ドワーフ族の隠れ里
少し進んだだけで魔物に遭遇、戦闘開始となる。
私はハルトヴィヒ様やブリーゼ様、まーちゃんに守られながら魔石工房を用いて、魔石と魔物の素材を手にしていた。
「アウレリア、大丈夫?」
「みなさまのおかげでなんとか」
「ここから先も魔物は出現するゆえ、一瞬たりとも油断するんじゃないぞ」
「はい、ブリーゼ様」
明らかに私は足手まといだ。けれどもそういう扱いをせず、連れてきてくれた。
ハルトヴィヒ様とブリーゼ様に感謝するのは言うまでもない。
それから私を守ってくれる上に、魔石や素材集めを手伝ってくれるまーちゃんにも。
「ドワーフ族の隠れ里まであと少しだ。なんとしても耐えろ」
「はい!」
ブリーゼ様の導きで歩くこと一時間半――ドワーフ族の隠れ里に到着した。
が、そこは木々が生い茂り、これ以上進む先がない行き止まりだった。
「ブリーゼ、ここがその、ドワーフ族の隠れ里の入り口なのかな?」
「そうだ。ここはこうして開く」
ブリーゼ様が何もないところに一枚の葉っぱを投げ込むと、目の前の景色がぐらりと歪む。
目の前に広がるのは、ドーム状の家が並ぶ自然豊かな里。
どうやらここがドワーフ族の隠れ里らしい。
「本当に隠れて存在する里なんだ」
「ああ、そうだ」
なんでもドワーフ族が作る葉っぱ型の通行証がないと、里に出入りできないようだ。
外では子ども達が遊んでいた。
自動でぽんぽん跳ねながら転がる球を追いかけている。
普通の球でないことは一目瞭然だった。
「ドワーフ族の子どもは、遊びにも魔技巧品を使うんだなあ」
「そのようだな」
私達みたいな人間が珍しいのだろう。ドワーフ族の子どもはやってきた私達をじーっと見つめていたかと思うと、目が合えば「わあ!」と声をあげて隠れてしまった。
なんとも微笑ましい光景である。
里の中心には、薪が高く積み上がっていた。
「ブリーゼ様、こちらはなんでしょう?」
「鍛冶祭の儀式に使う焚き火かもしれない」
ドワーフ族の鍛冶祭とは火の神に感謝し、物作りが上手くいくように祈る祭りだという。 年に一度開催されるようで、ブリーゼ様は「タイミングが悪かったな」とぼやくように言った。
「鍛冶祭の期間中は、よそ者を里に入れないようにしているとか、なんとか言っていたような気がする」
「ねえ、ブリーゼ様、それって俺らはここにいてはいけないのでは?」
「まあ……そうだな」
ブリーゼ様は空を見上げ、遠い目をしていた。
「ちょっと、ぼんやりしていないで、早くここから脱出しないと」
「まあまあまあ、話がわかる者がいるかもしれないだろうが」
「話が通じないドワーフ族に会う確率も高いんだって!」
そんな話をしていると、背後から声がかかった。
「お前ら、そんなところで何をしている!?」
振り返った先にいたのは、長く立派な髭をたくわえた、ずんぐりむっくりした体つきのドワーフ族。
熟達した職人のような雰囲気から、老齢のドワーフ族であることは間違いない。
「今が鍛冶祭の期間中だと知っていて、のこのこやってきたわけではないよな!?」
わかっていたものの、歓迎ムードなどいっさいなし。
それどころか危機的状況にある。
「エルフ族の小娘と、リンブルフ辺境伯領の若造ではないか!」
『まーちゃんもいるよ!』
「まーちゃん?」
喋る巨大カワウソの登場に、怒る勢いが削がれたようだ。
けれどもそれは一瞬のこと。
「そ、それからそこの女は――!?」
「お初にお目にかかります。わたくしはアルテンブルク侯爵の娘、アウレリアと申します」
「お、おお、そうであったか……」
「今日が鍛冶祭の期間中だと把握しておらず、大変な失礼を働きました。心より謝罪いたします」
「ま、まあ、わかればいいのだが……」
少しだけだが怒りは収まったか。
ブリーゼ様が間に割って入り挨拶する。
「いやはや、久しいな長老よ。百年ぶりくらいだろうか」
「何を能天気に――!? もとはと言えば、お前がこの人間共を勝手に連れてくるのが悪いのではないか!!」
結果、火に油を注ぐような状況となる。
ここまで怒っている状態では、話を聞いてもらうどころではないだろう。
「ブリーゼ様、ここはいったん、下がったほうがよろしいかと」
「まあ、ふむ、そのようだな」
ハルトヴィヒ様が丁重に謝罪すると、ほんの少しだけ怒りが収まったようだ。
「去れ! このワシが我慢している間ににな!」
そんな言葉と共に、私達はドワーフ族の隠れ里から去ることとなった。
森に出ると、魔物が私達を待ち構えるように待っていた。
「うわあ、出たと思ったらこれだよ」
「来るぞ!!」
額から角が突き出た狼系の魔物、ホーン・ウルフである。
皆で力を合わせ、なんとか魔石化させることに成功した。
素材は狼の毛皮と角、それから牙に爪。
立派な物で、高価で売れるとブリーゼ様が教えてくれた。
「でもまあこの先、魔技巧品をいろいろ作るのであれば、素材も取っておいたほうがいいだろう」
「そうですね。ありがとうございます」
なんとか森を抜け、出発地点に戻ってくることができたのだった。




