火よ
ドワーフ族の隠れ里に広がる炎を、魔石工房を使って吸収できればと思いついたのだ。
「――自動吸収!!」
運を天に任せてやってみよう。
そんな気持ちだった。
上手くいくとは思っていなかったが――。
炎が魔石工房に向かって巻き上がり、吸収されていく。
上手くいった!!
そう歓喜したのは一瞬のこと。
すさまじい高熱が私に襲いかかり、魔石工房が手から離れそうになった。
もしも今、魔石工房を落としたら、吸収した火が一気に放たれてしまう。
それだけは避けなければならない。
防火魔法がかかった外套と手袋を着用しているので、ある程度のダメージは軽減できているのだろう。
けれども外套や手袋に守られていない、露出箇所が悲鳴を上げるようにズキズキと痛んでいた。
「アウレリア!!」
ハルトヴィヒ様が私に駆け寄ろうとしたようだが、ブリーゼ様に止められていた。
「止めろ!! むやみやたらに近づいたら、大やけどをするぞ!! アウレリアは神々の遺物所有者ゆえ、ある程度は守られているはずだ!!」
これでも私は守られているほうだったらしい。
ならば、余計に耐えなければ。
ドワーフ族の隠れ里に広がった火は、どの程度吸収できたのだろうか。
視界いっぱいだった火は、ずいぶん減ったように思える。
あと少し、あと少し……。
わかっているものの顔の皮膚は燃えるように熱く、喉はカラカラを通り越し、ヒリヒリとした焼けるような強い痛みを訴えている。
意識が遠のきそうになるたびに、奥歯を噛みしめ、自らを揮い立たせる。
けれどもそろそろ限界も近い。
すでに限界は通り過ぎ、気力だけで立っているようなものだった。
視界がぐらりと歪み、意識が遠のきかけた。
その瞬間、私の肩ががしっと強く支えられた。
鼓舞するような言葉も聞こえてくる。
「アウレリア、よくやった!! あと少しだから、一緒に頑張ろう!!」
ハルトヴィヒ様の声だった。
ぽたぽたと滴り落ちる水に気付く。
どうやら全身に水を被って、私を支えにやってきてくれたらしい。
涙が出そうになる。
一度目の人生で、私が辛いときに、寄り添うように傍にいて励ましてくれる人なんて、一人もいなかった。
ハルトヴィヒ様はそんな人達とは違った。
私が本当に辛いときに、こうして駆けつけてくれるのだ。
「俺によりかかって! 大丈夫、きっと上手くいくから」
「は……い」
あと少し、あと少しだ。
状況はほんの少し前と変わっていないのに、ハルトヴィヒ様が傍にいるだけでまったく心持ちが変わっていた。
大丈夫、きっと上手くいく。そんな強い気持ちが芽生えたのだ。
そして――最後の火が吸収された。
魔石工房はすさまじい熱を発している気がする。
早く魔石化させなければ。
「――げっほ、げほげほ!!」
言葉を発しようとした瞬間、喉が痛んで声にならない。
「アウレリア、大丈夫!?」
傍にいるはずのハルトヴィヒ様の声が、遠く感じた。
早く魔石化しなければ。
声を振り絞り、呪文を唱える。
「――形成」
魔石工房から、ルビーみたいな美しい魔石が大量に溢れてきた。
ああ、もう、大丈夫。
そう思った瞬間、私は意識を手放したのだった。
◇◇◇
『まーちゃんはねえ、アウレリアが元気になったら、ピクニックにいきたいの!』
そんな言葉で、私は目を覚ます。
「まー……ちゃん?」
まだ喉が痛い。けれどもかなりよくなっているような気がした。
『アウレリア!?』
瞳を潤ませたまーちゃんが、私の顔を覗き込んでくる。
「ここ……は?」
『お家だよお!』
まーちゃんに言われて気付く。
ここは王都にあるアルテンブルク侯爵邸ではなく、リンブルフ辺境伯領にあるお屋敷だということを。
こうして眠っていたということは、私はドワーフ族の隠れ里で魔石工房を使って消火活動をしたあと、ここに運ばれたのだと。
「帰ってきてから……どのくらい……経っているのでしょう?」
『一日半くらい!』
今は早朝だという。
眩い朝日が、カーテンの隙間から漏れていた。
『みんな、呼んでくるね!!』
皆に報告するのは朝になってからでいい。
そう言おうとしたのに、まーちゃんは走り去ってしまった。




