それから
真っ先に駆けつけてきたのはレニだった。
隣の部屋で待機していたらしい。
「アウレリア様、お身体の加減はいかがでしょうか?」
「ええ、悪くないです」
喉が乾燥してカサカサしている気がするが、火に晒されているときよりずっといい。
レニが私の上体を支えながら、起き上がらせてくれる。
そして、蜂蜜を溶かして作った白湯を飲ませてくれた。
「その、わたくしはどのようにして、ここまで帰ってきたのでしょう?」
「リンブルフ辺境伯に横抱きにされ、戻っていらっしゃいました」
運び込まれた当初、私は呼吸が荒く、苦しげな様子だったという。
貴重な魔法薬を飲まされただけでなく、ブリーゼ様が魔法医まで連れてきてくれたようだ。
「魔法医の先生曰く、三日間のうちに目覚めるだろう、とのことでしたが」
私の回復は思っていたよりも早かったらしい。
ハルトヴィヒ様は夜明け付近まで私の傍にいたようだが、ブリーゼ様が引きずって部屋に連れて行ってくれたようだ。
「みなさまに、ご迷惑をかけてしまったのですね」
「いいえ、そのようなことは決してないかと」
そんな話をしていたら、賑やかな声が聞こえてきた。
やってきたのは――。
「ほら、目覚めている!」
「早く確認して!」
『アウレリア、起きたから!』
早朝から元気いっぱいなルカエルとミカエルにまーちゃん、それから――ハルトヴィヒ様だった。
「アウレリア!!」
感極まった様子でやってきて、寝台の前に片膝を突く。
「よかった……! 本当によかった……!」
「ご心配をおかけしたようで」
「心配するよ! だって、アウレリアは大切な女性だから!」
ハルトヴィヒ様の言葉が、胸にじーんと染み入る。
「アウレリア、抱きしめてもいい?」
ハルトヴィヒ様がそう言うやいなや、皆寝室から退室していく。
まーちゃんだけ残っていたが、ルカエルとミカエルが引きずって連れて行った。
「その、はい」
返事をすると、ハルトヴィヒ様は私を優しく抱きしめてくれた。
彼の温もりを感じていると、無事、戻ってくることができてよかったと思ったのだった。
◇◇◇
ドワーフ族の隠れ里はほぼほぼ全焼状態で、とても住めるような環境ではないらしい。
そのため、ハルトヴィヒ様がドワーフ族に住居を提供しようか、と話を持ちかけたという。
ドワーフ族の長老はその申し出を受け、一族の皆と共に引っ越してきたそう。
場所は屋敷の裏にある、使用人の住居だった小住宅。
現在、使用人のほとんどは近くの村から通いでやってきているため、長年使われていなかったようだ。
手入れは定期的にされていたようで、すぐに住めるような状況ではないものの、軽く掃除をするだけでいいようだ。
そして、ドワーフ族の長老が私に感謝の気持ちを伝えにやってきてくれた。
「この度は、ドワーフの皆と、里を救ってくれて、感謝する」
ケガ人は数名いたものの、命を落とした者は一人もいなかったらしい。
「その、ケガ人も魔法医の治療で治してもらい、後遺症に苦しむ者もいなかった」
「ああ、よかった。それを聞いて安心したよ」
ハルトヴィヒ様がそう言うと、ドワーフ族の長老は不思議そうな顔をしながら問いかける。
「なぜ、そのように言える? 長年、我々はいがみ合っていたではないか」
「それは四百年前の話だからねえ。俺にとっては、ドワーフ族も同じ領内に生きる仲間だと思っていたから」
支配下に置いている存在ではなく、〝仲間〟。
その言葉はドワーフ族の長老の胸に響いたようだ。
「交渉をしにやってきた、と聞いていたが、我々に何かできることがあるのだろうか?」
ハルトヴィヒ様は目を大きく見開き、驚いた表情を浮かべる。
けれども次の瞬間には、目的について打ち明け始めた。
「実は、腕のいい魔技巧師を探していて」
ハルトヴィヒ様は計画を語る。
領民達のために、リンブルフ辺境伯領を魔技巧品で豊かにしたい。
それには魔技巧師が必要だ、と。
「わかった。ならば我々ドワーフ族は、リンブルフ辺境伯領の発展に協力しよう」
その言葉を聞いた瞬間、ハルトヴィヒ様と顔を見合わせる。
手と手を取り合い喜んだ。
最後に、私はドワーフ族の長老に魔石を差しだす。
「なんだ、これは?」
木箱に収められているそれは、燃えるようなルビーに似た〝炎の魔石〟。
「なっ、このような上質な魔石は見たことがない!! それに、属性付きだと!?」
ドワーフ族の隠れ里を襲った炎を封じ込めた魔石である。
そう説明すると、ドワーフ族の長老は驚いた顔で私を見つめた。
「急に火事が収まったのは、炎を魔石化させたからだったのか」
「ええ」
ブリーゼ様は黙って貰ってもいいのではないか、なんて言っていた。
ハルトヴィヒ様は神々の遺物について、打ち明けるべきではないとも。
けれども私は二人の意見を聞かずに、ドワーフ族に炎の魔石を差しだすことに決めたのだ。
その理由について、ドワーフ族の長老が火事をどうやって消したのか知りたがっていたということもある。
それに加えて、彼らは住処を失った。
代償としてこの炎の魔石を得るべきではないのか、と思ったのだ。
神々の遺物について打ち明けると、ドワーフ族の長老はさらに驚愕の表情を浮かべる。
「なんと、このような代物が実在していたとは……!」
ドワーフ族の長老は神々の遺物、魔石工房を目にしただけで、その価値を理解したようだ。
「村の火事を一気に引き受け、このような代物を作るとは……! まさか、数日寝込んでいたというのは、これを使った影響なのか?」
すかさずハルトヴィヒ様が「そうだよ」と答えた。
「そういうわけだったのか……。ならば、この魔石は我々が受け取るべきではないだろう」
差しだした炎の魔石は、そのまま返されてしまった。
ハルトヴィヒ様のほうを見ると、こくりと頷く。
受け取っておけと言いたいのだろう。
今後、この魔石が必要になる日が訪れるかもしれない。
その日まで、私が預かっておこう。そう思って受け取っておく。
最後に、ドワーフ族の長老は胸に手を当てて頭を下げる。
感謝の言葉と、今後の協力を誓ってくれたのだった。




