変わっていくもの、変わらないもの
リンブルフ辺境伯邸にある敷地内の新たな住人としてドワーフ族を迎え、これまで以上に賑やかになる。
真っ先にハルトヴィヒ様が着手したのは、ドワーフ族の生活の基盤を整えること。
まずはドワーフ族の主食である木の実を取り寄せ、さらに彼らが好む薬草の種も栽培できるように渡した。
それ以外にも服を作るための布地や、寝床に敷く布団、子どもが遊べるようなオモチャに至るまで、商人であるブリーゼ様にお願いし揃えてもらったのだ。
はじめこそはハルトヴィヒ様に敵意を抱く者もいたようだが、今では敬意を示すようになったという。
続いて、ドワーフ族の職人達のために働ける環境も作った。
鍛冶場に服飾作業小屋、魔技巧品工房などなど。
ドワーフ族は鍛冶祭以前までに引き受けていた依頼を、大急ぎでこなしていたという。
そんな彼らの暮らしが落ち着いてくると、ついにリンブルフ辺境伯領で使われる魔技巧品の計画が立てられた。
最初に着工に取りかかったのは、敷地内で発見した温泉の源泉を利用した温泉施設である。
ドワーフ族は入浴文化があるようで毎日のお風呂は欠かさない、極めてきれい好きな一族らしい。
そのため温泉施設の計画を聞いたときは、大喜びだったという。
建物に使用する木材や、床に張るタイル、浴槽用の琺瑯を用意したら、ドワーフ族の職人があっという間に建ててしまった。
まーちゃんとドワーフ族の職人が手を組み、新たな温泉の源泉を発見することに成功し、そこから豊富な温泉が湧き出てきた。
そして、ドワーフ族の魔技巧師が温泉を引き入れる装置を作ってくれた。
瞬く間に、温泉施設が完成したのである。
名前を決めてほしい、と子ども達にお願いしたら〝カワウソの湯〟と命名してくれた。
絵心のある職人が、まーちゃんの姿を模した看板も作ってくれたのである。
そんなわけで、リンブルフ辺境伯領初めての魔技巧品を用いた施設、〝カワウソの湯〟がオープンした。
もちろん、ドワーフ族のために作った施設なので入浴料は無償。その代わり、清掃や魔技巧品の管理などをお願いしておく。
そんな〝カワウソの湯〟は毎日大盛況。
毎日大行列ができているという。
第二施設も計画が浮上しているという。彼らのやる気を応援したい。
続いて行ったのが、屋敷内に水道を引くこと。
ドワーフ族の魔技巧師と何度も話し合い、施工が開始される。
結果、一ヶ月と経たずにリンブルフ辺境伯のお屋敷にも、すべての水場に水道が通った。
水源からドワーフ族の職人特製の管を引き、蛇口と呼ばれる金属性の器具を捻ると、いつでも水が出てくる仕組みを作ってくれた。
私が完成させた水道よりも魔石の消費が少なく、水漏れなどの心配もないらしい。
画期的な魔技巧品だった。
洗濯メイドや調理場の料理人は感激のあまり、涙ぐんでいたという。
魔技巧品のある日々は、人々の暮らしを豊かにしていった。
◇◇◇
今日はリンブルフ辺境伯領にある村に行き、水道を通すための説明を行いにいった。
集まった領民は十名ほど。思っていたより少ない。
村長の姿はなく、どうしたものかと思う。
それにどうしてか女性が多く、初老の男性が二人いるばかり。若い男性の姿はなかった。
ハルトヴィヒ様がにこやかに挨拶をし、さっそく水道についての説明を始めた。
「このように、魔法の力で水源を管理すれば、雨の日も風の日も、外に出ることなくたっぷり水を確保できるわけで――」
領民達の表情は険しい。
興味がない、とばかりに居眠りする人もいた。
「えー、それで、質問とかあるかな?」
「領主様」
手を挙げたのは、三十代半ばほどの女性だった。
「何かな?」
「その、水道とやらは、本当に必要なのでしょうか?」
「必要になりますよ、という説明をしてきたつもりだけれど」
「私はそうは思いません。これまで、魔法に頼らない暮らしをしてきたんです。今後も、それでよくないですか?」
他の領民達も、女性の意見にこくこく頷いていた。
どうしたものか。
ハルトヴィヒ様は遠い目をしながら、領民達の訴えに耳を傾けていた。




