士隊の外にある井戸で洗い流していたはず」
「そうだったのですね」
ならば、余計に温泉施設が必要だろう。
「まずはハルトヴィヒ様に許可を取ってからですね」
「いいや、必要ないよ」
「どうしてでしょうか?」
「ハルトヴィヒが不在中の決定権は、アウレリアさんに一任するように言っていたんだ」
「わたくしが、ですか!?」
書面でも私に任せるようにと残しているようで驚いてしまう。
「わたくしはまだ、ハルトヴィヒ様の妻でもありませんのに」
「それでも、ハルトヴィヒはアウレリアさんを信じて、任せようと決めたんだよ」
ハルトヴィヒ様がこのように、他人を頼り、任せようとすることは初めてだという。
「ついに自分の中にだけあった責任を、誰かに任せようと思える日が訪れたんだ」
「とても、すばらしいことだわ」
ハルトヴィヒ様は私を信用し、任せてくれようとしているのだ。
その期待に応えるしかない。
「では明日、狼騎士隊の関係者に、計画について話してこよう」
「わたくしはドワーフ族の職人に相談に行ってきますね」
ひとまず話がまとまったので、ホッと胸を撫で下ろしたのだった。
◇◇◇
翌日――レニとまーちゃんを引き連れ、屋敷の裏にある、ドワーフ族の領域に向かった。
ドワーフ族の領域には、依頼を受け付けたり、職人同士で情報交換を行ったりする集会所がある。そこへお邪魔した。
「おお、アウレリア様ではないか!」
ドワーフ族の長老がいて、私に対して敬意の礼を取ってくれる。
火事騒動以来、このような態度で接してくれるのだ。
『まーちゃんもいるよお』
「おお、まーちゃんもいたのか。木の実でも食べるか?」
『うん、食べるう!』
まーちゃんは長老から木の実をもらい、レニにナイフで剥いてもらって頬張る。
『おいしーー!』
まーちゃんの無邪気な様子に癒やされた。
長老もにこにこしながら、まーちゃんを見守っていた。
「長老様、腰の具合はいかがでしょうか?」
「アウレリア様が用意してくれた魔法軟膏おかげで、すっかりよくなった」
長老は火事のさい、倒壊した家屋の下敷きになった子どもを助けるために、大きながれきを持ち上げたという。そのさいに、腰を悪くしてしまったのだ。
王都から買い置きしていた魔法軟膏があったので、お裾分けしたわけである。
「して、今日は何用でやってきたのだ?」
「はい。実は、新しい温泉施設を騎士隊に建設する計画を立てたくて」
「わかった。ならば皆を呼ぼうではないか」
そう言って長老は集会所にある釣鐘をカランカランと鳴らす。
すると、職人達がゾロゾロやってきた。
「おお、アウレリア様だ!」
「今日もお麗しく」
「俺達の力が必要なんだってえ?」
ドワーフ族の職人達は厳格で頑固なイメージがあったが、それは間違いだった。彼らはとにかく陽気で、働き者なのである。
私を取り囲むようにして計画を話すと、職人達は気持ちよく協力してくれると言った。
「まずは温泉の源泉探しからだなあ」
『まーちゃん、温泉、探せるよ!』
「それは頼もしい」
アンドリュースさんが今日、銀狼騎士隊に話を通してくれているので、すぐにでも調査に行けるだろう。
「ただ、アウレリア様よ、騎士達の中には飢えた狼がいるからなあ、気をつけなされよ」
「はあ」
その飢えというのはお腹が空いている、というそのままの意味ではないだろう。
きっと血気盛んだったり、飢えた願望を隠していたりと、抑圧された環境の中で欲望が満たされない状態の者がいるのかもしれない。
銀狼騎士隊に行くときは、まーちゃんとレニがいればいい、なんて考えていた。
けれども忠告を聞いて、検討しなおさなければと思ったのだった。




