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妹が「ずるい!」と言うので、二度目の人生は大公と結婚するのを諦めて辺境伯に嫁ぎます  作者: 江本マシメサ
第四章 ドワーフ族の里へ

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野営

 すっかり太陽は傾き、一日が終わろうとしていた。

 ブリーゼ様が空を見上げ、ポツリと呟く。


「ふむ、この時間帯の飛行は危険だな」


 なんでも上空には凶悪な魔物が出現するそうだが、出会う確率は極めて低い。

 ただしそれは日中に限るという。

 魔物の活動が盛んな夜は、遭遇率がぐっと上がるという。


「それに風も強い」


 リンブルフ辺境伯領内ではよくある強風のようだが、上空では制御不能になる場合があるという。


「そんなわけだから、今宵はこの場で野営をしようか」


 ブリーゼ様の決定に対し、ハルトヴィヒ様が心配そうに私を覗き込む。


「アウレリア、ごめんね。野営なんて初めてだろう?」

「ええ」


 屋根もない、布団もない、お風呂にも入れない。

 どうしてだろうか。そんな環境だが、不思議とわくわくしていた。


「心配はいらない。私は野営邸の持ち主だからな!」

「野営邸、ですか?」

「ああ、そうだ」


 説明するよりも、実際に目にしたほうが早いだろう。

 ブリーゼ様はそう言って、私の手のひらにミニチュアの家をちょこんと載せた。


「あの、こちらは?」

「その辺の開けた場所めがけて投げてみろ」

「は、はい」


 言われたとおりにミニチュアの家を投げると、魔法陣が浮かび上がって輝く。


「え!?」


 一瞬で、小住宅バンガローが出現した。


「これが魔技巧品、野営邸だ!」


 思わず拍手してしまう。

 まさか、家の出し入れができる魔技巧品が存在するなんて。

 ハルトヴィヒ様も驚いていた。


「うわあ、噂には聞いていたけれど、本当に存在していたんだ」

「ふふん、素晴らしいだろう? 私も最近手に入れたんだ」


 なんでもブリーゼ様が個人的に取り引きしている魔技巧師にオーダーメイドで造らせたものらしく、世界でも数個しか存在しないらしい。

 ただ、量産させる計画が進んでいるようで、すでに百個の製造が決まっているのだとか。

 ブリーゼ様は五十個ほど予約したという。


「購入するか? 今なら金貨五十枚で一棟売ってやるぞ」

「地味に高いって……」

「まあまあ、そう判断するのは早い。一度使ってみたら、よさがわかるだろう」


 こういう持ち運びできる家があれば、魔物討伐の遠征で野宿する負担が軽減するだろう。ただ、ハルトヴィヒ様が言うように、お値段が高い。


「そんなわけで、今晩はここに泊まって、一夜明けたらリンブルフ辺境伯邸に戻ろうか」

『まーちゃんも、入っていいの?』

「よいぞ」

『やったー!』


 想像していた野営ではなかったが、魔法の家に泊まる機会などそうそうないだろう。

 ありがたく利用させてもらうこととなった。


「見てみろ。外壁には魔物避けの魔法がかかっていて、安心構造なんだ」

「へえ、よくできているなあ」

「だろう?」


 内部は外から見ていたものよりもずっと広く感じる。

 木の温もりが伝わってきそうなリビングルームに、開放的なオープンキッチン。

 寝台が置かれたロフトの天井には、大きな窓がついている。

 風呂場に化粧室など、基本的に必要な設備が整っていた。


「うわ、すごいな。本当に立派な家だ」

「いつか仲間を招くことができるよう、広く造ってもらった」

「さすが、ブリーゼ!」


 ひとまず休憩させてもらう。

 私は王都で購入していた魔技巧品の茶器を魔法の鞄から出し、紅茶を淹れる。

 魔石ポットで湯を沸かし、茶葉を入れたポットに注いだ。

 お茶請けのクッキーは、アルテンブルク侯爵家の菓子職人が焼いたものである。


「どうぞ、召し上がってください」

「おお、アウレリア、気が利くな」

「いただきます」


 幼少期から親しんでいた実家のクッキーを食べると、心がホッと落ち着く。

 ハルトヴィヒ様やブリーゼ様も、おいしいと絶賛してくれた。

 紅茶もおいしく淹れることができたようで、練習したかいがあった。


「それにしても、ドワーフ族の里でのことは、想像通りだったね」

「まさか長老に出会うとはな、ついていない」

「おまけに鍛冶祭の開催期間だったようで」


 ドワーフ族の隠れ里はブリーゼ様がいないと立ち入ることができなかった。

 それだけでも高い障害をクリアしたのに、続けて試練が課せられるなんて……。

 ある程度想像はできていたものの、実際に目の当たりにすると、辛い部分もあった。


「困ったな。そもそも、通行証がないと入れないなんて」


 葉っぱ型の通行証によって、里がある空間が出現したように見えたものの、実際は魔法の力で隠れているだけだという。


「っていうことはつまり、ドワーフ族の隠れ里はあの森のどこかに存在する、ということ?」

「まあ、そうだな」


 ただそれも、魔法にかなり精通した者でないと見つけることができないようだ。


「ひとまず鍛冶祭が終わってから、再訪したほうがよさそうだ」

「それがいいよ」


 鍛冶祭は今晩から三日間、開催されるという。


「そういえば鍛冶祭って、どんなことをするんだろう?」

「三日間、火を絶やさず燃やして、踊りを捧げたり、酒を飲んだり、ごちそうを食べたりと、まあ、ドワーフ族にとっては神聖な儀式らしい」


 伝統的な祭事のようだが、若者衆は資源の無駄ではないか、と苦言を呈しているという。


「たしかに、三日間火を燃やすとなれば、薪もそうとうな量を消費するよねえ」


 この辺りは森が豊富にあるわけではなく貴重な資源だ。


「焚き火でなく、もっと別のもので神を称えられないか、と若者衆は訴えているようだが、頑固な老人衆が聞く耳を持つわけもなく」

「ドワーフ族の中だけでも、いろいろな考えを持っているんだね」

「そのようだ」


 若者衆と会うことができたら、交渉を持ちかけることが可能かもしれない。

 今はひとまず、鍛冶祭が終わるのを待つしかないようだ。

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